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「見識業」の輩出を目指して──倫理資本主義の追求と5Way

GOB Incubation Partersが日々チャレンジを進める中で、支えとなっているのがサポーターの存在です。GOBでは「種類株式」という特殊な株式を発行し、株主となってもらうことで、社会へ価値を届ける起業家やスタートアップ、GOB自体の成長の支えとしています。

6月22日、そんなサポーター(種類株主)の皆さんへの報告会として、4回目となるサポーターズミーティングを開催しました。初のオンライン開催です。

2018年4月に開催した第1回はGOBが種類株を発行して社会に何を問いかけたいのか、その決意表明の場に。同年12月の第2回は、EIR(客員起業家制度)の取り組みに焦点を当て、各起業家の想いを共有するとともにそのサポートをお願いしました。昨年の第3回では対談のゲストにサポーターである野澤比日樹さんと櫻井将さんをお迎え。サポーターの皆さん自身のビジョンを伝えてもらうことで、GOBの目指す世界観を、私たちだけでではなく、みなさんと一緒に社会へ届けるという想いを共有する場としました。

そして第4回。この1年間で、GOBは理念やそのあり方を大きくアップデートし、それに伴い組織体や事業自体も新たな方向へと舵を切っています。そうした変革期に今回のコロナ禍に直面しました。

With / Afterコロナ時代では、これまで当たり前だった会社組織のあり方が、あらゆる面で抜本的に見直されようとしています。そしてむしろそんな今だからこそ、GOBが目指すコンセプトは一層社会にとって求められるものになっているとの確信も強めています。この会を通じてサポーターの皆さまとお互いに力になり合う(Given & Give)関係を再確認するとともに、私たちの目指す先について、アドバイスや意見をもらえたら心強いです。

GOBは「理念体系2.0」へ

まずはじめに、代表取締役の山口高弘がGOBの“現在地”を35ページにわたるスライドとともに解説しました。

山口高弘(以下、略):これまでGOBは、起業家が志を事業という形で世の中に届けていく「プラットフォーム」としての機能を提供する存在でした。しかしここ半年から1年でシフトチェンジを行い、起業家が自分のビジョンや志を具現化していくことがどういうことなのか、私たち自身が背中を見せるモデル組織へと位置付けを変えています。

つまり、これまでは「起業家のWhyの具現化を支援すること自体がGOBのWhy」でしたが、シフトチェンジによって、起業家の支援だけではなく、GOB自体がビジョンを持ち、戦略を持って、組織を形成していくということです。

従来のGOBでは、Why/What/Howを図のように定義。それぞれの起業家が持っているWhyを、私たちが農耕型インキュベーションでじっくりと育て、形にしていこうとしていました。

従来のGOBのWhy/What/How

今回新たに、GOBが定義し直したのが下図です。

再定義したWhy/What/How

まずは私たち自身もWhyを持ちます。後述しますが「倫理資本主義」という社会を目指して、「倫理価値(社会価値)」と「利潤価値(経済価値)」を両立する事業を世の中に輩出することが私たちのWhyです。

次にWhatについては「志を形にする」ことの解像度をもう一段上げて、社会性と経済性の両面を強化した「見識業」を生み出すことと定義しています。世の中に対する見識と、事業を成立させる業(やり方)を科学していこうと現在進めているところです。

最後に具体的なHow。起業家の自立を支援すること、そしてある程度のスケールをねらっていきます。そのために、「Journey(型)」とそれを解いていくための「問い(Way)」を培い、世の中の大きな枠組みとして「支援循環システム」を形成していこうと考えています。

これらを、この後で詳しく解説していきます。

「倫理資本主義」──倫理的に正しいことが、儲けを生み出す

まずWhyの部分で取り上げた「倫理資本主義」についてです。私たちの目指す社会像、またはそれを作るための活動は「倫理的に正しいことが、儲けを生み出す」という構造にしていきたいと考えています。これを倫理資本主義と呼んでいます。

