
■アクティブ・ブック・ダイアローグ®(ABD)で読む『ネット・プロモーター経営 〈顧客ロイヤルティ指標 NPS〉 で「利益ある成長」を実現する』
社内アクティブ・ブック・ダイアローグ®の第2弾として、『ネット・プロモーター経営 〈顧客ロイヤルティ指標 NPS〉 で「利益ある成長」を実現する』を取り上げました。
●今回のスタイル
参加人数:12人
ページ割:章、コラムごと。一人20~30ページ
コサマライズ:60分→休憩含め95分くらい。
プレゼン:一人3分→合計で40分くらい。
ギャラリー:10分
ダイアログ:35分(小グループ→全体)
社内で初回にやった際はダイアログの時間を作れませんでしたが、今回は時間配分がうまくいき、ギャラリーウォークや対話からより学びが抽出できたように思います。
●読んだ本
『ネット・プロモーター経営 〈顧客ロイヤルティ指標 NPS〉 で「利益ある成長」を実現する』
●著者
・フレッド・ライクヘルド
ベイン・アンド・カンパニー名誉ディレクター。1977年ベイン入社、1982年パートナー就任を経て、1999年1月に同社初のベイン・フェローに選出。
顧客、社員、パートナーのロイヤルティ改善を通じたクライアント企業の業績向上を専門分野として、コンサルティング業務および調査に携わる。
また、主要なビジネスフォーラムやCEOをはじめとする経営者のグループ向けに、世界中で頻繁に講演を行っている 。
・ロブ・マーキー
ベイン・アンド・カンパニー ニューヨークオフィスパートナー。顧客と従業員のロイヤルティを通して、収益ある持続可能な成長をクライアント企業が実現するための支援を行ってきた。
顧客体験の向上に関して、ベインのなかでの専門家。
●僕らがこの本を選定した意図
僕らは事業のなかで「顧客満足度」をずっと調査しています。いつからか(この3~4年くらい)で、顧客満足度と並行または代わるように、NPSという単語が色々な事業者の方、または事業部内から話として出てくるようになりました。今やNPSでPDCAを回す企業が増えているというのが実感としてあります。特に小回りが利き、柔軟性のある新興企業であったり、中小企業に多いイメージです。
オリコンでもNPSは調査票に盛り込んでおり、重要な分析ファクターになっています。
ですがNPS®については急に流行しだしたということもあり、
「なぜ流行っているのか」
「何がわかるのか」
「メリデメは何か」
「顧客満足度と何が違うのか」
など、使いつつも、これらの事にうまく答えることができない方も多いのではないでしょうか。
今回の読書会を通して、僕らなりの回答を作り、事業部のメンバーが企業の方々にもしっかりと説明できるようにしたいと考えました。
●内容サマリ
①NPSは他者推奨指標
究極の質問「他人に薦めるか?」を11段階評価で、推奨者・中立者・批判者に分類。
②収益性と連動
顧客満足度は収益と相関しないので、収益と連動する指標としてNPS®が開発された。
※ただし明確な根拠なし!ということだけは言っておきたい…
③経済性と動機づけの上に成立
従業員単位で、ロイヤルティ向上の理解、顧客志向の意識をすることで効果を発揮。
●章ごとの要約(あくまでABDベース)
【序章】スコアからシステムへ
NPSとは、企業がいかに自社の顧客を大切に扱っているかを測定する手法である。究極の質問「0~10点で表すとして、この企業を友人・同僚に薦める可能性はどのくらいか?」の回答で3つの顧客に分類する。
推奨者:10~9点
中立者:8~7点
批判者:6~0点
NPSが多くの企業に採用されるのは、「どれだけ自社のファンになってくれてるか」を測るとともに、マネジメントシステムでもあるから。
NPSは、単に顧客満足を測定する方法ではなく、オペレーションを行うシステムであり、経営者が関与すべきもの。
【第1章】悪しき利益と良き利益、そして究極の質問
悪しき利益とは、「顧客とのリレーションシップが犠牲にされて獲得した利益」。例えば、不当な扱い、無視、強制される…など。
良き利益とは、顧客の熱心な支持によってもたらされる利益。
企業が抱える大きな課題は2つある。
①従業員のやる気をおこさせること
②顧客中心主義
これらはつかみどころがなく、定量化が難しい。
【第2章】成果を測定する基準
インテュイットというソフトウェアの企業では、満足度という指標が「よくわからない」ということで無視され、目に見える「利益」なら結果が予測できるから重視された。その結果、顧客が減りシェアが低下した。
著者は「顧客満足度」よりもシンプルで実用的な指標を探し始めた。なぜなら、「顧客満足度」と顧客行動&企業成長にはほとんど関連性がないため。(GMの例を挙げて)
継続や推奨と最も相関が高い質問を突き止めるため、6つの業界の顧客に調査を依頼した結果、究極の質問を発見した。究極の質問とは、「X社を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」
推奨者:10~9点は再購入率がとても高い。
中立者:8~7点は推奨と比較して低い。
批判者:6~0点は否定的なクチコミをする。
