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ケーキが好きな人はケーキ屋さんになってはいけないらしい

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本日のお題:ケーキが好きな人はケーキ屋さんになってはいけないらしい
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/

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一体いつまで暑いんですかね…。私の周りの同業者はあまり浴衣を扱っている店がなくて夏場は完全に閑古鳥なんですよ(浴衣はいろいろリスクがあるし儲からないと言ってみんなやりたがらない)。8月はクソ暑すぎるし、お盆の帰省などでお金も使うし本当に売れない季節なのですが、この暑いのが9月のこの時期まで長引くと呉服屋としては困ります。

昨日天気予報を見ていたら来週はぐっと秋らしくなるらしいので期待したいと思います。そろそろ着物季節が到来しますよーー!!!

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■ケーキが好きな人はケーキ屋さんになってはいけないらしい

当店は商店街の中に入っておりまして、当然のことながら商店街には様々な店が軒を連ねております。もう10年以上も会計役をやっておりまして「一人の人にこんなに長い間会計を任せるのは良くない」と常々いってるんですが、信用されているのか誰もやりたがらないだけなのか、結局ずっと会計を任されております。

そんなことはどうでもいいんです笑。その商店街の中にケーキ屋さんがありまして、50代のおっさんのくせに甘いものが大好きな私としてはたまに買って食べておりました。生クリームが思いっきり入ったロールケーキを1本買って、最後の方には「うえっ」となりながらもすべて一人で食べるのが幸せなんですよ。

そのオーナーのおっちゃん、さぞやケーキが大好きなんだろうな、と聞いてみたら「いや、俺ケーキ嫌いやねん」と言う衝撃の事実。いやいやケーキが嫌いな人がどんなケーキが美味しくてよく売れるかとかわかるんかいな、と思うんですがどうやらそのおっちゃんの言うことによるとケーキが好きな人がケーキ屋をやると決まってうまくいかなくなるらしいのです。

当店のお客様でお菓子作りが趣味の方がおられまして、何度か頂いたことがあるのですが売り物になるぐらい美味しい…というか、ちゃんと袋に入れてパッケージされてるから多分普通に頂いたら手作りだとはわからないぐらいの出来栄えで驚きます。「こんなに美味しいんだったら売れるんじゃないですか?」というと「これなぁ、趣味で作ってるからコスト計算しなくていいから材料は最高のものを使えるし、時間もたくさんかけられるけどケーキ屋でコストと手間を計算するととてもじゃないけれどペイしないからなぁ」と言うお返事でした。

先ほど出てきたケーキ屋さんは仕事と割り切ってるからある程度コストカットし、手間もかからないようにして、もちろん妥協もしながら様々なバランスを考えて店に利益を出すことができるけれど、好きでやっている人は材料や手間の妥協できず、結局儲からなくて食っていけないと言うことなんでしょうね。

実はこれ、着物業界にも言えることなんですよ。

私の友人に沖縄専門の織物染物を扱う方(卸売業)がいるですが、ちょっとその辺の呉服の展示会ではみられないほどの多くの在庫を持っておられます。宮古上布や芭蕉布など、その辺の呉服店どころか大手の問屋でも持っていないような逸品希少織物がタンスの中からどんどん出てくるんですよ。ただ、残念ながら現在は問屋業は細々とやっている状態でほぼ休眠状態になっています。こんなにいいものを持っているし、沖縄の作家さんたちと直接の繋がりもあるのにもったいないなぁ、と思うのですが…。

通常の商売人の感覚ですと休眠させるにあたって一旦在庫を処分するために安く販売してしまおうか、と考えるのが一般的だと思うのですが、その友人は尊敬する作家さんの作品を安く出すなんてことはあり得ない、作品に失礼な値段で販売するぐらいなら自分が死ぬときに一緒に焼いてもらおうかと話しておられるぐらいの沖縄織物愛でして。以前作家ものの商品を卸した先の呉服店がセール品にして安く販売したということで取引を打ち切ったということもあったようです。もちろん相場から大きく外れた高い値段も良しとしません。

何度かそのコレクションを見せていただいたことがあるのですが、すべてその方にとっては「宝物」であり、生涯を通して集めた作品集であり、その一反一反に物語がありました。反物についてのお話を話し始めたら止まりません汗。

