精神的童貞の僕とREBECCA『フレンズ』

「ねぇ、なんで体育祭来なかったんですか?」
「うーん、なんでですかねぇ」

高校三年生の晩秋、普段乗らない電車に揺られて30分ほど行ったところにある、彼女の最寄り駅。
僕らは駅で合流し、カラオケへ向かっていた。

女の子と二人きりでカラオケに行くなんて18年生きてて初めてだったし、彼女の地元に行くということもあり、妙な緊張感と期待感が腹の中でぐるぐるしていた。

駅前の雑居ビルに入っていたカラオケ。店員に更に奥に通される。まるでかくれがのような店の奥に。


彼女のことを話したいと思う。

彼女は可愛い顔立ちをしていた。これは間違いない。ファンも多かったと思う。その一方で彼女といえば風変わりな人間でもあった。
故に運動会を欠席したことも、あの子ならまぁ不思議ではない、といったふうに特段驚かれないような受け止められ方をしていた。

カラオケで僕らは「お互いに遠慮せず、好きな歌を適当に歌う」というルールの元、いろんな歌を歌った。

僕が当時好きだった曲といえば、ほとんどがロボットアニメの主題歌で、後は尾崎豊だとか、浜田省吾とか、ブルーハーツとか流行を終えて久しいものばかりだった。

一方彼女は"椎名林檎が好きなような子"でもあったたのでそんな感じの曲を歌っていた気がする。

いずれにせよ、もう10年も前のことなので僕らが何を歌ったかは歳月の流れの中に消えてしまっていて、ほとんど思い出せない。


おかしな話だ、僕は彼女に片思いしていた。僕らしか知らない秘密の記憶の中で、僕しか知らない彼女の横顔を少しでも覚えていようと思っていたのに。

時間がたてば彼女が何を歌っていたのかなんて大事なことすら思い出せなくなってしまうのだから。


でも"ほとんど"に含まれない曲ももちろんいくつかあって、REBECCAの『フレンズ』だった。

一体彼女はどこでこの曲を知ったんだろうか。年代的にも大分上だと思うのだけれど。


口づけを かわした日は
ママの顔さえも見れなかった
ポケットのコインあつめて
ひとつずつ夢をかぞえたね


カラオケをきっかけに、僕らの仲は少し深まったと思う。
午前中の途中の少し長い休み時間の間に、二人で飲み物を買いに行くことがたまにあった。たった10分、大きな一歩だった。


その年が終わるまで何度か僕らは高校の最寄り駅から二つ先ぐらいまで歩いて向かうことがあった。

約8キロ。彼女は歩き、僕は自転車を押した。

その駅までの道のりは、かつて自分が中学生だったころの通学路も含まれていた。


中学3年生の下校時から3年が経っていた。あの頃友人とバカやりながら歩いた道を、今は女の子と一緒に歩いている。

たったそれだけのことで僕は妙な幸福感に包まれていたのだ。



僕らは高校を卒業し、別々の道を歩んだ。

段々と連絡も取らなくなり、そして僕の恋は終わった。


2度と もどれない
oh フレンズ
他人よりも遠く見えて
いつも 走ってた
oh フレンズ
あの瞳がいとしい


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