価値観を握り合うために「泥臭い」人事、対話を:FoundingBase/探究学舎・福井健さん
GOBでは、毎週月曜にランチ会を開催。日々の学びなどをシェアするとともに、一部の会ではメンバーや各事業部の課題感に合わせてゲストを招いてお話を聞く機会をつくっています。
今回は、ゲストとして福井健さんをお招きしました。福井さんは地方自治体と連携して地域の課題解決や価値創造をサポートする「FoundingBase(ファウンディングベース)」で人事や組織開発を担当。また並行して、子ども向けに興味開発型の授業を展開する「探究学舎」で講師や人事業務を手掛けています。
福井健(ふくい・けん)さん
地方自治体のピラミッドから外れた動きで課題解決「FoundingBase」
GOBはこれまで、数多くの地方自治体やローカル企業と連携してアクセラレーションプログラム等を展開してきました。
福井さんが参画するFoundingBaseもそれに近い取り組みと言えます。まずはFoundingBase独特の取り組みを聞きました。
福井「例えば、島根県にある人口7000人ほどの津和野町は、さまざまな課題を抱えています。バスが走ってない、生徒数が減って高校がつぶれそうになっている、などなど。FoundingBaseはそういった自治体と業務委託契約を締結。『地域おこし協力隊(総務省による、都市部から過疎地への移住者に対して人件費や活動費を援助する制度)』の制度を活用して、任期付きの役場職員として採用されることになります。
役場は超ピラミッド構造でトップダウン型の組織であることが多いです。私たちはまず、そのピラミッドに入らない部署を新設してもらい、そこにFoundingBaseのメンバーを派遣して自治体業務の一部の委託を受けます。そこで、ポジションを取りつつ一人ひとりが事業を作って行くんです。その地域の“生態系”に入っていくので、町の人たち親しみを込めて『ファウンディングの人』なんて呼ばれ方をします」
密な対話プロセスで、相手と握り合う
福井「この取り組みでまず重要なのは、どの自治体とともに取り組むかを見極めることです。自治体にとっては、ともすれば「自分たちの財布の紐を切らずにやってもらえるもの」にも見えてしまいますから、『あまりやる気は無いけど数字は出さなきゃ』みたいなモチベーションで手を挙げるところもあります。でも、それでスタートするとキワをせめた事業をしようとした時にブレーキを踏まれてしまうんです。我々を含む現場のメンバーが地域の課題に対して当事者意識を持って自己表現しようとしているのに、大人の都合で止めざるを得なくなってしまう。ですからまずは入り口の段階で、私たちの論理を説明し、そこに乗っかってきてくれる自治体さんと手を組むことを大切にしています」
しかし、東京のスタートアップであるFoundingBaseと自治体とでは、文化やロジックなど全く異なるものでしょう。自治体側にそれを理解してもらうことは簡単ではないはずです。FoundingBaseが、自分たちの論理を自治体へ理解してもらうために行っている工夫を、福井さんが次のように話してくれました。
福井「自治体がトップダウンで動いているということは、逆に言えば、トップとの関係性さえうまく構築できれば自由に動けるということでもあります。これはかなりローカル独特の文化ですけど、私たちはまず契約をする前に、町長さんや役場の重役の方々との対話の機会を設けます。契約前ですが、ここでかなり密にお話をするんです。
また、地元の経営者やカフェにいるようなおじちゃんおばちゃんたちとも対話を重ねます。こうした動きの中で、徐々に私たちのやろうとしていることに地域として理解を示してもらえるので、これはものすごく大切にしているプロセスです」
「場合によっては、はなから対話の姿勢を持たない人が相手の場合もありますけど、間違っても、私たちの売上のことだけを考えてトップの意見だけに忖度した取り組みはしません。それをやるとどんどん魂を売った商売になってしまう。『本当はやりたくないのに』という方向に舵を切らなければならなくなることは明白ですから。
もちろん怒られることもありましたけど、キワを攻めていく事業で自分たちがこだわりを捨て始めたら際限なくなってしまいます。『これもやって』が続いてしまい、結局は明日のご飯を食べるための仕事になってしまいますから、そういう時には刺し違えるような対話のプロセスを踏むことも厭いません」
“変わらない町の人”が大きな味方になる
とはいえ、自治体の規模が大きくなればなるほどトップと握り合うことは難しくなります。また、現場担当者は数年単位で激しく入れ替わっていきます。そういった環境の中で自分たちの表現をするのは難しいのではないでしょうか?
