見出し画像

【セミナー書き起こし】スタートアップにおけるCFOの役割と、CFOを目指すためのキャリア戦略

将来の起業家や経営者候補といった、未来の新産業をかたちつくる人(Shapers)に対して、継続的なキャリアの学びの場を提供する「Goodfind Career Recurrent College」。

今回のテーマはCFO。「スタートアップにおけるCFOの役割と、CFOを目指すためのキャリア戦略」というタイトルで複数社でCFOの経験をもつ大沼康宏氏にご登壇いただきました。

大沼 康宏
ネクストイノベーション株式会社 執行役員CFO
元公認会計士。
有限責任あずさ監査法人にて、社会人キャリアをスタート。主に、国内メガバンクへの会計監査業務及びM&A等のアドバイザリー業務に従事。
その後、当時創業3年目であった製菓ベンチャーである株式会社BAKEに参画、コーポレート担当執行役員として従事。主に、上場準備、コーポレート体制の強化、デッドファイナンス、M&A、海外展開時の戦略立案を担当。株式会社ビービットでは、執行役員CFOとして中長期全社戦略の立案に従事。
2019年6月よりネクストイノベーション株式会社に参画。2019年9月執行役員CFO就任。その他、2019年8月株式会社HiOLI社外取締役就任。


自己紹介と、これまでのキャリア

挿入図1

はじめまして大沼といいます。これまでのCFOというキャリアをいくつか経験してきました。
私のキャリアのスタートは監査法人で、メガバンク向けの監査会計業務やM&Aのアドバイザリー業務などを経験した後に、当時50名程度のBAKEに入社しました。そこでコーポレート担当執行役員となり、その後、ビービットという会社で執行役員CFO、現在はネクストイノベーションという会社でCFOをしています。

CFOの役割、ミッションとは

挿入図2

さて、CFOの役割とは何でしょうか?結論から言えば、企業や組織の座組によってだいぶ異なります。ただ大きく分ければ、2つに分類されます。一つはファイナンス部門のトップとしてのCFO、もう一つは副社長的な役割としてのCFOです。ファイナンス部門のトップとしてのCFOとは、ファイナンスの専門性を武器としてコーポレート全体を統括する人です。CEOの下にCFOが存在しており、事業部とは横並びです。後者の副社長的なCFOとは、例えばメルカリ・小泉さんのような立場の人です。CFOの下に事業部がくっついているというような組織図になります。個人的には後者のCFOの方が面白いんじゃないかと思っています。

優れたCFOは「顧客価値」「事業価値」「企業価値」を行き来する

優れたCFOは3つの能力を兼ね備えています。一つが、"価値"の行き来ができること。2つ目は戦略が描けること。3つ目は組織を通じて戦略を実現できることです。

企業における価値とはなんでしょうか。ここでは「顧客価値」「事業価値」「企業価値」という3つの価値について説明したいと思います。

「顧客価値」とは、ざっくり言ってしまえば売上です。売上とはユーザーや消費者にどれだけ、サービスや商品が喜んでもらえたか、ということです。つまりはお客様からの拍手の数です。

「事業価値」とは、事業の利益を考えるということです。私は利益とは、会社の努力と工夫の結晶だと思っています。P/L上の「売上高」がお客様からの拍手の数だとするならば、その下の「売上原価」「販売費及び一般管理費」の構成・アロケーションこそが、企業の創意工夫です。オフィスをどこにするのか、仕入れをどうするのか、人件費をいかに分配するのか。それが利益に紐付きます。私がBAKEにいた頃、ユーザーの拍手をもらうために、美味しい原材料にこだわりました。ただ、いかに安く仕入れるか、無駄なオペレーションを排除してコストを薄くするかも努力と工夫の対象です。

「企業価値」とは、企業が保有する事業の総和、集合体としての価値です。コングロ マリット・ディスカウントという言葉があります。コングロマリット・ディスカウントとは、複数の事業を営むコングロマリット全体の企業価値が、コングロマリットが保有する事業の価値の総和より、小さい状態をいいます。たとえばXグループというコングロマリットが、A(500億円)、B(300億円)、C(200億円)という事業を経営していたとして、Xグループ全体の企業価値が900億円だとするならば、事業をA,B,Cバラ売りにした方が合計で100億円の利益が生じます。つまり、A、B、Cの事業間でシナジーが生じていない場合、コングロマリットディスカウントが働きます。これは逆のケースもあります。例えば、ZOZO TOWNの買収金額は、買収元の企業によって異なります。それは誰が買うかによってシナジーが異なるからです。ヤフーがZOZOを買収した金額は、おそらく他社が買収しようとした金額よりも遥かに高いはずです。

よく目線をあげろ、という言葉が出てきますが、優れたCFOは視点の上下運動と、この価値の行き来が上手です。いまは顧客価値の話をしているのか、企業価値をあげるための施策はなにか、それぞれの目線から必要な打ち手を考えられるのが優れたCFOです。


企業の価値はどのように決まるのか。「純資産法」「DCF法」「マルチプル法」

挿入図3

さて、企業価値とはどのように決まるのでしょうか?企業価値を算出するには3つの方法があります。それが、「純資産法」「DCF法」「マルチプル法」というものです。

「純資産法」とは、B/S上の純資産を、そのまま企業価値とするものです。ファクトベースのもの、企業の実績となります。主に銀行とのやり取りなどで使われます。実績ベースなので、企業の過去に焦点を当てたものになります。

