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グッドデザイン賞が新しいデザイン賞を始めました!

グッドデザイン賞では、このほど学生・新卒者が応募できるアワードグッドデザイン・ニューホープ賞」を新設し、5月11日より第一回の募集受付を開始しました。

グッドデザイン・ニューホープ賞 【応募期間 2022年5月11日〜7月15日 】

グッドデザイン・ニューホープ賞」は、将来のデザイン分野を担う若い世代の活動を支援することを目的としたまったく新しい賞です。
本賞では、現在在学中の学生や卒業直後の新卒者が、在学中に制作した大学などのゼミの課題制作や卒業制作、自主研究などのデザインで応募できることが特徴です。
他の学生・若手デザイナー向けのアワードのように、テーマの設定があって、それに沿って賞のためになにかを制作する必要はありません。
詳細は公式ウェブサイトよりご確認ください。

先日5月23日に、本賞設立にあたり、賞の目的やこの賞が目指すところ、どのような応募を期待しているのか、について審査委員をお務めいただく4名の方から、お話を伺うキックオフ・トークセッションを開催しました。

オンライン・トーク:グッドデザイン・ニューホープ賞キックオフ・ナイト
【日 時】2022年5月23日(月)20:00 〜 21:30 
【パネリスト】※50音順
安次富 隆 氏(審査委員長:プロダクトデザイナー/ザートデザイン 取締役社長・多摩美術大学 プロダクトデザイン専攻 教授)
齋藤 精一 氏(審査副委員長:クリエイティブディレクター/パノラマティクス 主宰)
佐々木 康晴 氏(審査委員:クリエイティブディレクター/電通 執行役員)
林 千晶 氏(審査委員:プロジェクトマネージャー/ロフトワーク 共同創業者)

今回は、その内容の書き起こしをここで皆さまにお届けします。
セミナーの様子はzoomウェビナーのアーカイブ動画でご覧いただくこともできます。

 今回、グッドデザイン賞が学生・新卒者を対象にした新しいデザイン賞を始めたと聞いて、また、審査委員として関わらせていただくことになって、どんな才能に出会えるのか私自身も今からとても楽しみにしています。
まずは審査委員長の安次富さんに、ニューホープ賞設立に対する思いをお伺いします。

安次富 まず皆さんは「グッドデザイン賞」とGマークはご存知だと思います。グッドデザイン賞は戦後、日本の主に工業製品の品質を高めるために国が設けた認証制度で、良い「製品」を世の中に出していこう、という目的で作られました。時代の流れとともに、日本製品の品質は向上し、なかでも「デザイン」がさまざまな分野で使われるようになっていきました。例えば、建築もデザインの1つですが、サービスや仕組みのデザイン、あるいはインフォメーション・デザインなど、あらゆるところでデザインという言葉が使われるようになっていきました。その過程において、グッドデザイン賞が審査する対象も、最初は製品のデザインだけだったものが、今では建築や、仕組みやサービスといった形のないものも審査されるようになってきました。
「デザイン」が、「私たちの暮らしをより良くするためにどうすればいいか」ということを、アイデアを考えてそれを具体化していくということだと捉えられるようになってきたんですね。
だから、「デザイン」というのは、何かモノを作って私たちの生活をより良くするということもあるし、サービスを提供することによってより良くする、ということもあります。「デザイン」の認識がそのようにして広がっていくことによって、「デザイン」に対する世間の期待値も上がってきたのが現在の状況だと思います。
とはいえ、グッドデザイン賞が審査対象にしているのは、もうすでに社会に実装されたデザイン、あるいは近々実装されるであろうデザインです。
学生では、課題やプロジェクトなどで「デザイン」の企画やプロトタイプをつくることはあっても、なかなか「実装」となると難しい。だから、この新しい賞に、今からデザイナーを目指す、あるいはデザインに関わりたいと思っている学生の皆さんに参加していただくことによって、グッドデザイン賞がこれまでに培ってきたプロの世界とのコネクションをつなぎ、より学生の皆さんのデザインの力を高めたい、というのがこの賞のコンセプトの根幹だと思っています。

 ちなみにこのニューホープ賞では、グッドデザイン賞と審査委員長・副委員長を兼任されていますよね。そこにも何か意図があるのでしょうか。

安次富 今、お話ししたように、プロの世界と学生たちを接続したいという気持ちがあるので、グッドデザイン賞とニューホープ賞では審査メンバーもあまり大きく変えたくないと思っていました。それは、実際に社会に実装されたデザインを手掛けるプロの世界であるグッドデザイン賞と、ニューホープ賞に応募される学生の創造性をできるだけ同じ目線で見たい、という思いからです。
私自身が大学で教鞭を執っている中で実感として持っているのは、学生たちのアイデアやデザインは優れたものがたくさんあるということです。それらを僕ら大人は、後押ししなければならないと考えています。それをこの賞を通じて実現していければいいなと思っているんです。
両方を同時に見ている人がいたほうが同じ目線に合わせることができるので、今回、審査委員長と副委員長は両賞を兼任することになりました。

 「デザイン力を高めるために今回ニューホープ賞を作った」というコメントがありましたが、プロのデザイナーからみると、「学生のデザイン力なんてそんなにないんじゃないの」と思われている方もいらっしゃると思います。そのあたりはいかがですか。

