見出し画像

巨人・坂本勇人の打撃成績と守備のキャリアを振り返る

若手の頃は打撃型遊撃手の印象が強かった

現在の坂本勇人の実績は、歴代的に見ても攻守ともにトップクラスの遊撃手と言っていいほどの選手になった。 高卒2年目から巨人のレギュラーとしてはもちろんのこと、2大会連続出場したWBCなど国際大会でも日本代表の遊撃手を長い期間担っている。 
また、守備面では若手の頃から一歩目のスタートや判断はよく守備範囲は広くファンプレーが多かったが、安定感がなくイージーミスが多く捕球やスローイングの確実性が課題であった。
なぜなら、高卒3年目で規定打席3割到達や4年目で30本塁打以上を放つという華々しい打撃成績を残すなか、守備の失策数が2008~2011年までセリーグ最多だったからだろう。
その結果、多くの野球ファンからはイメージや先入観で守備があまり上手くない遊撃手という印象がついていたのではないだろうか。

宮本と井端の熱血指導で潜在能力が引き出される。

2012年のシーズン前の自主トレで坂本は、当時東京ヤクルトスワローズに在籍していた宮本慎也の弟子入りをした自主トレで、坂本は確実性のある送球や正しい捕球の体勢や正確なスローイングなど守備の基礎や学んでいくことによってとして身につけていき、さらに多くのアドバイスをもらい、練習を重ねていった。 

さらに、2014年にはこれもまた球界屈指の名手である井端弘和が中日から巨人に移籍し、守備に対するスローイングの間の作り方などを助言されるなど、名手のプレーを間近で見ることやアドバイスをもらい着実に守備力のレベルが向上していき、入団当初から光っていた広い守備範囲に加え、2014年あたりからは堅実な捕球や正確なスローイングも自分のモノにして、守備面も大きく飛脚し、攻守ともに球界を代表する遊撃手へと成長した。

また、ここ5年の守備の指標を表すUZRでは

2015年:32.3(セパ両リーグ1位)
2016年:15.1(セリーグ1位)
2017年:10.6(セリーグ1位)
2018年:10.0(セリーグ1位) 

2019年:-3.0(セリーグ4位)
という数値(デルタ調べ)であった。 

そして、一般的に守備の確実性の高さとして参考と見られるデータの守備率も2015年は.982でセリーグ1位であり、2017年は失策数がキャリア初の一桁になり.987でまたもセリーグ1位に輝いた。 
これはプレーを見てももちろんのこと、数字から見ても若手の頃に比べて捕球や送球の確実性がつき、成熟したと思われる。
そして、この成熟期間のキャリアとして見ると、2015年のプレミア12では最優秀守備選手を受賞し、2016年,2017年と昨シーズン含めて3度のゴールデングラブ賞を獲得した。
このような守備力を認められた上でタイトルを受賞し、選手として箔がついたことから一般的なファンからの印象も以前とは変わり、守備も上手い遊撃手のイメージになっていったのではないだろうか。

遊撃手として歴代初の3割40本塁打を達成した2019年シーズン

キャリア14年目を迎える坂本勇人は、2000本安打も間近の通算1884本の安打に到達しており、昨シーズンは40本塁打をはじめ打点や長打率もキャリアハイを更新して2番打者ながらも「パワーフォルム型」として、歴代の遊撃手として見てもトップクラスの活躍を見せた。 

打撃スタイルとして見ると、2016年〜2018年はオールラウンダーやバランサーのようなタイプであった中、昨シーズンはさらに自らの引き出しの手札を増やすような形で「バレル」(参照:『セイバーメトリクスの落とし穴』第4章 バッティング論◆フライボール革命とバレルゾーン)を開幕からシーズン終盤まで再現性を高めた形で、パワーフォルム型のスタイルで長打を積極的に狙っていき、DeNAのソトとシーズン終盤まで本塁打王争いをしていた。 
2016年〜2018年は坂本を3番に置かざるを得ないチームの状況であったが、2018年オフに加入した3番打者として及第点の活躍を見せた丸佳浩の存在が大きかったのは間違いないだろう。 