「DCF法」とは、将来にどれくらいキャッシュを生み出すことができるのかという考え方です。M&Aや、レイターステージのベンチャーが企業価値を算出する際に利用します。未来にどれくらいキャッシュを生み出すのか、という測定は過去からの成長率等に基づき算出します。過去120%ずつ成長している場合に、将来の業績を予測するには、将来における競合の状況や経済環境の変化の有無、アップサイド施策の実現可能性の高低等に基づき、過去実績である成長率120%をベースに、将来において成長率が120%も上がるのか、それとも下がるのか、を論理的に検討していきます。なので、一定の過去の観測値や実績のあるレイターステージのベンチャー企業が利用します。

「マルチプル法」では、実績のあまりないスタートアップやアーリーステージの企業価値の算出で利用されることが多いです。マルチプルとは類似する企業の企業価値から、当該企業の企業価値を算出するという方法で、「その時点における実績」と「その時点における将来への期待」との掛け算で算出します。詳しくは私のnoteにまとめていますので、ご興味ある方は読んでみてください。

ー(会場から)スタートアップだと利益自体が出ていない企業もあると思うが、そういった企業の企業価値はどのように算出するのか?

いい質問ですね(笑)
実は今の話は利益でのマルチプル、という観点でお話しました。ただし仰る通り最近のスタートアップは赤字を掘りつつも、資金調達しながら延命し、あるタイミングで一気に利益を創出し急激なスピードで収益化していくという事業展開が多いです。
そのように、まだ利益を出していない企業のバリュエーションを算出する場合は、利益ではなく「売上」のマルチプルを用います。特にSaaSプロダクトを開発提供する企業の多くがこの考え方を使って企業価値を算出しています。基本的な考えは先ほどと同様ですが、利益ではなく売上を利用する、という点のみが異なります。
余談ですが、この売上マルチプルが大きくできる条件、つまりはSaaS企業のバリュエーションが大きくできる条件というものがあります。シリコンバレーでSaaSビジネスモデルが研究された結果、ある特定の条件を満たすとセールスマルチプルが10倍以上つく例が出てきていたりします。
ポイントは、採算性の高いビジネスモデルである(ユニットエコノミクスが健全である)ことを証明できれば、あとは、売上高が成長(T2D3)しさえすれば、会社は長期的にCFを生み出すことができる。とてもおもしろい考え方なので、ぜひ勉強してみてください。

CFOとして戦略を描き、実行する

情報には森と木にしか価値がないという言葉を貰ったことがあります。森とは網羅的な情報、理論やまとめ、のようなものです。木は一次情報や、その人しか知らない情報やインサイト。一方で林は誰でも知っているような、Googleで検索すれば出てくるような情報です。

CEOの多くは原体験があり、自分がつくりあげた事業にとても情熱があります。どちらかというと「木」の情報に強みがある訳です。その「木」の情報を従業員や投資家にいかにわかりやすく伝えるかも、CFOの大事な役割です。「木」の情報としての強さを残しながらも「森」の情報として体系的に情報を整理し伝えるということです。私が現在の会社で最初にした仕事は投資家向けの資料をつくり直すことでした。それは、「いかにそのサービスが素晴らしいか」「ユーザーのためになっているか」ということを説明することはもちろんですが、投資家が正しく企業の価値を評価できるようなガイドをあてるためでもあります。これは社員に対しても良いメッセージとなりました。「自分が携わっているサービスの魅力がわかった」、「何を目指しているのか」、「何が重要なのかわかりました」という社員からの反響があったんです。優秀な社員であれば「森」という戦略があれば、勝手に自走しはじめます。戦術レベルでの打ち手の解像度も上がるわけです。起業家の翻訳家として体系化された戦略を届けることもCFOの重要な役割です。


CFOを目指すためのキャリアとは?

ー(会場から)CFOを目指す人がどのようにキャリアを選ぶべきか?

師匠がいる企業をまずは選ぶのがいいと思います。私が監査法人からベンチャーを選んだのは、すぐにCFOとして価値発揮することは難しいだろう、と思ったからです。ただ、自分の上に誰もいなければ、自分の成長が会社の成長となってしまう。それよりも、師匠と言える存在がいて、その人の元で修行した方が近道だと思いました。あとはリスクサイドをいかに消すか。私は公認会計士という資格があったので、仮にベンチャーに転職して失敗しても、元の監査法人に戻れば、出世している昔の後輩の部下になるくらいで、あまりリスクはないと思いました(笑)

最初にBAKEを選んだのは、転職市場として人気が高くレッドオーシャンではない製菓業界というレガシー産業で、師匠と優秀なプロ経営者がいたからです。確かにIT企業のように急成長するベンチャーも魅力的でしたが、その分優秀な人材が集まりやすく、それが故に役割が分割され、全体感がなくなってしまうことを恐れました。それよりはじっくりと全体を俯瞰しながら、役割を拡大できるような時間と経験が確保できた方がいいだろうと。私のBAKE時代の師匠は、西尾修平さん(元・BAKE社長)という人物でした。ファイナンスの知識があることはもちろんですが、経営者としての経験も豊富で、組織を通じて、会社一丸となって戦略を実行するかっこいい経営者でした。

経営経験が豊富、というのは意思決定の根拠が体系化されている、ということです。だから早くて正確なのです。例えば、経営者の部下からあがってくる相談の判断軸は、主に3つあって、「納期を遅らせるか」「クオリティを下げるか」「時間を金で買うか」で、どの選択肢をとるか、もしくは取らないのかが重要である、という話は、いまでも大切な経営の判断軸になっています。ただ、もちろん最初からうまくできた訳ではなく、当初は「3時間でやって」と言われた仕事に丸2日かけることもありました。ですが昔の自分が愚直にやり切った結果今があります。たとえば「参考書籍を20冊教えるから、2ヶ月後にすべてを読んだ感想を出してごらん」と言われたことがあるのですが、こういうことをひたむきにやり切ったからこその今だと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?