安次富 いい質問ですね。グッドデザイン賞のほうは、実際に社会実装されている、あるいはこれからされるものですので、どうしても現実的デザインになるんですね。「これは実現できないよね」というものはグッドデザイン賞は受賞できません。
学生の作品というのは、現実性よりも将来性というか、今はできないかもしれないけれども、将来できるかもしれないという夢を与えてくれるものだと思います。
ちょっと僕自身の話をしますが、僕が学生のときに提案した作品を見たある先生から「これはできない」と言われたんですよ。僕としては発明したつもりだったのに、こてんぱんにやられて、すごく落ち込みました。ところが会社に入って、社会に出て5年後に、まったく同じアイデアのものが製品化されて出てきたんですよ。
未来というのは誰もが予測不可能です。ですが、プロフェッショナルになった今思うのは、自分ができなかったから、あるいは自分が知らないから、「これはできない」と切り捨てるのではなくて、学生たちの優れたアイディアやデザインをプロも一緒になって考えてあげるのが筋なのかなと思っているんです。できる/できないの話ではなく、どうやったらできるか一緒に考えよう、というスタンスがとても大事だと思っています。

 なるほど。そこは、どういう応募を期待するのか、ということにもつながってくるので、またあとで詳しく聞かせていただければと思います。では次に齋藤さん、いかがでしょうか。

齋藤 1957年にグッドデザイン賞というシステムが生まれて、工業製品の安全性や性能を評価したり、社会課題に対してどう取り組んでいるかというところから始まりました。最近のグッドデザイン賞の中でも、背景にある社会課題の見つけ方やそれに対しての取り組み方法が、評価されるようになってきています
コロナ禍になって、既存のいろいろな方程式が崩れた気がしています。今までだと、こういう問題に対してはこう立ち向かうべきだというような「型」があったようなことも、それが崩れて、いろいろな取り組み方が生まれてきたように思います。
学生さんたちの卒業制作作品などを見ると、デザインに関わるプロの立場からだとなかなか出せないアイディアが多く見受けられます。ニューホープ賞自体が、そういった新しい視点や、プロが無意識に回避してしまっている方法を持った学生と出会える場になるといいなと思っています。
今回このニューホープ賞で、非常に大きく期待しているところは、おそらく本体のグッドデザイン賞の中からは出てこない解決方法や視点、手法がたくさん出てくるだろうなという点です。
安次富さんと僕の体制で委員長・副委員長やらせていただいていて3年になりますが、グッドデザイン賞と教育が、何かしら接続できないかという話は、その間ずっと議論してきていました。
グッドデザイン賞の過去すべての受賞対象をウェブサイトで検索ができるといった機能もあって、そこで受賞した優れたデザインに触れていただきたいということももちろんありますが、こういうアワードを作ることで、必ずしも美大のデザイン学科じゃなくても、建築学科や経済学部でも、それぞれの学生の皆さんの視点からの解決方法や取り組み方を見出して、つながって、一緒に新しいデザインを盛り上げていきたいと思っています。
学生の視点から見ると、もっと社会実装という点で企業を取り込まなければいけないものも出てくる可能性も大いにあるので、グッドデザイン賞本体との接続性もそこで生かしていければいいなと思っています。
僕自身も建築学科の出身で、卒業制作は空中都市についての作品を作ったのですが、当時の先生にはいろいろと心が折れるようなコメントをいただきました。だけど実はそのときの自分の視点というのがいまだに僕の中では流れていて、それとどう付き合うかみたいなことをずっとやってきました。だから実はそこに大きな種があって、それをつぶしたり、折ってしまうのではなくて、もっと高めていくというきっかけに、このニューホープ賞がなれればいいなと思っています。

 齋藤さんの今の発言からも、ニューホープ賞が新しい視点を見出す可能性や、プロのデザイナーが無意識に避けてしまっているかもしれないことが、むしろ学生にはなくて、だから対等な立場でいいアイディアと出会う場を作る、ということにすごく意味があるんじゃないかと感じました。むしろ本当にグッドデザインの新領域というぐらいのイメージで、ニューホープ賞を作ったのかなという感じがしました。

齋藤 おっしゃるとおりで、やっぱり僕らでは見えていない風景が絶対にあると思います。

 その中でグッドデザイン賞と教育がうまくつながれば、というような話も今、齋藤さんから出ていました。私がMITメディアラボで教えていたときに、当時の所長である伊藤穣一さんが「『教育』というのは教える立場の言葉で、『学び』という言葉こそが本当に学びたい人たちの言葉だ、だとしたらMITメディアラボは教育機関ではなくて学びの機関になろう」と言って、educationではなくてlearningだというふうに言っていたことがすごく印象に残っています。
実際に今の学びの現場を見ている立場で、どういう感覚を持っていらっしゃるのか。そしてそれがどういうふうにグッドデザイン賞と結び付けばいいと思っているのかというところ、もう一歩深く聞かせてください。

齋藤 最近だとPBL(Project Based Learning)みたいなものを学校の中で取り入れる場合があります。また、カリキュラムとしてではなく、学生が有志でボランティアに参加したり、もしくは勉強会に参加してワークショップで一緒にプロジェクトを作っていくみたいなものがあると思うのですが、学校の役割も少しずつ僕は変わっているかなと思います。「教育」という上から降らせるものではなくて、自ら学ぶ「learning」という点で、たぶん大きく変わっていくというのが、ニューホープ賞を始めるタイミングでもあったのかなと思います。
せっかくMITの話が出てきたのでもう1つ、僕がメディアラボの考え方で好きなのが、「antidisciplinary」という言葉です。interdisciplinaryという言葉はよくあって、要は分野横断主義みたいなことを言うのですが、「antidisciplinary」は「アンチ」なので、非分野主義・脱専門性ということです。たとえば、経営学部だったらもちろん経営の勉強をするし、建築学科だったら建築の勉強をやっているのですが、それを軸にいろいろな方向を見てもいいと僕は思っています。どこかのタイミングで、どうやって何を使うのかみたいなhowを教わることも、ベーシックで大事なことだと思うのですが、その道具を手に入れた瞬間に、たぶん自分の想像をアウトプットできるようになるはずなんですよね。
僕も学生のころ、アワードには何回か応募しましたが、自分の考えを編集してまとめるという意味では、すごくいい機会になると思います。
ぜひこれを聞いている学生の皆さんには、自分の中で「僕はこうするべきだと思う」という視点を持ってもらえればと思います。僕はそれを本当にこれからの学び方の1つだと思うので、そういうところに期待しています。

