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ことはじめ

2000年代はじめ。

当時20代そこそこだった私が、バイト先の同僚に連れられて新宿のとある居酒屋に入ったときのこと。

「これ飲んでみな」と勧められたのが、日本酒の「十四代」という銘柄のお酒でした。

日本酒と言えば久保田、八海山、天狗舞でしょ?「美味しんぼ」の知識があればどこでも闘えるでしょ?

そんな無根拠な自信を持ちながら口に運んだ「十四代」は、甘く果実味があり、トンネルの中を流れる川をボートで進んでいたら突如開けて湖に出た、そんな感動がありました。

「他では飲めないよ」とニコニコしながら仰ったその居酒屋の店長。私はそのお店にたびたび通うようになります。そして行くたびにメニューに無い十四代を飲ませてもらうのでした。ただそのときの私にとって、「日本酒はお店で飲むもの」でした。自分で買うようになるのは、もう少し先のことでした。

20代後半になり、親元を離れ、一人暮らしを始めます。自炊に目覚め、料理が面白くなってきた頃でした。

中学からの馴染みの友人から、「十四代が定価で売ってる酒屋がある」と教えてもらいます。

十四代はプレミア酒であり、ほぼ一般小売されないことは理解していましたが、その友人は電話越しに「今その店にいる。目の前に十四代がある」と言うのです。それは見てみたい。

約束をして、後日その友人に酒屋に連れて行ってもらいました。すると、本当に十四代が売られていたのです。ただし、今で言う「抱き合わせ」でした。十四代の他に5本、つまり1升瓶が6本のセット販売。価格は20,000円前後だった思います。

高い。

でも定価だ。

十四代……、初めて美味しいと思った、一般的には手に入らない名酒が買える。家で飲める。こんな贅沢なことは無いのではないか?ほかの5本はよく知らないけど、美味しくなければ料理酒にでもしちゃえばいいだろう。

気づけば20,000円で十四代(プラス5本のよく知らないお酒)を買っていました。

当時、一人暮らしを始めたばかりの私の家には、2ドアの小さな冷蔵庫がありました。その冷蔵庫の棚板を全て取り払って、6本の1升瓶を詰め込みます。横に3本、奥行で2本、掛け算して計6本入れたら冷蔵庫は一杯です。

食料は野菜室とドアポケットに。

「日々食べるぶんだけ買うようにすれば、冷蔵庫に入れる必要も無いから大丈夫だろう」そんな考えでした。

そして……待望の、自分の家で十四代を飲むことができました。純米吟醸の山田錦、中取りと書いてあったと記憶しています。このときの満足感は言葉では言い表せません。所有欲と贅沢感がいっぺんに満たされたわけです。

ただし、くどい様ですが20,000円です。十四代以外の5本はどうだったのでしょうか?

これが驚いたことに、すべて美味しかったのです。規格まではさすがに覚えていませんが、銘柄は覚えています。

「豊盃」「くどき上手」「鳳凰美田」「相模灘」「菊姫」

私が自分でじっくりと1升瓶を飲むことになった、最初の6銘柄。じつは「菊姫」だけは、その時点で知っていましたが、それ以外はホントに知らないお酒ばっかりでした。

いま思えば、粒がそろいすぎています。20,000円は決して無駄ではなかった(しつこい)。

そしてもう一つ気づいたこと。1升瓶は3,000円前後。外食で日本酒を頼むと、1合700~800円(当時の相場)。家で飲むほうが格段に安いのです。家で飲めば、おつまみも作るだろう。ということは料理の腕も上がるだろう。一石二鳥だ!と考え、そこから私は、酒屋を巡るようになります。

当時住んでいた三軒茶屋から、通っていた酒屋。

新川屋田島酒店(外苑前)、かがた屋酒店(西小山)、籠屋 秋元商店(狛江)、唐木屋(西太子堂)、五本木ますもと(祐天寺)、小山商店(聖蹟桜ヶ丘)、酒の伊勢勇(鷺宮)、仲久本店(府中本町)、はせがわ酒店(表参道)(閉店)、ふくはら酒店(御徒町)、港屋(若林)(閉店)、……

メルマガも多数登録して、情報収集に努めました。

ネット販売に力を入れていた地方の酒屋さんからもお酒を取り寄せます。

当然のように2ドアの家庭用冷蔵庫では足りません。棚板を外しても1升瓶6本収納が最大です。そこでもう1台冷蔵庫を買う決意をします。

ホシザキSSB-70BT。

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当時の画像を引っ張り出しましたので荒いです。1升瓶で30本収納可能な、ショーケース型冷蔵庫です。

これもたびたび満室になるくらい、日本酒を買うことになるわけですが……。その後の動向については、旧ブログをご覧いただければ。


さて、旧ブログの終了から7年。

日本酒のブームは去り、消費量は年々右肩下がり。法改正も進み、海外に活路を見いだせる資本力のある蔵はまだ良いですが、そうではない小さな蔵はきっと大きな危機感を持って迎える2020年。

日本酒がこの世から無くなることはありません。でも、淘汰は進むでしょう。

そういう時代にいるのなら、ただ漫然と飲むのではなく、何かを残さなければならないと思います。

ただ、自分に出来ることは多くは無い。

まずは以前のブログのように、飲んだお酒について、またときめく体験をさせてもらえる飲食店について、できるだけ丁寧に紹介していく。時折、火中の栗を拾うように、思うことを書くかもしれません。

ただの備忘録にもなりかねません。ただの生存確認になるだけかも……。

願わくば温かい目で、暇なときに思い出して読んでいただければ幸いです。

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