倫理とは一言で言えば「自分にとってよいことと『他者』にとってよいことを一致させる」ことです。

ここでのキーワードは「他者」。他者とは目の前の身近な人だけではなく、環境も含めて「身近」であることを指しています。他者の範囲を環境まで拡大し、他者が痛むことはせず、他者が喜ぶことをする。そしてそれを身近に感じることが非常に重要だと考えています。

つまり倫理資本主義とは「自分にとってよいことと他者にとってよいことを一致させ、かつ経済活動を成立させていくあり方」です。通常、自他ともに倫理的に良いことは経済活動が成立しにくいものです。一方で利潤を重視して自分本位になれば、これまでの資本主義のようなひずみを生んでしまいます。

そこで私たちが目指すのは図の右上です。日本の伝統である「三方よし(売り手、買い手、社会の3者にとってよい状態を志向すること)」にも近いところがあります。

倫理資本主義の位置付け

私自身が関わってきた事例として、フィットネスクラブ「カーブス」を取り上げます。

カーブスの倫理資本主義的な事業構造

カーブスでは、倫理的な価値として「カーブスに通うことで地域内で友人ができて、孤独孤立が減る」ことを提供しています。そして同時に利潤的な価値として「(通常のフィットネスクラブに比べて)体操のようにラクに体を動かせる」「恥ずかしくなく運動を楽しめる」といった、お金を払いたいと思わせる価値も備えています。

つまり、健康問題と社会問題を解決しながらも利益を上げていくという倫理資本主義を実践しているのです。GOBでは、こういった価値を持つ事業を輩出していこうとしています。

「三方よし」の拡張、時間と空間を超えて“よい”を追求

先ほど、倫理資本主義は「三方よし」と近いと言いましたが、1点、大きな違いがあります。

「三方よし」と「倫理資本主義」の対象範囲

ある意味、先輩方への挑戦とも言えますが、三方よしは、現在において自分、お顧客、社会のいずれにも良いことを指しており、その射程の大部分は「現在」に置かれています。

一方の倫理資本主義では、時間軸と空間軸を広げて、過去から見ても、そして将来にわたっても、さらに環境まで含めてよし、という状態を目指しています。

倫理的価値と利潤的価値の統合によって、倫理資本主義を実現させることが私たちの新たなWhyです。

GOBは「見識業」の輩出を目指す

次にWhatで挙げた見識業について説明します。

先ほど倫理的価値を磨くことの重要性をお話ししましたが、そのためには社会にとって何が良いのかを見抜く「見識」が必要です。見識とは、他者と自分を重ね、時間と空間を超えて物事を捉え、行動するモノの見方、考え方のことを言います。これを育て、私たち自身が強化していきます。

ここでも、今だけ良いのではなく、過去を踏まえ、将来にわたっても良い影響を与え続け、そして空間軸の広がりも持っておかなければなりません。

例えばカーブスは、空間軸を超えて、顧客だけでなく地域社会の孤立解消もねらっています。そのための一例ですが、環境負荷を下げるために既存ストックを活用しています。

また今やオンラインフィットネスなども増えており、将来的に五感を介さないデジタル時代の信頼関係をどう構築していくか、さらには地域の人口減少にどう対応していくか——。これらの論点がカーブスに突きつけられているように思います。一見すると、もはや地域のフィットネスクラブが射程に入れるべきことではないようにも見えますが、空間と時間をめいっぱい広げ、どうあるのかを検討することを、私たちは見識と呼んでいるのです。

しかし、いくら見識を備えても、持続性を高めるためにはそこに利潤的な価値を統合していかなければなりません。ゆえに、ビジネスモデルの確立が重要になります。

ここでもカーブスを例にとると、彼らは誠実かつ持続的なキャッシュポイントを確立しています。通常のフィットネスクラブは、「人が来なければ来ないほど儲かる」事業構造が一般的です。キャパが埋まり、機械が摩耗してしまうからです。

それに対して、カーブスは人が来れば来るほど利益が上がる、通常の業界のキャッシュポイントとは全く違う構造です。このような、倫理的によく、さらに儲けも出るビジネスモデルを志向することは、通常のビジネスモデル形成よりもはるかに難易度が高くなります。