 ここからは、具体的にどういう応募につながってほしいのかということに話を進めていきたいと思います。今回、審査委員としても関わっていらっしゃって、ニューホープ賞のロゴマークとステートメントの開発にも携わられた佐々木さんに、お話を伺います。ロゴマークのデザインにどういう思いがあるのかということも含めて、どういう方たちに応募してほしいのかということをお聞かせください。

佐々木 ウェブサイトは、下にちょっとスクロールするとステートメントがあるんですが、まさにこの「これからの世界をつくる才能と出会いたい」というのが、何よりもこのアワード立ち上げにあたっての僕らの気持ちでした。著名なデザイナーと学生の違いは別にないというか、立場は対等だと思っています。違いがあるとしたら、何のバイアスもないし、全く新しい「まっさら」な世界にいるのが学生の皆さんだと思います。その「まっさら」な皆さんに、デザインの枠組や決まりや権威などを全部越えて、次の世界を見せてもらいたいと思ったんです。

グッドデザイン・ニューホープ賞公式ウェブサイトより

 佐々木さんもそういう意味では、この賞では、学生のうちからこういうふうに勉強しておくと、グッドデザイン賞にも応募できるようになるよというような、そういう「準備」というのではなくて、むしろ学生に本当の意味で期待しているという、そういう気持ちでこのロゴも作られたんですか。

佐々木 まさにそうです。正しく勉強して練習して、答えが出せるように強くなりましょうみたいな世界は、結構前に終わったんじゃないかと思います。さらにコロナもあったりして、もっと変わったのかなと思うんですね。もう今は、世界中が解けない難しい問題だらけです、正しく解こうと思ってももう解けません。だから、これまでのやり方で正しく解けないのだとすると、まず解き方が、視座が違う人でなければ、もしかしたら解けないんじゃないかと思うんです。古いおじさんの視点では、もしかしたらもう凝り固まりすぎて正しい解き方が思い付かないんじゃないか。
とすると、学生の視点で、真っさらな立場で「あれ、これはここが問題じゃないの」とか、「じゃあこんな解き方してもいいんじゃないの」という、そんなフレッシュな気持ちをむしろ学生から見せてもらいたいと思っています。そうするとデザインの多様性も広がるのではないでしょうか。こんな解き方してもいいんだ、こんな課題に立ち向かってもいいんだというところから、見せてほしいなと思っているんです。

グッドデザイン・ニューホープ賞ロゴマーク

だからロゴの話で言うと、この賞に応募されるもの/受賞するものは、既存のデザインの枠組を軽々と越えていって、出てきたデザインが「これは果たしてデザインなのかな?」という議論になるぐらいでもいいと思っていて、そういう新しいデザインの意味や形を見せてもらって、今までのデザイン業界みんなの刺激にしてほしいと思っています。
だから、ニューホープ賞はグッドデザイン賞でもあるんですが、でも全然これまでのグッドデザイン賞と違うぞという気分でもあります。
それで新しい刺激が世の中にここから生まれたぞという気持ちで、ちょっと稲妻のようなNのような形のロゴにして表現しました。
でもさっきも言ったように、頑張って勉強して、しっかりといいデザイン作れるようになろうということではなく、学生というフレッシュな立場の人たちに、全然違う課題を見つけてもらって、全然違う解き方をしてもらいたいという、そこが一番期待しているところだと思います。

 私自身も100BANCHとか渋谷QWS(キューズ)のような、若い人たちがこれから100年続いてほしいサービス、あるいは夢をかなえましょうというコミュニケーションに携わっています。
その中で100BANCHでは「35歳以下の夢をかなえましょう」ということで、いろいろなアイデアを求めています。そこから学ぶことは本当にたくさんあって、この人たちの着眼点はもう私たち以上です。ただ、それを実装する力が足りない人も中にはいます。だけどそれはいくらでも、その力を持つ人とコラボレーションすればいいと私は思っています。そういう意味では、ニューホープ賞の審査委員として、そういった新しい視点を持つ人たちと出会えることが私はとてもうれしいなと思っています。

安次富 ニューホープ賞では、応募できるのは「学生、もしくは新卒1年以内」という規定はありますが、年齢制限は設けていません。なぜかというと、もうすでにある職業に就いていたんだけれども、もう一回ちゃんと学び直したいと言って、30過ぎてから大学に入ってきた学生もたくさんいます。今やダブルメジャーも当たり前で、デザインというのはいろいろな分野に開かれていっているので、いろいろな期待値も高まっています。例えば外科医の方がデザインを学んで、自分の道具は自分で作るという方もいます。

 なるほど。でも「年齢は関係ない」という考え方と、「とはいえ年齢は関係あるよね」という考え方、両方あるかなというふうにも思うのですが?

