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歩くアゲハ

洗濯物を干していたら、ベランダの溝に羽化に失敗したアゲハがいた。羽をうまく広げて乾かすことができなかったよう。四枚ある羽のうち、下の羽二枚が縮れてしまっている。横になり足をバタバタしている。そこに直射日光が照りつける。虫かごをひっぱり出し、このアゲハが少しでも快適に過ごせるよう、おおいそぎで準備した。虫の看護師さんになった気分。

羽をそっと持ち、涼しい玄関へ。虫かごを縦長に置き、底にキッチンペーパー敷く。霧吹きをかける。うちに咲いている花はゼラニウムと、アベリアホープレイスという植え込みの小さな花しかない。それを切って、虫かごに入れた。アゲハはさっそくそこによじのぼった。蜜を吸うだろうかと思ったけれど、全く吸っている感じがしない。でも、アゲハはみるみる元気になった。

虫かごのフタを開けておく。玄関を歩いている。飛びたくても飛べなくて、羽をひきずって歩くから縮れた羽がどんどんちぎれていく。虫かごに戻し、霧吹きで水をあげたら、待ってましたとばかりに、あのストローの口を伸ばし、壁の小さな水滴を吸いつづけた。

再び、虫かごの外に出て歩いている。羽がまたちぎれている。戻そうとしたら、私の腕をよじのぼってきた。どこまでもくるから、ちょっとこわい。でもかわいい、ような。黒い目。目と目が合っているのか分からないけれど、忘れられない子になってしまった。

夕方、涼しくなってからゼラニウムの鉢植えにアゲハをのせた。アゲハは待ってました、とばかりに動き回る。やはり自由はいいよね。日が落ちてから、まだいるのか三回確認した。21時にはもうどこにいるか分からなかった。朝の5時半、再度確認。どこかに行ったようだ。夜の内に、てくてく てくてく、歩いたのだろうか。

散歩で見た朝露。
あのアゲハも見つけて、
ごくごくのんだりするのだろうか。