福井「町や村といった基礎自治体レベルでは握り合えても、県のレベルになると、確かにトップとの対話を持つことは簡単ではありません。ただ、同じようなことは基礎自治体レベルでも起こり得ます。
実際、僕らがプロジェクトをご一緒しているある町でも選挙が2回ありました。
上でお話しした通り、最初のうちは町長と対話を重ねていました。でもだんだんとプロジェクトを進める中で、町の人たちを握れるようになっていくんですよ。変わる可能性がある役場の人たちではなく、変わらない地元の人が味方になってくれる。こうした動きは面白かったですね」
情熱大陸で一躍話題に、混乱期の組織の中で泥臭い人事
ここから話は、福井さんがFoundingBaseと並行して動いている探究学舎でのお話に移ります。探究学舎は2011年に三鷹に開校(創業は2005年)後、興味開発を切り口としたアプローチで、着実に注目を集めていきました。
そんな中、2019年3月に、代表の宝槻泰伸(ほうつき・やすのぶ)さんがテレビ番組「情熱大陸」へ出演。すると、その知名度は一気に高まり、組織も大きく変革を遂げたと言います。そんなある意味での混乱期にある組織において、福井さんが人事として大切にしていることを聞きました。
福井「元々コミュニティ感が強い組織に外の風がバーっと吹いてきているので、今は良い意味で混乱期にあります。仕組みを形成しつつある時期です。
実際、組織内でモチベーションの差による不満不平が生じたり、価値観が握れてないことでの問題も生まれたりしています。顕著に感じるのが『こういう時どうすればいいんですか』といった聞き方をするケースが増えてきていることです。
本来、私たちはマニュアルや明文化した何かではなく、『正解はないからあなたという人格で向き合ってください』という組織だった。でも急な拡大によって、その文化が共有しきれなくなっているんです。問題があった時に『やばい』で終わるのではなく、そこに自分がどう向き合うか、どう学びに変えていくかが働いてる中での喜びや面白さにつながるのだということを理解してもらう必要があると感じています。
今は、長くいる既存メンバーが、新しくジョインした彼らと1対1で丁寧にコミュニケーションを取り、そうした文化や価値観を定着させている段階です。メデイアではきらびやかに出るかもしれませんが、かなり泥臭い人事をしています」
探究学舎で人が育つワケ
GOBでCFOを務める村上茂久も、探究学舎の代表である宝槻さんとは古くから親交を深めています。つい先日も、探究学舎の授業を見学へ行ったそうで、その時の様子を「衝撃を受けた」と振り返ります。
村上「僕は以前に宝槻さんの授業を見ていて、そのレベルの高さに驚きました。でも今回見学した時にほかの講師の授業を見ていたら、宝槻さん以外の先生のクオリティもかなり高い。探究学舎の授業って、マニュアルよりも感じ取るものといった側面が強いと思いますが、それをどのように仕組み化しているんですか?」
福井「これは、宝槻のスタンスによるところも大きいかもしれません。彼の視点は、現在と未来で分けると『5%:95%』くらいの比重で未来を見ています。普通なら、代表の役割には、社内政治みたいなものも入るかもしれない。けど彼は『社内政治なんて知らない。君たちで勝手に実装して』みたいな。授業も、どうしても自分がやる必要があるもの以外はほかの先生に任せています。
はじめの頃はメンバーが全く育たなくて、正直いうと、宝槻以外は誰もそのクオリティではできなかったんです。そうしたら彼が『もうやらねぇ!』って言って放り出しちゃって(笑)。周りが価値を作らざるを得ない状況になりました。ここで覚悟を決めて投げられたことはトップとして本当に素晴らしいことだと思っています。
象徴的なのは、2年ほど前に僕が初めて探究学舎にお手伝いに行った時のことです。ちょっとしたお手伝いのつもりで来た僕に、その日にいきなり授業をさせたんですよ。当然何も知らないし、子どもたちもはじめましてで、全くうまくいかなかった。
でもここであえて屍を踏ませて、『お前悔しいだろ。できるようになりたいだろ』と。宝槻は、そのあたり、人の努力の感覚を掴むのが上手い人なんです。『お前らが必死になって勝手に育つんだ』っていう足場をかけ、橋渡しを一人ひとりにやって、事実そこから2年で、宝槻よりも別の先生の授業を希望するお客さんも出てきました。
『あの人はこれをやりたいんだろうな』っていうのを握って、『今ダメダメだぞ』と認知させて、学べる機会をめっちゃいっぱい作っていく。これの繰り返しでできたものなんだろうと思います」
FoundingBaseウェブサイト
探究学舎ウェブサイト