安次富 そうですね。だけど、90歳越えているのに若々しい人もいれば、20代なのにお年寄りみたいな考え方を持っている人もいます。肉体的には確かに年齢というものはあるとは思うのですが、思考的にはそれほど年齢差というのはないのかなと僕は思います。ある程度、経験値という問題などはあるかもしれません。だからそういう意味では「関係ある」かもしれないですが、デザインをする上で大事なのは、経験値よりも発想だと思うので、足りない部分を補うという意味でも、そこでいろいろな人が絡むというのがすごく大事だと思うんです。学生でも、すでにスタートアップで起業している人たちもいますし、学生と言ってもいろいろです。だからそういう意味では年齢は関係ないのがいいなと思っています。

齋藤 学校に行くのというのは、自分が持っていない何か道具、もしくは視点や専門知識だったりを手に入れに行くことなんだと僕は思っています。海外だとPost-professional degreeといったような、要は社会に一回出てから、もう一回教育に戻って新しいことを学ぶということが多く行われています。今までのバックグラウンドがあるからこそ、新しい提案ができるという側面もあります
年齢によって見えてくる景色というのはたぶん違うじゃないですか。見えてくる問題も違うし解決方法も違うし、コミュニケーションの方法も違う。だからそういう意味では、年齢というところを一度たがを外して、学校にもいろいろな年齢の方がいらっしゃるので、その部分で出てくるものはいろいろなバリエーションがあるだろうなと期待しています。

 だから「学生、もしくは新卒1年以内」という条件が設定されているんですね。それは年齢ではない、と。ただ、現状は学生あるいは新卒1年以内というのは、とくに日本では22才~24才が多いということは間違いない。
ただ、今後まさに「学び直し」ということを提案していければいいなと思いますし、だとすると10年後のニューホープ賞は、20代ぐらいの人たちと、学び直しで来た大人な人たちが半々ぐらいになっていたりするのかもと思うと、楽しみになってきました。佐々木さんはこの辺りについていかがですか。

佐々木 僕も年齢は関係ないというか、むしろ多様なほうがいいなと思っています。若いひとたちだけでも答えが偏っちゃうかもしれないし、いろいろな世代がいたほうがいいと思っています。何歳でも、新しいことを学び直したあとにはフレッシュな気持ちになるんじゃないかと思います。この新しいスキルで何かやりたい、といったような、そのフレッシュネスがとても大事です。だから年齢は関係ないけれども、でもいろいろな人がいたほうが絶対面白いことが起きるとは思っています。

齋藤 少し前までは、どこもかしこもどの分野でも、「若手」をみんな探していたわけじゃないですか。いろいろなところで若手を発掘しよう、若手をバックアップしようというのを言っていたと思うのですが、ちょっと前から変わってきたのかなと思います。情報インフラ的にもっと解像度が高く見えるようになった。
今の時代は、どちらかというと年齢というよりも、哲学というか、その人が持つ社会に対する価値観、アティテュード・姿勢に出てくるのかなと思っています。
だから、若手と言ってもたぶん今は20代=若手というわけではなくて、たぶん50代でも70代でも若手になれるんじゃないかなと思います。新しいアイデアなりデザインが出せる人というのは、その分野で今まで無理だろうと思われていたところを、越境してできるような視座を持っているんじゃないでしょうか。

 なるほど。ちなみにニューホープ賞では、応募する際にカテゴリーが分かれていますよね。

安次富 4つのカテゴリーに分けて募集しています。物のデザイン、場のデザイン、情報のデザイン、それから仕組みのデザインです。これは実は、ざっくり大きく分けるとグッドデザイン賞本体のカテゴリーと一緒です。
グッドデザイン賞のほうは、応募件数も膨大な数が来ますので、どうしてもある程度細かくカテゴライズしないと審査できないんですよね。今年、ニューホープ賞でどのぐらい応募してくださるか分からないのですが、初年度でもあるので、ざっくり4つに分けているというふうにご理解いただきたくて、内容的には考え方はグッドデザイン賞と同じです。

 ちなみに「情報」と「仕組み」というと、結構近いのかななんていう気もするのですが、いかがでしょうか。

安次富 情報のデザインと仕組みのデザインは違いますよね。情報は「どうやって人に伝えるか」だから、UXとかインターフェースとかそういうものになると思います。仕組みというのはサービスなので、代表的なのは、2018年度にグッドデザイン大賞を取った「おてらおやつクラブ」がありますが、ああいうのはもう完全に仕組みのデザインです。装置としてのお寺とかそこに提供するおそなえものとかというものは介在するけれども、全く画期的だったのは、お寺というものを拠点に貧困の家庭の子どもたちにおやつをあげるという仕組みを作ったわけです。

2018年度グッドデザイン大賞「おてらおやつクラブ」

 なるほど、よく分かりました。佐々木さんはどういう応募を期待するかというの、いかがですか。

佐々木 やっぱり年齢を問わず、学生の立場で見ている違う世界、それがジェネレーションZな世界かもしれないし、学び直したから見える世界かもしれないですけれども、その違う視点で見えた課題設定を僕は一番見たいなと思っています。
昔は、例えば燃費のいい車を作りましょうといったような課題が決まっていて、それに対して答えをみんなで一生懸命出すという、そういう時代もありました。
今はもう課題だらけの中で、どこを課題とするか、何を課題と捉えるかというところが、結構一番大きなポイントなのかなと思っています。
だから、面白い課題設定をしている人がいたら、まず「おっ!」と思って注目したいと思います。解き方とか技法は、確かにこれから経験が必要だったりするかもしれませんが、それはこれから積み重ねていけばいいと思います。実は、その視点の違いからくる課題の設定とか、その解き方の糸口みたいなところが、応募のときに一番とがっていてほしいなと思っています。
そこがすごければ、細かい仕上がりや、技術的な未熟さは、大目に見るとは言いませんが、そんなにそこは問わずに見たいと思います。違う視点から見える違った課題設定、そして違う解き方という辺りに、とがった応募を期待しているという感じです。
4つのカテゴリーの話がありましたが、僕はあまり細かい分け方に実はこだわっていません。デザインと言った瞬間に、それはプロダクトかなとか、それはもしかしてグラフィックとか形かなとかというふうに思わないで、自分が考えるのであれば何でもデザインだと思って、応募してほしいですね。あくまでも便宜的に全然違う方向の4つのカテゴリーを設定してみただけなので、当てはめればどこかに入りそうな4つだと思います。だからデザインじゃないかもしれないけれども、こんな課題に立ち向かった、とか、こんなものがまだ世の中にないかもしれないから問うてみたい、みたいなものを応募してほしいですね。