キャリア通して初となる2年連続の3割到達はもちろんだが、セリーグ新記録となる開幕戦からの36試合連続出塁や歴代的に見ても3割40本塁打を達成した遊撃手は坂本が球界史上初の快挙となり、2016年のセリーグで初の遊撃手として首位打者獲得した時よりもさらに箔がつき、歴史に名を残したのではないだろうか。

投手や局面によって見られた高等技術

2019年のシーズンから足の上げ方を従来のように大きく上げたりすり足にしたりや二段階にしたりと、その打席の対戦投手やタイミングによって変えている場面がしばしば見られた。このようにタイミングを工夫しているのはソフトバンクの柳田悠岐や昨シーズンパリーグ首位打者になった森友哉も行なっているハイレベルな打撃技術である。さらには、こちらも打席によってグリップの持ち方も指一本分開けることもしばしば見られた。このテクニックはソフトバンクの松田宣浩が実践しており、坂本に直々にアドバイスをしたのは村田修一コーチだそうだ。 

この打撃成績に隠れがちだが、自身としては2014年以来のシーズンフル出場も果たし、キャプテン就任後初のリーグ優勝に大きく貢献をした。
昨シーズンこのような活躍ぶりを見ても坂本勇人という選手は遊撃手という括りを超えて歴代的に見てもさらにワンランク上の選手になったと思われる。

今後の遊撃手としてのパフォーマンスはどうなるか

中堅と言える年齢期間のキャリアであった2013年〜2015年あたりのパフォーマンスは素晴らしいものであったが、ベテランに差し掛かる近年は守備として見た全盛期に比べるとプレーを見ていても動きが落ちてきているのがわかり、昨シーズンはゴールデングラブ賞を獲得という形になったものの、数値として見るとUZRはキャリア初のマイナスを記録した。
この先、国内を代表する遊撃手として、パフォーマンスがどう変わっていくか気になるところだ。
過去の遊撃手として活躍した選手も30歳を越えたあたりからセンターラインとしてシーズンを戦い抜くパフォーマンスが落ち始めて三塁手にコンバートするのも珍しくはない。
遊撃手というポジションは、野球選手としては花形でありエリート路線のポジションであるが、シーズン通して守備の負担が大きく身体的に怪我に強く攻守や心技体すべてにおいて優れた選手が、起用される場合が多い。
さらには、遊撃手は二塁手同様センターラインのため、打球に対する広い守備範囲や深い場所から送球する肩でカバーしなければならないポジションである。
それでは、過去の例を挙げていきたいと思う。
元ヤクルトの池山隆寛は27歳の時にゴールデングラブ賞を獲得するが、31歳の年にアキレス腱痛に悩まされ53試合の出場に止まり、翌年に宮本の台頭もあって三塁手にコンバートし、元広島の野村謙二郎は、29歳の年にトリプルスリー達成やゴールデングラブ賞を獲得したが、32歳の年に股関節の痛みに悩まされシーズン中盤から二塁手や三塁手を守り機会が増え、翌年からは江藤智の巨人への移籍もあり三塁手にコンバートした。
さらに、坂本に自主トレで指導した元ヤクルトの宮本も、遊撃手から三塁手にコンバートしている。36歳の年に2度の故障もあり、レギュラーになってから初めて出場試合数が100試合を切り、38歳のシーズン途中から三塁手にコンバートした。
近年では、阪神の鳥谷敬が35歳になる年に三塁手にコンバートされ、昨シーズンから巨人に在籍さている中島裕之が30歳を越えたあたりで遊撃手から一塁手や三塁手にコンバートしている。
上記の選手を見てもチーム状況はもちろんだが、選手個々の年齢によるパフォーマンスや足腰の負担や怪我を考慮し、30代前半に遊撃手の選手はコンバートしている。
そのようなことから、プロのキャリア通じて生涯遊撃手を守り続けるのはかなり厳しいと見ている。 過去の選手の例を見てもわかるが、坂本も早ければ来年や再来年のキャンプからは一塁手、三塁手、外野手へのコンバートの可能性もあり得ると言えるだろう。

