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大林宣彦監督とキネマの玉手箱〜goen°とラビリンス

「海辺の映画館〜キネマの玉手箱」

劇場公開を予定していたが2020年4月10日、
大林宣彦監督は旅立たれました。
コロナ禍によって映画は7月31日に延期されましたが、監督はきちんと公開予定日を迎えられたのです。
私が監督とはじめてお話させていただいたのが2020年1月9日の監督のお誕生日です。

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(大林宣彦監督の誕生日、奥様でありプロデューサーの恭子さんと娘の千茱萸さんと)

出会いがあまりにも浅い私ですが、この世界に残したい大切な言葉を聞いてしまったので、映画のポスター制作秘話を交えて、お話させていただきます。

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「海辺の映画館〜キネマの玉手箱」2020
尾道の映画館で、日本の戦争映画特集を観ていた戦争を知らない若者3人がスクリーンの世界へと
タイムスリップし、明治維新から第二次世界大戦までの戦争を体験し映画のヒロインたちがその犠牲
となる姿を目撃して、原爆投下前夜の広島で出会った原爆の犠牲となる定めの移動劇団「桜隊」の
運命を変えるべく尽力する姿を、モノクロ、サイレント、ミュージカル、時代劇、アクションなど
さまざまな映画の表現や様式を総動員して描く。

「海辺の映画館〜キネマの玉手箱」を観てしまった!

ある日突然、アスミックエースの豊島様からご案内いただき、この作品に出会ってしまいました。
スタートした瞬間から3時間後まで仰天し続けました。
戦争史と映画史とが掛け流し上映のようにすべてが紡がれ思考が揺れ動きました。開けてはならぬ玉手箱をあけ現代に戻った時、まわりのすべての景色が変わってみえたのです。鑑賞後はすべての仕事が手につかず帰宅して寝込みました。
大林監督の生きる力の源を感じ、これを作らなかったら死ねないという執念を感じ震えが止まりませんでした。人がそれほどまでに伝えるべき宿命をもって作った作品は震えます。

震えもおさまり数日経ったある日、連絡がきたのです。
「この海辺の映画館のポスターやってみませんか?」

大林宣彦監督の作品で心をかき乱されて大人になった私にとって、ポスターに関わらせていただけるのは、大変光栄なことです。
でも好きすぎて、出来ない気持ちの方が大きくなり戸惑ってしまいました。
今作は、監督の生命力、魂を剥き出しにしたような最高傑作だからこそ、自信がありませんでした。

でもHOUSEの海外版ポスターが好きで、どうしても引っ張られてしまいます。まずは、引っ張られつつもかき乱された痛くなった気持ちをPOPに描いてみようと、手を動かしました。

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   (大林宣彦監督作品 HOUSE 1977)

大林宣彦監督のためだけにポスターを描く

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大林宣彦監督がフィルムを繋ぐように、ただ手を動かす。切って貼ってを繰り返し、そしてなぜか鯉を砂絵で描き出しました。本能に任せて手を動かしました。
普段は目的とターゲットにあわせてビジュアルを考えますが、これは仕事とは思わず、個人的に大林宣彦監督のためだけに、ラブレター代わりに描きはじめました。

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(最初に作ってみたポスター)
ラブレターは止まりません。手が止まりません。
次に私は無力ながら大林宣彦監督に喝采と感謝を伝えたく、大林宣彦監督自身をもポスターにしたいと思いました。変えることができない悲しみ、変えていくことができる強さが色鮮やかに混沌とコラージュしていきます。

LABYRINTH of CINEMAから描きはじめました。1番上の2行の箱は、LABYRINTH(ラビリンス)、そして監督がフレーミングしているところにof、そして、月や太陽のように丸を重ねてCINEMA。そこから止まることなく、気づけば色と情報の洪水です。ポスターカラーで全て構成するのは、美大を目指した予備校以来です。(笑)

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実際、監督に届けるためのものは、全エネルギー注いでも足りないくらいでした。

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『海辺の映画館−キネマの玉手箱』
©2020「海辺の映画館−キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
配給:アスミック・エース

(ふたつめに描いたもの。これが採用となる。)

混沌としすぎたので、冷静になろうと思い、もうひとつ作りました。

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(3つめ。少し落ち着いたもの)

大林宣彦監督はその頃、入院されていたので大林千茱萸さんに描いたものを見ていただきました。あまりにもパーソナルなものなので、とても恥ずかしかったです。

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そんな私に千茱萸さんは優しくしてくださり、いちばん無心で一枚の紙に感じたすべてを込めたものを選んでいただきました。

千茱萸さんから数日後、大林宣彦監督に絵を見せている写真が送られてきました。
届いたことが嬉しくて舞い上がり小躍りしました。
監督は、隙間恐怖症で1番混沌としているものを気に入ってくださいました。むしろ、わずかに残る余白(隙間)をもっと埋めてほしいというリクエストが来ました。出演してくださった縁ある全ての人、シーンを見せたいと。そんな監督の役者さんへの想いを感じ、泣きながら作業させていただきました。
ポスターを通して監督と初めて会話が出来たことを誇りに思います。

大林宣彦監督と出逢う!