 グッドデザイン賞では着眼点を問われることもありますが、とはいえ社会実装されていることというのがグッドデザイン賞では1つの決め事ですよね。着眼点は面白いけれども、これは社会に入っていっていないよね、だから金賞にはならないとか、そういう判断が審査をする過程の中でどうしても生まれてきます。
その中で、ニューホープ賞ではこういう解き方もあるんだという着眼点を重視するということは、ほとんど社会実装されていないということに等しくなってしまうのか、それとも社会実装と着眼点というのは別々で両立することができると思っているのか、その辺りについてもう少し詳しく聞かせていただけますか。

佐々木 今回のニューホープ賞の場合は、応募できる方の対象が新卒と学生の方ですので、ほとんど社会実装していないケースが多いと思います。ちょっとだけ自分たちで作って売ってみましたとか、もう使われている場所がありますというように頑張っている人もいるとは思うのですが、多くは実装されていないと思います。だから社会実装されているかされていないかというファクトは、そんなに問わなくていいかなと僕は思っています。
ただ、意外な課題設定、意外な答え方が、これはもしかしてあの企業とこの技術で作ったらできるのかも?といったような、少しでもその道筋が見えるんだったら、僕はもうそれでいいなと思っています。
「夢で終わりそうだね」とか、どう考えてもアイデアと実装の間に相当な深い谷があって、難しいんじゃないかとプロの大人たちが思う場合もあるんですが、その場合はもしかしたら評価されにくいかもしれません。
例えば「戦争がなくなる装置を考えました、これを見ているだけで戦争が起きなくなるんです」というときに、いや、そんなことはさすがにないだろうというものだったら評価できないかもしれないけれど、「確かにこれはみんなが持っていたら戦争とかやりたくなくなるね」というようなモノがもしあれば、できそうだね!と少しでもプロの誰かが言えば、僕はもう褒めていいんじゃないかなと思っているという感じです。

安次富 全く同じ考えです。まず、学生になるということは、将来に希望というか、夢や目的や目標があるから、大学に来て学んだり研究したりするわけですよね。だから先を見る目がある人たちなんだと思います。そういう人たちが考えることというのは、やっぱり未来のことなんですよね。将来のこと。それで考えてこうなったらいいなということなんです。
そのときに、学生なりに実現させる方法は考えているんですが、経験値は圧倒的に低いので、僕らがサポートすればできるというのはいくらでもあるんですよ。だから今はできないけれども、いつかできるかもしれないというのはたくさんあるはずなんですよ。そういうのを意外とプロは知っていたりします。だからそういう人たちがサポートに入ってくると、意外とパッと実現することもある。だから諦めさせたくない。要するに夢を諦めさせたくないというのがものすごく強い気持ちとしてあるので、非現実的と明らかに分かるもの以外は問題ないんじゃないかなと思います。

齋藤 グッドデザイン賞でも最近は、アウトプットはプロダクトなんだけれども、実はその裏に取り組みがたくさんあって、そこも含めて評価しようという傾向が強くなってきています。だから今回は、募集カテゴリーは物・場所・情報・仕組みという4つに分かれていますが、そこの部分は応募される皆さんが、何を訴えたいのか、一番最後のアウトプットとして、もしくはアウトカム(結果)として何なのかということで選んでいただけるのかなと思います。
あとは、フィジビリティ(実現可能性)という点、現実的じゃないといけないのかというところは、ニューホープ賞に応募されるものは、少しそこはたがが外れていていいかなと思います。逆に外れていないと、ニューホープ賞にならない。
グッドデザイン賞のほうは、今年も「交意と交響」というテーマの下にやっていますが、2022年をあとから振り返ってみたら、あの年からこういう取り組みが始まったよね、それが羅針盤として定着したよね、というところが考え方としてあります。
ニューホープ賞のほうは、こんな方向を指す人たちがいて、こんな方向がもしかしたら世の中としてありなんじゃないかというものを出していくんだと思います。だから、フィジビリティの部分はどちらかというと低めで全然いいと僕は思います。まだ取り組み自体は全く始まっていなくて、こういうアクションを起こしていこうと思います、ということでも、僕はいいと思うんですね。
グッドデザイン賞とニューホープ賞で、審査委員長・副委員長が同じだというのは、そこが結構ポイントだと思っています。ニューホープ賞で出てきたこのアイディアは今、産業に投げ込まなければいけないんじゃないかといったことも、両方を見ているからわかることがある気がしています。
また、今まで学生チームで作っていたアイディアが全然賛同されてこなかったとしても、アワードを取ることによって、実はそれ自体が強くなったりといったこともあるのかなと思います。企業からの参画があるとか、もしくは学生同士のつながり、コミュニティができるということをニューホープ賞ではやっていきたいんです。
もちろん新しい賞というのは、一度審査してみないと分からないところがあります。まず今年は皆さんからのたくさんのご応募をいただいて、審査委員の中でも評価の仕方を議論したり、カテゴリーの分け方もいろいろ議論が起こると思います。全体としては、やっぱりグッドデザイン賞とは全く違う、フィジビリティ的な評価の部分は低くして、だけど今必要なアイデアというのが、ニューホープ賞から出てくるといいなと思っています。

