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ショートケーキ's

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2020年11月の記事一覧

ショートショート『港町の夜』

ショートショート『港町の夜』

群青色の空で、一羽のカモメが風に煽られていた。不可抗力によって方向を変えられてしまった姿が哀れに映ったのは、自分と重ねてしまったからかもしれない。今日は風が強い。防寒に優れた厚手のダウンジャケットを羽織っている佳嗣だが、全身を容赦なく打ち付ける寒さに肩をすくめた。

佳嗣が、ここを選んだ理由は特にない。30歳を迎えて無性に旅に出たくなり、なるべく遠いところに行こうと、この港町に決めた。町全体が静か

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短編小説『クレイジー・ストライプ』

短編小説『クレイジー・ストライプ』

1動物園でシマウマが殺された。

テレビのワイドショーは、国会前で機動隊と揉み合う動物愛護団体を映している。怒号と悲鳴、人間と人間の肉体がぶつかる鈍く不穏な音。それらが響くリビングには、トースターで焼いたばかりの食パンの香りが充満している。窓からは穏やかな陽が差し込み、いたって平和だ。今回のことに限った話ではない。どんなに悲惨な事件や自然災害が起きても、僕らの生活圏に及ばない範囲での出来事なら、そ

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短編小説『宇宙へGO!』

短編小説『宇宙へGO!』

オレは宇宙に打ち上げられた。何のために? 死ぬためだ。どうしようもない人生を宇宙で終わらせられるなんて最高じゃないか。一人用の宇宙船は細長く、棺桶のように見えるのも素晴らしい。この制度を考えたお偉いさんたちに敬意を表してやりたい。それから、快適な宙の旅を実現してくれた技術者の皆さんにも。感じるGは限りなく軽減され、意識を保つのが容易くなった。これがミソだ。華々しく一花咲かせる直前にぶっ飛んでちゃ絶

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ショートショート『空色のくつ』

ショートショート『空色のくつ』

履けば空を駆け上がれるかのような、軽くて丈夫な空色のくつを作る職人がいた。名は、ディエゴ。彼の工房は、緑豊かな山に囲まれた高台にある小さな町にあったが、その評判は国中に轟いていた。

「ディエゴさん、ありがとう。おかげでまた仕事がはかどるよ」

やって来たのは、鳶職のドミニク。若い衆をまとめる兄貴的な存在で、新入り用に追加注文していた。ディエゴのくつは、建築業や運送業などに携わる人たちに特に大人気

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