つまり、推奨者を増やし、批判者を減らすことが企業の成長につながる。これを要約したのが「NPS」で、推奨者%-批判者%で表される。
【第3章】NPSが利益ある成長をもたらすメカニズム
フィリップス社は顧客の期待が高まったことに今後の不安を感じ、NPSを採用した。NPSは「全ての事業部で導入可能な単一の基準」であり「売上成長に直結するため従業員の行動を引き起こせる」ことが採用の理由。
ただし、NPSは絶対ではない。財力や技術革新で成長する企業もある。そもそもNPSは企業にとって真の目的ではなく、あくまでも顧客とのリレーションシップの質を測るもの。
【第4章】エンタープライズの物語――意味のあるものを測定する
エンタープライズレンタカー社は、独自の指標、ESQi(エンタープライズ・サービス・クオリティ指標)を設計。
ESQiの測定方法は、支店別に月次報告で、5点法に基づいて、最高点に着目した。ESQiを重視した社内表彰制度を設けたり、月次報告に純利益と共に記載したり、幹部会で必須議題にするなどによって、競合他社が低迷する中でも年平均20%の成長を遂げている。。
ESQiは、顧客満足度ともNPSとも異なるものだが、一つの信頼できる指標に絞り込んだことによって、業界の模範となった。
【第5章】NPSを測定するには
顧客満足度調査の課題は、「調査票が長い」「無記名で顧客接点がない」「的外れな人が回答する」など…いくつかある。
NPSの利用には、8つの原則を守ること。
①究極の質問を聞く→追加質問は複雑さを増す。
②有効な尺度を使い続ける→ベインは11段階を推奨。
③自社と外部の調査を区別→外部の方が中立。
④適切な顧客から高い回答率を得る→非回答者のスコアも重要。
⑤財務データと同じ頻度で観測→改善と検証の機会が増える。
⑥調査セグメントを細かくする→社員が自分事にできる。
⑦バイアスを排除→客観的なフィードバックを貰う。
⑧スコアとその後の行動を見る→顧客が本当に推奨行動しているか。
これらを意識することで、信頼性の高い測定方法の実現を目指すべき。
【第5章コラム】日本企業がよく陥る課題と改善のアプローチ
①スコアの基準が日本に合っていない
日本人は平均点5点に集中しがちなので、10点・9点は高すぎるのではないか?という質問が多い。しかし、実際には5点の人と10点の人とでは明らかに異なる行動を取っている。国別に10点を付ける人が少ないということは日本人が「人に薦める」という行動が少ないということでもある。
NPSで重要なことは「推奨者」「中立者」「批判者」に分類することで、競合と相対的に比較すること。国ごとに比較しても意味がない。
②NPSが定着しない
日本人特有の問題でもあるが…「すぐに結果が出にくい」「経済性が説明できないので思い切った投資が難しい」など、NPSの価値の証明ができない。
また、顧客からのフィードバックを批判と受け止めてしまうことで身構えてしまったり、NPSを扱うことになった部署は過去に別の指標でやってきたので延長線上になってしまい、導入初期だけに注目が集まり段々と関心が薄くなっていってしまう。
これらの問題を防ぐためには以下の3つのポイントを実行する。
①経営幹部が顧客の声に触れる
→経営層がストーリーを作り、下に共有する。
②ファンを増やすことに焦点を当てる
→感動体験を作るアプローチを例えば推奨者のポジティブなフィードバックから自信を持って、さらに推奨者を増やすにはどうすべきかを考えるよう促す。
③個人と組織が継続的につながる
→階層別に目標を持ちどうフィードバックするかの仕組みを作る。
【第6章】NPSで成果を出すということ
いくつかのストーリーをもとに、NPS活用法を学ぶ。
①チャールズ・シュワブ
顧客への接し方がお粗末だったものを顧客志向にシフト。NPSの考え方をもとに、財務指標と同じくらい高い評価尺度としてシステム化。悪しき利益であった違約金のカットや接客担当の教育を行うことで業界リーダーに返り咲き。
②アップル(リテール事業)
他のPCのメーカー直営店は惨敗続きで、アップルはそれを踏まえて店舗を設計。「顧客と従業員の生活を豊かにすること」をミッションとした。
NPSを採用し、ストアごとにNPSでランキングして表彰し、マック愛好者を作る伝道師の育成を目指した。
③アセンション・ヘルス(医療機関)
傘下の病院では、様々な患者満足度データを取り、データの洪水に溺れ、お手上げ状態に。組織全体でNPSを採用。経営幹部の成果報酬や組織のスコアカードにも取り入れた。
④プログレッシブ・グループ・オブ・インシュアランス
保険契約継続を維持するために、請求受付部門が真っ先にNPSを導入。また批判者を生み出す元凶となっている保険契約や手続きを見直した。
⑤ラックスペース
業界全体でクラウドサポートが甘い。「熱狂的なサポート」を差別化ポイントとし、中立者と批判者の90%にを取り、成長を続けた。
⑥ヴァージンメディア
顧客維持率が業界最低。NPSを導入し、全ての行動を顧客中心に置くことで解約率は改善。
【第7章】経済性と動機付け:二つの欠かせない柱
