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SNSだけで集客を「やった気」になってはいないか。「スポーツツーリズム」の施策を通して見えたこと/シーホース三河

シーホース三河にとって、地元企業・団体との協業は地域に貢献できる重要な活動です。その中でも地域の観光資源と連携する「スポーツツーリズム」はプロスポーツチームにとっては資源として貢献できるよい形のひとつだと考えています。

今回、豊田市の観光振興団体「一般社団法人ツーリズムとよた」のお二人とシーホース三河の担当者2名、それにライターの初野正和さんを交えリモートで座談会形式でインタビューを行いました。初野さんという第三者の目から書いていただくことで新しい気付きを見つけることを目指しました。(シーホース三河note編集部)

InstagramにTwitterにYouTube…。今の時代、SNSは強力なツールであり、集客や認知のために活用しない手はない。しかし、SNSでキャンペーンを企画・告知することで満足してはいないだろうか。

今回は、スポーツ資源とツーリズムを融合する取り組み「スポーツツーリズム」の施策を通して気づいたことを、シーホース三河マーケティング部の鈴木大雅、鈴木好裕、「ツーリズムとよた」のマーケティング事業グループの岩月克文さん、松浦徹士さんに伺った。

2022年3月5日・6日にスカイホール豊田で行われた試合での取り組みと、同年2月16日〜3月8日に行われたコラボキャンペーン「全力とよたいけんInstagramキャンペーン」を通して見えたこととは。

観光コンベンションに協力を仰いだこと

今、Bリーグの多くのクラブが新B1に向けた課題に直面している。
B リーグは2026年から新B1の発足を掲げ、「世界と伍するクラブ=新B1」と位置づけて、特定の基準を満たしたトップクラブのみのカテゴリーを誕生させようとしている。具体的な基準は「平均入場者数4,000人以上」や「売上高12億円以上」など。

資源の限られた地方クラブにとって、「平均入場者数4,000人以上」は悩ましい問題だ。愛知県刈谷市をホームタウンとするシーホース三河にとっても他人事ではない。そこで着目したのが「スポーツツーリズム」だった。

2021年4月に実施したクラブの調査によると、刈谷市での「シーホース三河」の認知度は84%を記録している。一方、愛知県での認知度は54%、近隣の豊田市では62%にとどまっていた。

「毎シーズン、ホームゲームを開催している豊田市は、人口や街の規模から見ても私たちにとって最重要エリアです。新B1に向けてクラブが成長を目指す上で、豊田市での認知度の向上および集客力の強化は必要不可欠でした。そこでツーリズムとよたさんと手を組み、相互送客できないかと考えました」(鈴木好)

豊田市での認知度向上を目的に、今シーズンはスカイホール豊田で5試合を開催することが決定(※新型コロナウイルス感染症のため3試合が中止)。それに伴い、シーホース三河は豊田市の観光振興を担う「一般社団法人ツーリズムとよた」に、告知や集客について相談することにした。

Instagramキャンペーンおよび具体的な取り組み

豊田市といえばJリーグの強豪、名古屋グランパスのイメージが強い。そんななか、ツーリズムとよたの岩月さんと松浦さんは、シーホース三河にどのようなイメージを抱いていたのか。

インスタグラムキャンペーン

「ポジティブなイメージです。プライベートで観戦したことがあるのですが、盛り上げる演出がすごくて、お客様を楽しませることを強く意識しているクラブと感じていました。また、同じ三河地域ですが、豊田市に馴染みのない刈谷市の方も多いので、今回のコラボは豊田市を知ってもらういい機会になると捉えました」(岩月)

「私は観戦したことがなかったのですが、この提案を機会にお誘いいただき、ホームゲームを満喫させてもらいました。凝った演出には驚きましたね。我々としてもスポーツを通じて、豊田市の魅力をもっと広めたいと考えていました。そこで提案をいただいてから、スピード感を持って企画を進めていきました」(松浦)

ツーリズムとよたでは、すでにInstagramを活用したキャンペーンの実績があった。運用のベースが完成していたので、そこにシーホース三河の要素を加えた「全力とよたいけんInstagramキャンペーン」を企画した。

シーホース三河は「全力三河」をシーズンテーマに掲げている。キャンペーンでは「全力で応援した」「全力で試合に挑んだ」「自己のベストを尽くした」など、「全力」をキーワードに、豊田市で撮影されたスポーツの写真を募集。バスケットボールに限らず、他のスポーツでも、過去に撮影した写真でも参加できるようにした。