 今年、新設の賞なので、どんな応募が来るんだろうというのが、本当に楽しみでなりません。齋藤さんにもう一歩突っ込んで聞いてみたいのですが、あまり社会実装ということは問わないで、着想やアイデアを重視するということは分かるのですが、一方で「物・場・情報・仕組み」という領域で見たときに、情報のデザインとか、あるいは仕組みのデザインというのは、比較的応募しやすいのかなと思います。一方で、物とか場というのはどうなんだろうと思ったりします。物のデザインというのは、相当収斂されてきている領域なのかなと思いますが、そのあたりはいかがでしょうか。

齋藤 まず「場のデザイン」で思ったのが、例えば、都市開発とか建築とか、そういう「場所」になると、「造る」ことが善で、「壊す」のはマイナスというイメージになりがちですが、実は壊さなくてもいいんじゃないかというデザインも、これは大人の視点だとなかなか出てこないと思います。コストをかけてでも耐震補強することによって、実はその文化を守れるんじゃないかみたいな提案というのが出てきてもいいと思うんですね。だから、たとえば「建てないデザイン」というのもあっていい。これはたぶん普通の建築分野とか開発分野だとほとんど出てこないと思うんですけれども、そういったような、いわゆる方程式に乗っていないものが、学生の視点からだったら出てくる可能性が大いにあるのかなと思っています。
あとは物のデザインについては、例えばケミカルリサイクルといった場合に、それを業界横断的にこういう方法でまとめましょう、という提案もありだと思うんですね。業界横断するようなプロダクトというのは実際にはなかなか難しいと思います。だけど学生の中からは、そのほうが実はリサイクル率が上がりますとか、もしくは実はいろいろなコストが抑えられますみたいなものが大いに出てくるべきだと思っています。

安次富 僕はプロダクトデザイナーなので、「物のデザインってよく分からない」とかよく言われるんですけれども、物をデザインすることが目的になることはないんですよ。例えば「座りやすい椅子」と言ったら、座りやすいことが大事なのであって、それを実現するための物があるわけです。物は手段でしかないんです。
例えば座りやすい椅子を作りましたと2台椅子があったとしますね。両方とも同じように座りやすいけれど、1つは部屋に置いておくことも嫌なぐらい見た目が嫌だったら、いくら座りやすくても嫌じゃないですか。もう1つ、座りやすくて見た目もすてきというのがあったらいいわけで、要するに物というのは顕在化してくるんですね。つまり、物体として出てくるから、ものすごくいいことをしていますよという仕組みだけを唱えて「いいね」となったとしても、それを実際の物に落とし込むというのはものすごくエネルギーが必要です。いいことなんだけれども、生理的に許せない、みたいなことまで求められる。だからかなりハードルが高いデザイン領域だと思っています。
ただ、4つカテゴリーがあるんだけれども、領域をまたがっちゃう場合もあると思うんですね。どこの領域に出したらいいんだろうと迷う。例えばアップサイクル、廃品を利用してこういうものを作る仕組みを作りました、みたいなプロジェクトがあったとします。そのときは廃品利用というコンセプトはいいけれども、いざ作ったものがひどかったらやっぱり誰も評価しないんですよ。だからその両方のバランス取れたものを出すときに、それは仕組みなの、それとも物なのというのは迷うと思うんですね。そうしたら取りあえずどっかに出しておけば、カテゴリーは4つしかないから、みんなで話し合うから大丈夫だよぐらいな緩い感じでいいんじゃないかな。
建築はもっと複雑ですよね。見た目も大事、空間があるから、あるいは空調がいいとか悪いとか、ものすごく多元的な要素がそこに含まれるので、この建築いいよねと言ったときの評価軸というのは実は大変です。ただ学生たちの作品は建築物がそこにあるわけじゃないので、その構想ですよね。そこを読み解いて評価するというのが重要で、それぞれに具体的な評価の方法は変わってくると思っています。

 まさに物は手段であって、何のために物を作るのかというところに戻ってみたら、どのデザインでも一緒なんですよね。

安次富 それで僕はプロダクトデザイナーとして一つ強く言いたいのが、同じ目的と目標があって、それを達成するために、物が必要なかったら僕は物を作らないデザイナーなんです。それを作らないほうがいいという判断ができるのは、プロダクトデザインを知っていないとできないと思っているんですよ。だから、その目的を達成するために、物を作ったほうがいい場合だけ作る。そういう取捨選択ができることが、デザインではとても大事だと思っています。

 私も実は「物の形があってもなくても、何のためにデザインするのかということが常にその時代を表すんだな」とグッドデザイン賞の審査を通じて感じていたことでした。
そういう意味では、豪華に見えるような椅子に座りたいと言っていた時代から、例えばまさにアップサイクルというお話もありましたが、もうこれから家具は循環しないと駄目でしょう、だからこの形なんです、このマテリアルなんです、みたいな形になっていくのかなと思います。そういうふうに考えると、学生もいくらでも提案できるなと思ったので、本当にその学生の提案で、審査委員が勉強させてもらうのかもしれないという気持ちになりました。
まだまだいろいろお伺いしたいんですが、ここからは事前にいただいていた質問にもお答えしていこうと思います。ちょっとたくさんあるので、1人1つづつ、この質問に答えたいというものに答えていただけますか?

