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2020年度グッドデザイン賞 審査の視点セミナー [建築(住宅)分野] レポート

5/18に、グッドデザイン賞への応募を検討中の方に向けたオンラインセミナーを開催しました。
今回は、審査副委員長と審査を実際にご担当される審査委員をお招きし、「建築(住宅)分野」に特化したお話をお伺いしました。

【2020年度グッドデザイン賞 審査の視点セミナー [建築(住宅)分野] 】
日時 2020年5月18日(月)16:00 - 17:30
パネリスト 齋藤 精一さん(2020年度審査副委員長)、篠原 聡子さん(2020年度審査委員)、手塚 由比さん(2020年度審査委員)、原田 真宏さん(2020年度審査委員)
ファシリテーター 山﨑 健太郎さん(2020年度審査委員)

なお、当日の録画はYouTubeでも公開していますので、全編をご覧になりたい方はこちらからどうぞ。

「こういう住み方もいいよね」と共感ができるような提案

山﨑 それではまず、グッドデザイン賞住宅審査の基本となる視点と考え方についてお話しください。

手塚 応募者がハウスメーカーやデベロッパーやアトリエ建築家であったりと多様な分野ですが、注目していることは、いまの社会の既成概念から少し抜け出して、新しい提案をする・生活や社会がより良くなるように踏み出そうとする視点があるかどうかです。
例えば、戸建住宅でもそれが一つ建つことで街や地域が変わるような提案ができる。居住者以外に地域の人が集まれる提案がある集合住宅、さらに団地の空室をサービス付き高齢者住戸に変えて高齢者と一般の世帯が一緒に暮らせるようにして、空室問題もプラスに変えるような素晴らしい提案もありました。視点を変えることで社会の問題を改めたり、こういう住み方もいいよねと共感ができるような提案を期待しています。

篠原 大規模な集合住宅は地域や街並みに与えるインパクトが大きいという自覚が重要です。景観の観点から、建物単体でなく、その両側や向かいや足元といった、立地特性・近隣との関係性を考えることが必要です。さらに集合住宅ができることでコミュニティを活性化する効果も重要で、地域との連携が積極的に考えられているケースが増えているのは好ましい傾向です。
こうした共用部に関わる提案とともに、専有部のあり方に関して、他の住宅へ波及的な効果を持つ、普遍的な、いまの社会や時勢に沿った提案も必要です。
近年の潮流として、これまでは機能に応じた区画が必要だったものが一つの建物に集約されるなど、建築とプログラムが融合することで、縦割りのビルディングタイプが溶け出すかのような、集合住宅の新しいタイプが期待されています。開発に時間を要することが前提であるがゆえの「時間に対するアクセシビリティ」の提案も、大規模集合住宅だからこそ期待されます。

原田 自分のクライアントのためだけでなく、関わっている人—周辺地域の人、前を通り過ぎているだけの人、それらの人たちの気持ちをくみながら建築を生み出すことが大事です。いかにうまく売り抜けられるか、という見立てが大事なのではありません。
世間で問題視されている事柄に対していかに対応ができているか、マイナスとされることを転じてプラスにできているか。それができることで喜ばれるような建築が望まれます。

「足元は街並みに貢献する」

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篠原 デベロッパーへの期待として、一階の作り方があります。海外だと集合住宅の一階には商業施設を必ず入れる、公共要素を取り入れるといったルールも結構あります。「足元は街並みに貢献する」という発想です。日本は法規的にも同じように機能をミックスしづらいのが残念ですが、プログラムとして一階の作り方をどのようにするかを考えてほしいです。

山﨑 最近は戸建住宅でもいろいろな機能を複合したり、使い方を住まい手に委ねる傾向がみられます。そうした傾向について審査において考えることは。

手塚 戸建住宅や小規模な集合住宅でも機能の複合化は増えています。一階をあえて街に提供するような作りで、そこでいろいろなことをしたくなるような、地域の魅力を積極的に創出しようという動きがみられます。特に新築でなく、リノベーションによって街の光景を変える動きがみられるのは注目できますね。

新しい住宅のスタンダードにつながる、社会を前進させる動き

山﨑 そうした動きにおいては、建築の設計者だけでない、多領域の人々によるオーバーラップという意義も強そうです。

齋藤 住宅の機能を地域に提供する動きはスタンダードになっていて、そのときに大事なのはなるべく解像度を上げることだと思います。街がどうであるのか、そこに暮らす人はどうなのか、周辺にはどのような景色が広がっているのか。それらを解像度を高くして見ることで、戸建・集合を問わず望ましい住宅の姿が見えてくるように思います。