打撃面の課題は夏場と隔年現象の克服

高卒2年目の2008年から一軍にデビューし、2009年には初の3割到達、2010年は30本塁打達成という華々しい若手の時代を築いていた坂本だが、統一球ながらリーグトップの得点圏打率を記録した2011年、最多安打を達成した2012年を最後に2013年〜2015年は打撃面で燻っていた期間があった。
この期間は、特に守備の上達が球界でもトップクラスに君臨するぐらい素晴らしいものがある中、本来の才能を潜めるかのような打撃成績で首脳陣や巨人ファンはかなり悩ましかったと思われる。
その坂本に転機が訪れたのは、おそらく2015年に開催されたプレミア12だろう。
このプレミア12では、ヤクルトの山田哲人やタンパベイレイズの筒香嘉智にアドバイスを積極的にもらっていた。
これによって打撃スタイルに幅が広がり、2016年からはリーグのみならず球界でもトップクラスの打撃成績を残すようになった。 

2016年 打率.344 23本 75打点 OPS.988 
2017年 打率.291 15本 61打点 OPS.802
2018年 打率.345 18本 67打点 OPS.962
2019年 打率.312 40本 94打点 OPS.971 

また、昨シーズン3割達成したことによって長年懸念材料としていた数年連続ではなく、単年でしか3割達成していない打撃の安定のしなさも昨シーズン解消されたと思われる。 

昨シーズン2番打者として優勝に大きく貢献したが、この2番打者としての資質もプレミア12で日本代表として2番打者を経験したのも大きかっただろう。
さらに、昨シーズンのパワーフォルム型はもちろんのこと、2016,2018年のシーズンや2017年WBCのようなオールラウンダーやバランサー型の打撃スタイルとしても、ランナーを置いた場面や試合展開によっては意図的に右打ちなどをしたりして臨機応変に対応できる選手にもなった。 

今後の課題としては、苦手の夏場を乗り越えていくことと、打撃スタイルの変化からの確立があげられ、若手の頃から夏を不得意としており、毎年のように打撃の調子が下降する傾向が見られる。

顕著だったのが、2013年だ。規定打席到達時点で打率.303を記録していたが、最終的な打率は.265にまで下がった。2017年も7月は打率.352と調子が良かったものの、8月は打率.221と急下降し、9,10月も打率.208となり3割を切る形となった。

坂本自身が夏場に弱いことと、コンディションの低下によって下半身に粘りがなくなることが原因だろう。

国際大会などによる疲労もある中でそれを改善していくには、昨シーズンのように5月6月ぐらいの段階で疲労等を含め、コンディションを考慮した上で休ませていくことが不可欠だ。

ただ、疲労から来る調子やコンディションの低下を持ち直すことに関しては、昨シーズンやプレミア12で克服しつつある場面が随所に見られた。シーズン中では疲労から交流戦では低調だったが、交流戦明けまでの移動日期間に調子を持ち直した。その後のCS~日本シリーズやプレミア12の大会序盤でも疲労から不調に陥ったが、大会中の移動日や控えに回る試合などを生かし、大会終盤のメキシコ戦や韓国戦では本来の打撃を見せることができた。

そういった意味で、昨シーズンの坂本は一皮剥けたのではないだろうか。今後も調子やコンディションをうまく持ち直していくことで、よりよい選手であり続けることができるだろう。

その他の面では、脚力が衰え始めたので打撃重視のプレースタイルに変えて、それを確立していくことも重要だ。年齢的な衰えもあるが近年は怪我や故障も増えてきており、一つ具体的な例を挙げるとするなら盗塁数は2017年を最後に一桁にまで落ち着き始めている。

このような状態から今後も遊撃手としてキャリアを積むことはなかなか難しいと思われる。仮に一塁手、三塁手、外野手などにコンバートをされるならば、チーム内で任せられる立ち位置にもよるが、昨シーズンのように「バレル」の再現性を高めて長打力のある打撃スタイルを確立させていくのがベターではないだろうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?