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意外と知られていないカナダの医療崩壊の事実(3)

カナダの医療の問題点の3番目、「不十分かつ古すぎる医療整備」について説明しますね。

3-① 医療設備の更新がなされていない

ちょっと古いデータですので、現実を反映していないと思いますが、でも参考になるので、紹介します。2000年に発表された放射線科医協会が発表した報告書の記事です。

  • 国内にある画像診断機器の半数以上が古いものであり、至急買い換える必要があると言われている。

  • 500以上の病院を調査した結果、63%の病院がX線撮影装置が時代遅れになっている。

  • 53%の超音波診断装置が古くなっており、買いかえの予定があるのは、このうちの3分の1に過ぎない。

また、この報告書では、このような事態は患者の安全を守れないと危惧しており、具体的な事例として以下の様な内容を述べています。

  • ある病院では、CATスキャン(X線体軸断層撮影)の機器が古過ぎで、修理が必要であるがもう部品の保有期間を超えており、修理不可。

  • ある別の病院では、血管造影の機器が古くなっており、北米でもっとも古い機種の一つだと言う。これは、使用中に頻繁に故障が起こる。血管造影なので、故障により、最悪の場合には、内部出血や、脳梗塞、死亡のリスクがある

これらの機器・設備を買い替えようとすると、10億ドル(1000億円)かかると推定されています。

3-② なぜ、買い替えができないのか

このような事態について、私たち日本人は不思議に思うのではないでしょうか? 「古くなった病院ごとに、さっさと買い替えたらいいのに、なぜ」と。

これは、医療制度が根本的に日本と異なるところであります。

日本では、個々の病院は独立採算になりますので、大学の病院長は経営者のようなものですね。外来受診を増やし、入院患者の病床の回転率を上げるなど、収益をあげることが必要です。それで初めてで、医師や看護師などスタッフの給料を払ったり、医療設備も購入する予算とするわけです。

カナダでは、日本と異なり、病院の運営の予算は前年実績などをもとにあらかじめ州政府から配分さます(前回のブログに書きました)。その中から捻出することになります。

また、カナダでは医療機器に関する法律があり、病院が自分たちで勝手に機種を選定して購入できなようになっています。国が安全性を考えて、ある一定の基準を作り、その基準を満たしたものしか購入できなくなっています。

このために、病院では古くなったとしても、予算がなければ、機種を更新することができませんし、最新の機種を導入することは難しく、古い機種を使いづづけることになるのです。

新しい機種にすれば、操作も早く、診断を効率的にできることも多いです。つまり、待機者が多いことの原因は、医師や看護師が不足しているだけでなく、この様な医療設備が古いことから来る効率の悪さもあるのです。

カナダの医療崩壊の事実から学ぶこと

ここで、これら①医療へのアクセスに時間がかかること、②医療従事者の不足、③古くて不十分は医療設備 などのカナダの医療崩壊の事実から私たち日本人として何を学ぶことができるのでしょうか。

経済的に発達していれば、医療にアクセスし、公平な診断や治療が受けられると思いがちですが、それは幻想ということです。医療のアクセスは「制度」や「仕組み」が作りだすということです。

日本とカナダの行政システムの特徴における大きな違いは、中央集権か地方分権化ということです。日本は、地方分権が進んでいると言われますが、カナダに比べると、まだまだ権限が中央政府(国)に集中しており、国が地方自治体の動きを統制しようとする傾向は強いと感じます。

地方分権の進んだカナダでは、州ごとに法律も制度も違います。それぞれの州では国の干渉や統制を受けないので、より自律性が高い行政システムになります。保健医療の面で言うと、国でHealth Canada Actという大枠の法律は決めていますが、日常の医療の提供や病院の運営に関わる費用は州政府が中心となって支払います。ただし、州だけでは産業構造に差がでて、税収も格差がありますので、それを是正するために国も負担をすると言う仕組みです。ですから、保健医療については、国も財政面では大きな責任を持つと言えます。

地方分権の良さは、その地方の地域や住民の特性に合わせて変化するニーズに対応するためには、理想的な体制であると思います。しかし、カナダではこの地方分権のために、医療崩壊の問題を解決が難しくなっています。

カナダの医療制度の崩壊の危機は昨日・今日に始まったことではなく、長い年月をかけて悪化してきた結果です。この様なことは、中央集権の日本では起こりにくいと思います。課題があれば、厚生労働省が改善案を出し国会で審議して通過すれば、それが、すべての地方自治体へ事務文書として連絡が行き、改善へ向かうことが多いからです。

カナダの場合には、国が決められないのです。地方の自律性を尊重しますので、問題を解決するためには多くの州との交渉が必要です。ですから、基本路線は「現状の制度を大幅には変更しない」と言うことの様です。ですから、ツギハギだらけの解決策となり、根本的な解決にはならないと指摘されています。

最初は地方分権の方がなんとなくリベラルな感じがして、効率的で柔軟な対応ができる様なイメージがあります。でも、カナダの医療崩壊の危機はそうではないことを、私たちに教えてくれていますね。

ではでは

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