安次富 じゃあ僕から答えます。質問は、「安次富様は大学の教員をされていることですが、できる学生とできない学生の差って何だと思いますか」というものです。
今、視聴者の中にたぶん僕の教え子もいるんじゃないかなと思うので、本当はその子たちに聞いてほしいんですが(笑)、僕はできる子とできない子というふうに学生を見ないです。大学生の伸びしろというのはものすごいんですよ。1日で変わります。僕は、学生だから学生扱いみたいなことは正直なところしたことがなくて。さっき林さんもおっしゃっていたけれども、今回のニューホープ賞も僕らが応募されたデザインから学ぶことがあるんじゃないかという、同じような期待値があるんです。学生たちは僕が知らないことをいっぱい知っています。だから聞くと教えてくれるんですね。それぞれの学生に個性と特徴があって、何かの得意があったら何かは不得意といったことはあります。よくありがちなのが、僕から見るとちっとも不得意に見えないことを、勝手に不得意だと決めている学生もいます。だからむしろ、そういうのを「いや、そういうふうに言っているけど全然そうじゃないよね」と言ってあげたり、そういうところに徹しているといいましょうか。

 なるほど。それは共感できるんですが、一方で教員は学生に成績を付けなければいけないですよね。成績を付けるということが、できるできないということだとしたら、その差をどういうふうに捉えているのかということなのかもしれないですね。

安次富 成績ね。点数でしょう。これはグッドデザイン賞の合否と一緒ですよね。別にちゃんと大学に来て研究して真面目にやっていればAを取れるんじゃないのと僕は思っていて、失敗が許されるのが学びの場なんですよ。そこで何かいい成績を取ろうと思って、保守的になるのはいいことではないと思っているので、評価の仕方も僕の場合はいい失敗をしている学生を、評価を低く付けたことは一回もないんですね。だから大学に全然来なくて、一回も顔を合わせたことないのにすごいパーフェクトな作品を出したとしても、僕はあんまり評価しないかもしれないんですよ。だから結果論じゃないと思うんですね。学んでいるか、研究しているかが学生の評価なので、そこには優劣というのは、姿勢しかないんじゃないかなと思います。

 なるほど。まさにそうですよね。学ぶ、研究するというのが大学の目的であって、社会実装するというのとはまたちょっと切り離して考えているという意味では、自分なりに学んでいたら、そして自分なりの研究をしていたら、それはいい悪いではないですよね。

安次富 おっしゃるとおりです。だから何を学びましたかと聞く先生もいらっしゃいます。それはすごく大事なことだなと思っています。

 なるほど、分かりました。では齋藤さん、どの質問にお答えしますか?

齋藤 僕のほうは「オンラインコミュニティのデザインは、デザインなのか?」という質問に答えようと思います。
これはたぶん、やっぱり物理的に集まるコミュニティというのが今までのコミュニティのやり方だと思うんですけれども、それこそNFTとか言われている時代だとすると、たぶんその次の可能性ととして、オンラインコミュニティもあると思うので、そういうのはもうぜひ、取り組みのデザインなのか、もしかしたら場というカテゴリー自体もオンラインになって、もうそれは場所というカテゴリーでもあるので、そこは最終的にご判断いただいて応募していただきたいなと思います。

もう1つ答えたいのは、「応募の対象などはあるんでしょうか。ある意味、就職をゴールにしている学校教育と、今回のアワードの目指す姿に齟齬があるように感じました」という質問です。
僕は「就職をゴールにしている」というのが、もしかしたら学校教育の大きな間違いになってしまったのかなと思っているんですけれども、要は学んだことでどういう自分の視点ができたかというところで、学校は評価されるべきだな、学生を評価するべきだなと僕は思っています。
僕が個人的に思ったのは、何々×(かける)デザインという、そのデザインというのは、例えばデザイン学科じゃないと駄目なのかとか、もしくは建築みたいな、もうデザインというカテゴリーに入っているものじゃないと駄目なのかというと、そうではなくて、デザインというのがもっと取り組みとか、例えばさっき話に出ていた「おてらおやつクラブ」みたいに、こういう取り組みとこういう取り組みをつなげてあげることで、実はこういう課題が解決できるというのもそうだと思います。
例えば、人事のデザインを作ることもあるし、もしくはデザイン経営みたいなものや、働き方のデザインというのも出すことができる。だからいろいろなところで、何×(かける)デザインなのか、そういった視点を持っていただくと、このアワードでは大きく評価できるところだと思います。デザイン学科じゃないから駄目だとか、このカテゴリーにはデザインが介入する余地がなかなかないというのではなくて、自分の中で「これだ」という視点があったなら、それは立派なデザインだと思うので、ぜひ応募していただけるといいのかなと思います。

 では、佐々木さん、いかがでしょうか。どの質問にお答えになりますか?

佐々木 そうですね。いろいろあって悩むんですが、「切り口や視点を出したあと、どの案を形にしていくかを選ぶ際に、皆さんが大事にしていることはありますか。意味を多めに込められそうなもの、実現できそうなものを念頭にして選んでいますか」という質問に答えてみたいと思います。
これは、僕みたいなアイデアを毎日死ぬほど出さなきゃいけない業界ではいつも悩むところなんですけれども。悩んだらやっぱりシンプルな案がいいですとかよく言いますよね。いろいろ意味をたくさん込めてあるものよりは、シンプルなものがまずはいいとか。
あと、ただ正しく解くよりは、やっぱりすてきに楽しく解いたほうがいいよね、というのはあります。アイデアが一人歩きして勝手に自分より遠くに行っちゃうようなものがたまにあるんですよね。みんなが勝手に拾って「自分だったらこういうふうにできる」と言って、勝手にみんなが拾ってどんどんボールを持っていっちゃうぐらいの案というのがたまに出るんですけれども、それがやっぱり育っていくいい案なのかなと、今までの経験上思います。1人で悩んでいると、それは分からないんですよね。だから誰かとキャッチボールして、ボールを持って勝手に走り出しちゃうような人がいるような案が、いい案だなとは思います。というのがこの質問への答えですね。

