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東京に住んだことあるアラサーにオススメしたい一冊。

「ほぉ、直木賞候補作か…しかもZ世代をテーマに…」
先週末、ナツイチチェックついでに、たまたま本屋で手が伸びた。

「令和元年の人生ゲーム(麻布競馬場)」

「まだ人生に、本気になってるんですか?」
この新人、平成の落ちこぼれか、令和の革命家か――。

「クビにならない最低限の仕事をして、毎日定時で上がって、そうですね、皇居ランでもしたいと思ってます」

慶應の意識高いビジコンサークルで、
働き方改革中のキラキラメガベンチャーで、
「正義」に満ちたZ世代シェアハウスで、
クラフトビールが売りのコミュニティ型銭湯で……

”意識の高い”若者たちのなかにいて、ひとり「何もしない」沼田くん。
彼はなぜ、22歳にして窓際族を決め込んでいるのか?

Amazon「令和元年の人生ゲーム」

読みはじめると、大学から社会人、東京生活で出会った、私(現在 32歳)と私の周囲のあるあるオンパレード。年齢的には、沼田くんは、私より3つ下の設定。「Z世代」って、カバーでは謳っているけど、これは、ちょい上のゆとり世代がむしろメインターゲット!

意識高い系であって、それでいて動こうともせず、言い訳をして、正義をまきちらし、偽善との狭間で自分探しをし続け、羨望と嫉妬の中で、変化していく人に残され、自ら人を切っていく…辻村深月「傲慢と善良」ぶりぐらいに、自分たち世代のことが言語化され、客観的に見えてくるのがものすごい痛快でおもしろかった。

構成としては、平成28年、平成31年、令和4年、令和5年と各章で順番に時間が経っていく中で、語り手はそれぞれ青春群像劇のように変わるのに、「沼田」はずっと登場して、彼がだんだんと変化していくけど、語り手目線からしか沼田は見えてこない。描かれていない沼田の人生を読者に想像させ、説明しすぎない感じの塩梅がいいし、各章の場面設定や人物設定もいいし、ハッピーエンドにもバッドエンドにもなりすぎない感じもいい。個人的には、「平成31年」の章と、「令和4年」の章が好き。「平成31年」の章は、母親からの自立がテーマで、唯一女性が語り手の章だったので、特に印象に残ったのかも。「令和4年」の章では、人生での出会いと別れが、「交差点」という表現でされていた。

人生とは、次々と出くわす交差点をすり抜けて誰かを置き去りにしながら走ってゆく行為の連続なのかもしれない。

「令和元年の人生ゲーム 令和4年」p162

私自身も、失恋と復縁と繰り返してきた日々の中で、「交差点」という表現で、自分の日記に綴っていたなぁと思い出した。

ちなみに、私は、「人生」は、「電車」をモチーフにした表現が今は個人的に一番しっくりきている。各停に乗ってしまったこともあれば、快速で楽々のこともあれば、誰かとボックス席で相席することもあれば、広い車両をひとりポツンと乗ることもある。どの電車に乗るのかも、降りるかも自分。同時に、隣に居合わせる車両の人たちもまた、乗ったり、降りたりして、出会って、別れていく。

お盆の帰省の新幹線のお供の一冊にぜひ。

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