倫理的価値と利潤的価値の統合プロセスを「Journey(型)」に落とし込み

最後に「Journey(型)」「問い(Way)」そして「支援循環システム」についてその概要を共有します。

まずはJourneyですが、GOBでは倫理的価値と利潤的価値をどのように統合していくのかについて、一定の型を設けています。

倫理的価値と利潤的価値を統合するJourney

まずビジョン形成のプロセスは、個人の価値観から始まります。それが、自分だけでなく世の中にとっても求められるもので、空間、時間を超える世界観として形成されていきます。そしてその世界観を具体化するために、顧客にとっての価値を定義していく。ここまでがビジョンの形成です。

次にビジネスデザインですが、提供している価値、しかも社会価値まで含めると、市場を介してその価値を定義するのは非常に難しくなります。どの市場に参入して、どういったサービスを作るのかを検討し、そこから価値をキャッシュに変えて再投資していくためのビジネスモデルを作っていきます。

そしてもう1つが組織デザイン。組織が倫理的でなければ、倫理的なビジネスを生み出すことはできません。見識的なリーダーを育てることが重要です。ここでのリーダーは必ずしも事業の代表者を指すわけではなく、全員がその対象です。そして組織が、自分さえ良ければいい、というものではなく、循環的な組織になっていく。そういったデザインを起業家と一緒に探求していきたいと考えています。

見識を磨く5つの「問い(Way)」

GOBでは問いを「Way」と表現しています。問いによって、自分自身が持っている自分視点での価値観を社会化し、社会化した結果、見識を磨いていくことができます。

ですので、上で見たJourneyに対して、見識が介在し、その見識を高めていくための問いが存在しているのです。GOBでは、自分の枠を広げてくれる存在として、「5Way(5つの問い)」を立てています。

5Way(5つの問い)

1:機能と人間を分ける
2:価値観起点

価値観を起点として自分がどうありたいかを探求するためには、まず自分が持っている役割や、なさなければければならないことなどの機能的な文脈を切り分けて、自分はどうありたいのかといったことを探求する必要があります。

3:認識

そして自分が今なそうとしていることが、空間と時間を超えて、誰にどんな影響を与えるのかを限界まで幅広く認識していきます。

4:余白

ただし、自分がいっぱいいっぱいであってはその認識は非常に狭いものになってしまいます。自分の視点でしか物事を見られなくなってしまうので、余白を持つことが大切です。

5:Given&Give

そして「Given&Give」。Give&TakeでもGive&Givenでもありません。自分が世の中からいかに与えられていて、その与えられた結果、Giveを成すことができているという循環的な捉え方を志向しています。

これら5Wayは、行動規範や守るべきもの、縛りではありません。あくまでも自分自身が見識を高めるために振り返る際の問いかけであり、自分の可能性を開いていくための存在です。

支援循環システム「SOCIO」の構想

最後になりますが、GOBが直近取り組んでいるのが「支援循環システムSOCIO(ソシオ)」です。「価値観を社会化する」ことも大切ですが、その社会化された価値観にさらに磨きをかけていくこともまた重要です。SOCIOはそのための役割を果たします。

GOBは個人の価値観から始まり、それを社会化して、その社会化するプロセス自体に投資をしています。SOCIOではそこから生み出された世界観にさらに磨きをかけ、その世界観に対して世の中の資金が循環してさらに具現化していく社会を目指しています。つまりステークホルダー自身が、自分たちを良くするために投資をする、というモデルです。協同組合など、組合型の投資に似た構造だと言えます。

現在クライアント企業と進めている、組織のビジョン再構築のプロセス

GOBでは、ここまでお話ししてきたことをMission/Vision/Valueとして定義しています。

こうした理念体系などを説明すると、やや思想概念が入ってきますが、私たちは、思想家による世の中のアップデートではなく、事業を通じて生み出された思想を社会化し、世の中をアップデートをすることを手伝い続けたいと考えています。手伝う、というよりはもう少し拡大解釈して、一緒に取り組みたい。そういった組織になるために自分たち自身がビジョンを持ち、戦略を講じ、事業自体を開発しています。