「豊田市で5試合を計画していたので、試合単体ではなく一貫して参加できるキャンペーンを行いたいと考えていました。それが今回の企画のベースにあります」(鈴木大)

並行して、ツーリズムとよたのサイト内にシーホース三河の特設サイトを制作し、チーム紹介やキャンペーンの告知・参加をサポート。ほかにもコラボ企画として、LINEによる特典や試合当日のブース出店、地元のトランポリン事業者を誘致して、アリーナでトランポリンの体験コーナーの設置なども行った。

投稿数などキャンペーンを通して得られた結果

「全力とよたいけんInstagramキャンペーン」では、全5日間の試合日に合計400投稿以上を目標に設定。同時に新規フォロワー獲得も目指した。

結果から紹介すると、2日間で250投稿を記録。約3週間のキャンペーン全体では550点以上の写真が投稿された。コロナの影響で3試合が中止となった中、試合単位で見れば目標は大幅にクリアできた。

公式Instagramの新規フォロワー獲得にもつながった。一般的に新加入選手を発表するタイミングがもっともフォロワー数が伸びるものだが、今回のキャンペーンでは同等の推移で伸ばすことに成功した。

ツーリズムとよたのブースでは、新たに始めたメルマガ登録の勧誘を行い、こちらも期待以上の結果となった。

「2日間で300以上の登録があり、我々としても手応えを感じました。ボタンひとつでフォローできるSNSと違い、情報の入力が必要なメルマガ登録のハードルは高いものと考えていました。そこでシーホース三河さんとコラボさせていただき、限定ネックウォーマーを製作。登録していただいた方にプレゼントしました。この効果が大きかったですね」(岩月)

どうして狙った数字を残すことができたのか。メルマガ登録に関してはコラボグッズの効果もあるだろう。それよりも実感したのが、現場でのコミュニケーションだった。その点について鈴木大雅はこう振り返る。

「試合当日、愛知学院大学の学生たちに協力を仰ぎ、キャンペーン参加の声がけを行いました。ターゲットを設定し、どのように声をかけて、どうやって短く内容を説明して、その場で投稿やフォローをしてもらうか。事細かく決めて声がけしたのが効果的でした」(鈴木大)

シーホース三河は愛知学院大学と連携協定を交わし、10数名の学生がインターンシップ生としてスポーツビジネスの現場を体験しつつ、ホームゲームの運営をサポートしている。

今回は声がけを仕組み化し、学生たちに来場者と積極的にコミュニケーションを図ってもらった。試合は2日間連続で開催されるので、2日目が始まる前には、前日の結果を踏まえて学生たちにフィードバックも徹底。現場での地道な取り組みが投稿数やフォロワー獲得につながった。

来シーズン以降に向けた課題とSNSの利用法

観光コンベンションと手を組んだ施策は、今回の「全力とよたいけんInstagramキャンペーン」を通して、一定の成果を得ることができた。もちろん、課題もある。

「我々としては、特設ページをもっと作り込んで、内容を充実できればよかったと思っています。十分な告知期間を設けることができなかったのも反省点ですね。ただ、今回は時間が限られていて、初めてのコラボで手探りの部分も多かった。来シーズン以降はもっとスムーズに連携が図れると思います」(松浦)

「コロナの影響で、宿泊を絡めた企画が実現できませんでした。今後は宿泊を伴ったスポーツツーリズムを打ち出していきたいですね。Bリーグの特徴に、土日の連日開催があります。試合を見て、宿泊して、観光も楽しむ。スポーツと観光がセットになった楽しみ方を提案していきたいです」(鈴木好)

そして一番の収穫は、SNSでの告知が完結ではない、それを体感できたこと。
今回の結果は、学生たちの声がけをきっかけに、人と人とのコミュニケーションから派生していった部分が大きい。メルマガの登録にしても同様で、この点に関しては全員が「今後の施策に活かせる経験だった」と口を揃える。

SNSというツールは強力だが、傍観しているだけでは効果の最大化は見込めない。プロクラブには、人が集い、交流が生まれる「ホームゲーム」というコンテンツがある。今後は、この絶対的なコンテンツとSNSをどのように融合させていくべきか。

シーホース三河とツーリズムとよたの旅は始まったばかり。今後はどのようなエンターテインメントを提供してくれるのか、来シーズンの展開を楽しみにしていたい。

取材・文章:初野正和



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