消費者心理からすると購入するのであればこういう方から買いたいと思うんですが、先ほどのケーキ屋さんの話と同じで思い入れが強すぎるとなかなか大変な思いをすることになります。商売人のように小賢しい計算ができなくなりますし、会社の利益なんか二の次で作家さんを守ったりいい作品を作ってもらうことを優先してしまうので利益を出すこと以外のことが積み重なっていき、いつの間にやら仕事としては成立しなくなっていくということはよく聞きます。

私がこの業界に入って以来、たくさんの作家さんと知り合って、中には残念ながら経営を続けていけなくなって廃業する方も多くおられました。かなり以前に放映されていたドラマ「陸王」は職人気質の社長がコストやリスクの計算をせずにマラソンシューズの開発に没頭し、ついには素晴らしい製品を作り出すという話でした。ここで見逃してはならないのは番頭さんの存在で、社長がコストやリスクを気にせずに突っ走ってしまおうとするところに金勘定に敏感な番頭さんがブレーキをかけるという構図でしたね。

ドラマの場合は、最後に成果が出てハッピーエンドになりますが、現実はそうではなくいいものを作り続けても宣伝の方法だったり、時代が悪かったり、その他様々な要素で世の中に受け入れられず、ついには運転資金が底を尽き会社が傾く、なんてことは多々あります。

着物の世界も作家さんが自分の技術の粋を尽くしたいいものを作りたいという思いが強すぎた結果、コストがかかりすぎて非常に高額なって売れなくなる、という話はよくあるんですよ。時間をかけた素晴らしい作品を作りたいという気持ちは作家さんはもちろん、物作りに携わる方でしたら誰しも持っておられると思います。ただ、残念ながらごく一般的な作家さんの作品のボリュームゾーンは30万から40万程度に抑えないと敬遠されてしまいますので、コスト意識は常にもっておかないとすごく手が込んだ素晴らしいものであっても高すぎて売れない作品の在庫がどんどん増えてしまいます汗。

ある作家さんは同じ技法を使った超有名作家さんを指して「私もあの値段で販売(数百万レベル)できるくらいコストをかけることができたらすごいもの作れるんだけどなぁ」とこぼしておられましたが、その数百万のものを購入できるお客様をつかんでいて販売できるのも作家さんの力だよなぁ、と思いつつも作家さんも大変だな、と思いました。あ、思っただけでその作家さんには何も言ってないですよ。

以前に某作家さんの工房にお邪魔して糸を染めている様子を見学させてもらったことがありますが、大きな瓶一杯に入った帝王紫の染料を釜の中にドバドバと入れるんですよ。帝王紫といえば染料の中でも一番高いとされているもので、その作家さん曰く「このひと瓶でベンツが買えるよ」とのことでしたが、それを惜しげも無く釜の中にドバドバと全て放り込んでおられました。粉状になっているものだったので釜の中に入れる時にその粉が釜の蒸気で一部煙のように舞っていたのですがそれを見て「この舞っている粉だけで1万円ぐらいになってるんちゃうん」とか思ってしまった庶民の私でした。

その作家さんは超売れっ子でかなりの逸品を作っている方で、当然経営もうまくいっておられたと思うのでそんな高価な染料も使えるのですが、うまく回っていると思われた作家さんの会社が突然倒産した、なんてことも今まで何度も見てきましたので、やはり先ほど書いたドラマ「陸王」のようにコストやリスクの計算をしながら作家さんをうまくコントロールする番頭さんが必要なんですね。

でもユーザーからすると作家さんが「この染料使うと、この技術を入れると高くなるしなぁ、やめとこか」なんて考えてるものなんてなんだかなぁ、と思ってしまいますし、かといってコストを考えずに作って高くなりすぎるのも手が出なくなってしまいます。番頭さんと作家さんが役割分担しながら、作家さんはものづくりに専念、番頭さんは作家さんの手綱を引きながらコストと価格、売れるかどうか、市場に出るとどのくらいの値段になるか、という計算をしてうまくバランスを取っていただきたいな、と思うのです。

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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
住所:大阪市大正区泉尾3-15-4
電話:06-6551-8022
https://www.kikuya.shop/

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