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やる気不要の自習サービス「ヤルッキャ」開発の裏側:Herazika・森山大地

「人間が生まれながらに持っている怠惰性をいかに解決するか」

小学生向けのオンライン自習室「ヤルッキャ」を運営する株式会社Herazika(ヘラズィカ)代表取締役の森山大地(もりやま・だいち)さんは、事業の根底にある思いを話してくれました。

2023年2月にサービスを大幅にアップデートした森山さんの事業へのこだわりを聞きました。

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。KSAPは、社会的な価値と経済的な価値を両立させようと挑戦するスタートアップをサポートする取り組みです。KSAPの詳細はこちら

習い事が続かない娘の様子が「ヤルッキャ」開発の気づきになった

Herazikaが提供している「ヤルッキャ」は、小学生向けのオンライン自習室です。

勉強する時間を自分で設定すると、同時刻に勉強する他の小学生たちと自動的にチームが作られます。指定の時間に専用のルーム(自習室)に入室すると、ビデオ会議のような画面に映し出されて、お互いの様子を見ながら学習できるのです。

顔には自動でボカシが入るため、プライバシーに配慮しながら、お互いの様子が見られることで集中力を維持しやすい設計になっています。


ヤルッキャは一見するとシンプルな教育サービスですが、実は小学生が自ら机に向かい、集中力を維持するための工夫がサービスの至る所で細かく設計されています。

出席日数によってもらえるポイント(1pt=1円)が上下する機能、後述する学習中の様子を録画する機能などがその一例です。

こうしたサービス設計に大きく関わるのが、代表である森山さんのバックグラウンド。事業立ち上げにつながる原体験を聞きました。

「私は幼い頃から、社会的に当たり前とされることができない自分の『怠惰性』にコンプレックスを抱えてきました。自分にダメ人間のレッテルを貼り、『ダメ人間の自分は休んではいけない』という強迫観念から、毎日4時間しか眠れない生活が何十年も続きました。そこから、『人間が生まれながらに持っている怠惰性をいかに解決するか』が大きな問題意識になっていったのです」(森山さん)

その後、お子さんと生活する中でのある気づきが、怠惰性を乗り越える事業を作るためのヒントになったと言います。

「子供には自分の好きなことを見つけてほしいと思い、少しでも興味を示したものには習い事などに連れて行きました。しかし興味を示してはやってみて、すぐに飽きるの繰り返しで、どうもうまくいきません。あるとき、これまでにないほど目を輝かせたウクレレの体験教室に連れて行きましたが、娘はその日に辞めると言いだしました。これは何かがおかしいと思って話を聞くと、自分が憧れた演奏と、上手くできない自分とのギャップに退屈さを感じていたのです。これはすべての物事に言えます。つまり習熟度が低い状態では、その物事の魅力を理解できないというのは大きな気づきでした」

こうして森山さんは、自分が長年感じていた「怠惰性」の問題が、あらゆる物事における成長を阻害する大きな問題であると気づきます。次に考えたのは、いかにして怠惰性を乗り越えるか、です。結果的に現在のオンライン自習室に帰着した理由を教えてもらいました。

「怠惰性を解決するには、モチベーションを上げることよりも『環境』を作ってあげることが重要です。だからこそ『オンライン自習室』というサービスに至りました」

サービスを思い立った森山さんは、すぐにHerazikaを創業します。プロダクトも何もない状況でしたが、この会社を作るという行為も、森山さんなりの「怠惰性を乗り越えるための環境作り」だったそうです。

解決するのは「親のニーズ」じゃない、子供のことを考え抜いたUI/UX

α版リリース当初は主に社会人向けを想定していたそうですが、ランディングページからの反応やその後の継続率、アクティブ率などが高かったことを踏まえて、小学生に絞ってサービス開発を進めました。

さて、こうした教育サービスは、ともすれば親が子供にやらせるためのサービスになってしまいがちです。その点についても森山さんに聞きました。

「誤解されることも多いのですが、親のニーズを解決するサービスではありません。子供に無理やりやらせるのであれば、そもそもヤルッキャは必要ないですから。私たちは『こっちで勉強する方が楽じゃん』と子供に思ってもらえるUI/UXの設計を心がけています」

子供のことを考えて開発したサービス設計の一例が、「学習中の様子を3コマ/1分のGIFに圧縮して保護者に送る」という機能です。

森山さん曰く、学習習慣を身につける上での問題の1つが「いかに集中力を持続させるか」。スマートフォンの通知など、集中を妨げるものが多い今の子供たちにとっては特に難しい課題です。そこでヤルッキャでは、お互いの様子を映し合うことで、1人でやるよりもサボりづらい環境にしています。しかし実はこれだけでは「慣れ」という問題に直面してしまったそうです。

「小学4年生の娘に体験してもらったところ、最初はすごく集中していました。画面から外れるとサボっているように見られてしまうため、娘は落とした消しゴムを拾うことすらためらうなど、緊張感が機能していたんです。しかし4、5ヶ月も経つと、娘はゆっくりトイレに立ち上がるようになりました。要は、 他の子たちからの目線に慣れてしまったんですね」

そこで考えられたのが、学習中の様子をGIFデータとして、保護者に自動送信する機能でした。ともすれば、ちゃんと勉強しているのかを「親に言いつける」といった見方をしてしまいがちですが、話を聞くと、これも子供の立場に立って考え抜いた機能であることがわかります。

1コマ25分の学習時間を、25秒のGIFファイル確認できる

「この機能の意味は、保護者の方に子供の学習の過程を見てもらえるという点にあります。私もそうですが、案外、親は子供が努力している様子を見逃しています。テストの結果や通知表の評定といった結果を見ることはあっても、昼間に学習している過程を見る機会は意外に少ないのです。だからこそ、GIFでその過程を見てもらいたいのです。実際に私も娘の様子を見たんですが、手前味噌ながら、個人的には、すごくグッと来るというか、エモいんですよね」

「子供にインタビューをすると、一番認めてもらいたい相手は先生でも友達でもなく、親でした。ですから『私はこんなに一生懸命やっているんだよ』というのを見てもらえることが子供の集中につながると考えています。保護者の方にも、努力の過程を見てもらうことで、新しいコミュニケーションのきっかけになってくれたらうれしいです」

現在は小学生向けに展開しているヤルッキャですが、将来的には、中高生や社会人も対象に、三日坊主が発生しがちなさまざまな市場へ広げていきたいと言います。

「三日坊主は、自己効力感を下げます。サービスを通じて、継続することが自信になり、その自信が挑戦につながっていくといった良い循環を生み出していきたいです」

ちなみに、ご自身も長くこの自己効力感の低さに悩まされてきた森山さんは、事業をやり始めてから改善を実感しつつあるそうです。

「だいぶマシになり、4時間以上寝れるようになりました(笑)」

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