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好きなことで生きていかなくても、いい。

「好きなことで、生きていく」みたいな。あるじゃないですか。最近、その考え方が再び賛美されているように感じて、ちょっとこわいです。“好き”を生業にできなかった人が、まるで不幸だと言わんばかりで。穿った見方をし過ぎでしょうか。

でも、このキャッチコピーを目にする度に、胸が痛む人はいるでしょう。バンドでデビューを目指していたとか、漫画を出版社に持ち込んでいたとか。いろいろな人がいるはずです。だからやめろと言っているわけではないんですが、「好きなことを諦めた人もすごいんだぞ」と言いたいんです。

僕は大学時代、演劇部で脚本を書いていました。同期には、プロを目指して新国立劇場の演劇研修所の試験を受けた友人がいます。彼は合格したら退学する覚悟で、大学3年時に受験しました。結果は不合格。定員が10数名だったかな。彼は同期のエースとも言える芸達者だったので、事後報告で聞いた時は、プロの門戸は狭いんだなと痛感したのを覚えています。

一方で、もう一人の同期が彼に倣って、大学卒業を控えた4年生のタイミングで同研修所を受験。結果は合格でした。昨年受験したほうの彼は、知らせを聞いて「すげーよ!!!!」と本気でよろこんでいました。複雑な表情一つ見せずに、いいヤツだなと思いました。

合格したほうの同期はプロの役者に成長し、現在も舞台を中心に活躍中です。僕が大学を卒業したのが2008年ですから、もう17年目です。本当にすごいです。話を聞く限り、決してラクなことばかりではない……どころか、大変なことのほうが多いかと思いますが、したいことを仕事にできていて幸せそうです。夏からは、誰もがタイトルを聞いたことのあるような大きな舞台に出演します。かっこいいですよね。

でも、でもですよ。就職したほうの彼は、好きだった子と念願だった結婚をして、子どもにも恵まれています。研修所に入らずとも、就職せずに舞台を続ける選択肢はいくらでもあったと思うのですが、好きな人の幸せのために「好きじゃないことで、生きていく」を選んだんです。彼もまた、かっこよくないですか?

ああ、結局、何が言いたかったのかと言うと、幸せの形は仕事だけじゃないよ、と。別に、僕なんかが改めて言わなくてもいいくらい、当たり前のことなんですけど。もちろん、理想の自分を完成させるべく努力している人は、すばらしいです。でも、それが叶う人ばかりじゃないですから。

あとは「好きなことを生業にする」だけが全てだと思うと、つらくなるよと言いたかったんです。だって、「生きる=仕事」じゃないだろう、と。生きるって、もっと細部にあるように思います。レシピを見てつくったご飯がおいしかったとか、おもしろいYouTuberを見つけたとか、好きな漫画の最新話が更新されたとか、たくさん寝たとか、好きな人が笑っているとか。

最近は副業を勧める動きが盛んですから、自分の“好き”との適度な距離感での付き合い方が見つかる人が増えるかもしれません。そんなわけで、別に好きなことで生きていかなくてもいいじゃん、という主張でした。

っていうか、仕事に深刻にならなくていいのかな、みたいなことを最近考えています。

写真は、当時の3人です。では、またお会いしましょう。

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