山﨑 新しい住宅のスタンダードにつながる、社会を前進させる動きが進んでいるようですが、個別解を見出すことが役割ともいえる建築家の仕事はグッドデザイン賞においてはどのように捉えられますか。

原田 建築家はまだ誰も見たことがない合理的なものを作ります。それが普遍的な解決を導き社会に貢献できることなので、グッドデザイン賞としてもっとも期待したい点です。一方で、誰もが好きになれる「実質的な質」が問われるという部分で建築が勝負できるのもグッドデザイン賞のポイントです。それこそ腕時計や車などと一緒の土俵で建築が捉えられる機会は他にあまりないので。

境界をいかに無くしていくのか

山﨑 住まいのデザインという観点で、最近のサービス付き高齢者住戸にみられるような新たな目的性を持った住まいのあり方に関して、どのように社会に実装されるとよいか考えることはありますか。

手塚 境界をいかに無くしていくのか、これまでのビルディングタイプを取り払って考えていくことが大事だと思います。作り手の論理に陥りがちなところを使い手の論理にいかに焦点を合わせられるか。私たちは「ありそうでなかった当たり前」とよく言いますが、どうしてこれまでなかったのだろう?と感じられるような建築を、既成概念を取り払いながら考えていくことが大事ですね。

山﨑 コミュニティの構築や建築機能の複合化に関してはどうでしょうか。

篠原 都市に集合住宅が大量に供給されて以降、共用空間を充実させることがコミュニティ形成になると考えられてきました。しかし空間を作るだけでなく、ソフトの運用との相互関係がなければ機能しないため、建築のプログラムとソフトのプログラムがどれだけ混在できるかが課題です。
混在といえば、世代の混在と職住の混住が大きなテーマになりますが、それを建物の規模で達成するのか、より大きな都市開発の規模で達成するか、その違いによってもさまざまな提案ができそうです。

山﨑 使用者、設計者、運用者、いろいろな立場の人の間に交感が生じることで、いい正解が導かれるように思います。副委員長として「領域の横断」という観点からそれに関して述べていただけますか。

齋藤 経済合理性に基づいてハードウェアを作るたけでなく、人間を中心にした営みを作るという視点で、グッドデザイン賞は建築とともにソフトの質にも着目します。さらに、建築は社会に影響を与える装置として最大スケールの一つなので、そこに携わる人の想いを読み取ることも、グッドデザイン賞の重要なポイントになります。

100年後も美しい建物として街の中にあり続けるようなデザイン

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山﨑 グッドデザイン賞の審査に則したことから少し離れて、この賞にともに参加しようと考える多くの皆様に対するメッセージをいただけますか。

手塚 建築としてのハードの充実は大事です。社会的インパクトの強弱によらず建築物として地道な努力の中で導かれることには意義があり、その積み重ねの中からも少しずつ社会が前進していけるはずです。

篠原 集合住宅を構成するさまざまなエレメントがあり、それらは付いていて当然なのですが、その一つひとつがデザインの対象であるので手を抜かずに洗練をさせていくことが求められます。
直近の傾向やマーケットの動向に影響されるのは当然であっても、長期的な視点に立ち、100年後もそれが美しい建物として街の中にあり続けるようなデザインをしたいものです。

原田 「蓄積しない建築」を作るべきではありません。デザインは根本から解を見つけ出す行為なので、いまは特に大事なタイミングだと思います。

齋藤 デザインはいままでありそうでなかった、新たに必要とされることを生み出します。そうしてデザインが社会に呼応しながら成長していくために、いまデザインを担う人たちが大きなうねりを作っていけるとよいと思います。
新しいことを始めるのは大事ですね。建築であったら建物を作る、仕組みをまとめるだけでなく、必要であれば他にもアプリやソフトなどを開発する。それらをすべて「美しく」してほしいです。自分たちにそのノウハウがなければ他の領域の人とコラボレーションしながら、美しく、有用で、よりよい社会をかたちづくるものを作っていきましょう。

2020年度グッドデザイン賞へご応募を検討されている方は、下記もご参照ください。
住宅建築の審査において重視する点、評価のポイント
https://www.g-mark.org/news/2020/n_20200519.html