ネット・プロモーター・システムは、2つの柱の上に成立している。
①経済性の柱
顧客ロイヤルティがUPすることでより大きな収益を上げることができ、さらなる投資する好循環に持ち込める。経済面で競合より優位になれる。
②動機付けの柱
多くの人は顧客に対して、正しい行動を取りたい。顧客の生活にいい影響を与えたい。NPSは、自分の行動が十分なのか不十分なのかを可視化してくれる。
この2つの柱を組織全体に理解させなくてはならない。
【第8章】顧客との「クローズド・ループ」を回す
クローズド・ループとは、顧客の意見に感謝し、その根本原因を確かめ、サービス向上させる方法を学び、適切な対応をする、一連の流れ。
クローズド・ループは企業全体で顧客と向きあって作るもの。
事業推進のコアプロセスにNPSを組み込むことで、「自然と顧客の声を聞く」ため、良い業績が生まれる。
NPS活用によるスター企業の特徴は以下の2つのポイントがある。
①クローズド・ループを日々の業務フローに組み込んでいる
②24時間以内に全ての批判者に連絡を取っている
【第9章】長期的な変革に備える
企業が顧客志向になり、顧客を推奨者に変えるには、長い変革の道のりが待っている。それは企業文化の変革であり、NPSを活用し、企業変革を起こすには、多くのサポートとリーダーシップが必要。
変革の取り組みに相応しい人は、
①適切なスキル、経験、個人的な資質やエネルギーを持つ人
②組織の壁を超える人
③経営幹部を巻き込める人(特に重要)
「熱狂的な顧客サポート」という企業文化を構築し、維持するためには、「適切な人材採用」が最重要。顧客と直接接点のある従業員の性格は、人を心から尊重してもてなすことを、楽しくてやりがいがあると思える人。
ただしNPSと報酬の連動は慎重に行われるべき。
それはスコアを上げることが目的化されたり、正しく測定することが大きなプレッシャーになるため。
これらの問題を解消するために、コーチングを行ったり、方策やプロセスの改善を怠らないようにする。
【第10章】ネット・プロモーターの最前線
NPSは、普及が進み、実践する企業が増えていくことで学びや進歩が増えている。NPSはまだ未成熟だが、今後10~20年で進化が起こる。
最も活発な進化は「従業員NPS」。顧客と直接接点がある従業員のロイヤルティが獲得できなければ、顧客のロイヤルティも獲得できない。
NPSの普及は内外から抵抗もある。
既存の調査会社から否定的な行動があったり、社内の調査部門でも従来のやり方の信奉者から抵抗されることも多い。しかし、理解を促進すれば支持者に変わる。
本当のリスクは、NPSをいい加減な形で行ったり、NPSを実践していると思い込むこと。調査に応じる顧客と応じない顧客とでは「推奨者」「中立者」「批判者」の分布が異なる可能性があり、偏りのない回答えること大切。
●得られた示唆
①収益との相関性は顧客満足度と同じくある
まず、この本を書いたのがNPSを開発したベイン社であることを踏まえないといけません。そのためか、というわけではないものの、NPS®を薦めつつも万能ではないんですよ、ということもしっかり書かれています。
ただ、理屈は通るとは思っています。「他者にお薦めするということは、新規顧客の獲得にもつながるし、それだけロイヤルティが高いから再利用もし、獲得コストも低くなる」、というだけです。
顧客満足度も、「満足すれば他人にも薦めるし(ということは新規顧客の獲得にもつながる)、ロイヤルティが高いから再利用もし、獲得コストも低い」ということとで、アウトプットに大差はあるのか?と思ってしまいます。ただ、満足していても購買頻度が極端に少なかったりする場合にあるし、不満足でもスイッチングコストが高くて継続せざるを得ない場合もあります。その点でNPS®は「他者に薦める度合い」なので収益との相関が高いというのも理解できます。
一方で継続意向は分からないので、NPS®だけで完全に追いきることもできないさそうです。
②指標はシンプルなほうがいい
KPIとしてシステムのなかに組み込む場合、誰が見ても早く理解できる単一の質問による指標化を実現するNPSはこの点が優れている。一方で単一の指標であるがゆえに、本当にこの1問だけの言わば直感的な得点だけで見誤らないか?という心配もあります。
実現するには、多くのサンプルを集め、調査の内容を常に監視するなど、企業側には大きな調査費の捻出が必要になりそうです。また、調査費用のコストだけではなく検証ができるようにしたほうがいい。
●新たな問い
①「顧客満足度(CS)」と「NPS」の関係は?
これは今後の研究課題ですね。
●まとめ
結局のところ、この本で語られているNPSの部分を顧客満足度に置き換えても読めてしまうので、昔から企業が解決したい課題も同じだし、導入するにあたっての障壁やその解決方法も同じ。
大切なのは経営者が顧客との関係性をどういう指標でどう経営システムに取り込んでいくかであって、そこに経営者が100%コミットするということですね。
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