 私も質問に答えたいんですけれども、「美大生と一般大学生、強みと弱みと感じている部分があるのかどうか」。
つまりニューホープ賞は「美大生のほうが有利なの?一般大学生も応募していいけれども、美大生がメインよ」みたいに思っている人も、もしかすると多いのかなと思うので、ちょっと話したいと思います。
私は3年間早稲田大学で教えていたんですが、私の講義では、受講できる学生の学部を問わなかったんですね。そうしたら商学部、政経学部、法学部、いろいろな学部から25人ぐらい、すごく面白い人たちが集まってくれました。
私が面白いなと思ったのは、理工学部の大学院生とかが、必修じゃない私のデザインの授業を受けて、例えばナイトタイムエコノミーはどうやったら実現するのかということを考えたいんですとか、すごい面白い疑問を持ってくるんです。そういう子たちを見ていて、今のお話にも出てきましたが、人事の仕組みだって新しくできるし、あるいは「より良い生活を作る」ということがデザインであるならば、何でもデザインだよな、というふうに私は思っています。
だから美大生じゃないから応募できないということでは全くなくて、むしろ「もっとこうだったら世の中が便利なのに」とか、そういうことをニューホープ賞で提案してくれたらすごく面白いなと思っています。
そういう意味では、美大生がWhatをデザインするのが得意だとすると、一般大学生はWhy、なぜというところがなんか得意なのかなというふうにも思って、結局両方ともぜひ応募してほしいなというふうに思っています。

安次富 美大生・一般大生という一般論ではなかなか答えづらいので、僕自身のことで答えます。僕がデザイナーを選んだのは、どの学問も大好きで、選べなかったからなんです。要するにデザインというのは、さまざまな分野の学問が必要なところだなと思っていました。例えば椅子を例に挙げると、椅子をデザインするためには、ただ美しい形だけでは椅子は成立せず、構造力学みたいな工学系の学問も必要だし、椅子の歴史だったら歴史学だし、それを販売するんだったら経済学だったり経営学だとか、体にいい椅子だったら医学も関わってくる。だから椅子をデザインしようとすると、いろいろなところを勉強するというのがすごく楽しくてしょうがなくて、それでデザインをやりたいと思ったんですね。
一般大学で数学だとか物理学だとか経済学、経営学といろいろあるんですが、それを選んでいる人たちは、それぞれがその専門性というところで深みを知ることができるんですね。同じ数学でも、大学で学ぶ数学というのは、高校までに学ぶ数学とは全く違います。だからその深みを知っている人たちだと思うんです。それぞれの強みというか、その違いがあるだけであって、そういう意味ではそれぞれの自分のいる立ち位置から出せばいいんじゃないかなと思います。表現の方法も、アーティストになるわけではないので、今はいろいろなツールがありますから、その辺は工夫していけば、あまりそこの差もないのかなというふうには思います。

齋藤 今回のニューホープ賞では、「出会いたい。これからの世界をつくる新しい才能たちと。」というのがタグラインになっています。
これまでのグッドデザイン賞とは違って、やっぱりそこだけでは見つけられないものと出会いたいですね。学生ならではの思考のスタート視点として、専門性に行く前だからこそ出てくる視座、もしくは哲学、アウトプットの方法みたいなものがあると思うので、ぜひ何か、学校の中で例えば評価されていないとか、もしくは課題で出したのになんかイマイチだったというのも、このニューホープ賞に応募していただくと、いろいろなプロフェッショナルのバックグラウンドを持った審査委員が評価をさせていただくときに、たぶん新しいポテンシャルみたいなものが引き出るきっかけにもなるのではないかなと思っています。
アワードがいったい何のためにあるかというと、自分のやっていることを多くの人たちに知ってもらいたいというのもあるけれども、仲間を探せるということもアワードの大きな役割なんじゃないかと思っています。
何か賞をもらったときに、それを一緒にやってくれる企業さんと出会うきっかけになるかもしれないし、もしくは同じような取り組みをしている仲間に出会える場になるかもしれません。ぜひ今まで作ってきたものや、考えてきたものを、それが100%に近い形で伝わるようにプレゼンテーションを作っていただいて応募いただければ、新しい一歩が踏み出せる大きなきっかけになるんじゃないかなと思っています。

佐々木 ニューホープ賞という名前なんですけれども、設立に向けていろいろと議論を重ねた中で、これは単なるアワードだけで終わるんじゃなくて、本当にここからコミュニティになって、学生や卒業生が、企業と出会う場になったり、違う仲間と出会ったり、もしくは学びを続けられるとか、そういう集まりになればいいかなという話をしていました。
だから、まずこのニューホープ賞自体が新しい仕組みになれればいいかなと思っています。その本当に第一歩なんですよね。だから、これはグッドデザインじゃないかもなとか、あまり決め付けずに、その新しい仕組みに飛び込みたいとか、コミュニティーに入りたいというつもりで参加をしてほしいなと思います。
僕自身もデザインの勉強をしていたわけではなくて、一般大で、どっちかというと数学とかに近いような勉強をしていたんですが、でも何か課題を発見して、人にそれを伝えて、みんなにこんなやり方あったんだねと言ってもらえる、その瞬間が楽しかったから、このデザインというかクリエイティブ業界に入ってきました。いろいろな人がこのアワードをきっかけに、ちょっと進路が変わって、人生変わるみたいなことが起きたらいいなと思っています。気軽に応募してみてください。今年は無料と書いてありました。

 ありがとうございました。ニューホープ賞、どういう人に応募してほしいのかというのは、本当に美大生ということは関係なく、全領域でもっとこういうものがあったらいいという、そういうデザインに期待をしたいなというふうに思いました。たくさんの「新しいデザイン」に出会えたらうれしいです。

しつこいようですが、
応募締切:2022年7月15日13:00
です。皆さまのご応募をお待ちしております。

グッドデザイン・ニューホープ賞 公式ウェブサイト