大林千茱萸さんのお心遣いで、2020年1月9日大林宣彦監督の誕生会にお招きいただきました。
故郷の青森にいたのですが、飛んで帰って参加しました。監督が大切にされてきたスタッフや山田洋次監督がいらっしゃいました。

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監督は穏やかで、品があり、美しい空気を放っておりました。
大切なファミリーに囲まれる監督の笑顔をみて、涙がでるほど愛おしい時間でした。

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ハッピーバースデートゥーミー♫と
ご自身で歌いロウソクをチャーミングに吹き消しこう言ったのです。

映画が描くこと、伝えるべきこと
たくさんある中で 情報を削ぎ落とし
たった一つをあげるならば
『幸せな世界になってほしい』
今日 明日 
何が起こるかわからないこの世の中で、
争うことなく
幸せに 生きるということ。

監督は、
ひとことひとこと…丁寧に発しました。


(このInstagramに監督がお話されてる様子もアップしてあります、ご覧ください)

ずっと生きてほしい。ずっと作り続けてほしい。
そう願ってきました。
公開日に天に召されてしまいましたが
この映画の中に、監督は生き続けていると思います。
そのくらいに魂のこもった、監督の想い全てが詰まった集大成の作品です。
「海辺の映画館〜キネマの玉手箱」
ぜひ、ご覧ください。

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10月15日ー18日
京都国際映画祭2020にて大林宣彦監督特集!

大林千茱萸さんがプログラムプロデューサーに任命されました。
私たちがこれまで観たことのない未公開映像、CM、メイキング…数々の発掘されたお宝映像がこのために編集され初公開されるそうです!
映画祭の全ての作品は、オンラインで観れるそうなのでとても楽しみです!

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(まさに、今、編集中の千茱萸さん!)


NHKクローズアップ現代
“未来を変える力”を問いかけられて ~大林宣彦からの遺言~


公開予定日大林宣彦監督から「映画をつないで平和な世の中に」と託された映画監督がいる。岩井俊二さん・手塚眞さん・犬童一心さん・塚本晋也さん。全員がバブル期にデビュー。大林さんら戦争を知る世代と比べて、描くべきテーマがない「空白の世代」とも呼ばれてきた。4人が今、直面しているのが、新型コロナ。映画制作がストップするなど、映画界はかつてない危機に陥っている。コロナ禍をどう生きるのか、何を描くのか。4人の知られざる苦闘の記録。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。

こちらから
https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/
ぜひ皆さま、ご覧ください。

こうして永遠に大林宣彦監督の作品に触れられるのは最高に幸せでラビリンスです!

(goen° 森本千絵)

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goen°と映画ポスター】

鈴木一真監督『監督感染』
是枝裕和監督『空気人形』『海街diary』
河瀬直美監督『vision』
山田洋次監督『男はつらいよ50 お帰り寅さん』
大林宣彦監督『海辺の映画館〜キネマの玉手箱』

2021年公開予定 山田洋次監督「キネマの神様」のデザイン。


【森本千絵プロフィール】

1976年青森県三沢市で産まれ、東京で育つ。
武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科を経て博報堂入社。
2007年、もっとイノチに近いデザインもしていきたいと考え
「出会いを発見する。夢をカタチにし、人をつなげる」を
モットーに株式会社goen°を設立。
現在、一児の母としてますます勢力的に活動の幅を広げている。

niko and...の菅田将暉・小松菜奈のビジュアル、
演出、SONYmake.believe」、組曲のCM企画演出、
サントリー東日本大震災復興支援CM「歌のリレー」の活動、
Canon「ミラーレスEOS M2」、
KIRIN「一番搾り 若葉香るホップ」のパッケージデザイン、
NHK大河ドラマ「江」、
朝の連続TVドラマ小説「てっぱん」のタイトルワーク、

広告の企画、演出、商品開発、ミュージシャンのアートワーク、
本の装丁、映画・舞台の美術や、
動物園や保育園の空間ディレクションを手がけるなど
活動は多岐に渡る。

現在、本年の二子玉川駅ライズ空間のクリスマスツリーや、
青森新空港のステンドグラス壁画を制作中。

【受賞歴】
N.Y.ADC賞、ONE SHOW、朝日広告賞、アジア太平洋広告祭、
東京ADC賞、JAGDA新人賞、SPACE SHOWER MVAADCグランプリ、日経ウーマンオブザイヤー2012、
50th ACC CM FESTIVALベストアートディレクション賞、
伊丹十三賞、日本建築学会賞、など。

【著書】
「GIONGO GITAIGO JISHO」
(ピエ・ブックス/2004年)
作品集「MORIMOTO CHIE Works 1999-2010 うたう作品集」
(誠文堂新光社/2010年)
ビジネス本「アイデアが生まれる、一歩手前の大事な話」
(サンマーク出版/2015年)
絵本「おはなし の は」(講談社/2015年)
絵本「母と暮せば」(講談社/2015年)

goen°の活動を応援してくださる皆さま これからもご支援よろしくお願い申し上げます!