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サッカード素人の相模原市民が、応援したくてもできないもどかしさを感じた話。

「順位が近いチームとの試合を6ポイントマッチって言ってね……」

半年前、僕がサッカーを見始めた頃、元々繋がっていたサッカーに詳しいTwitterのフォロワーと会った時に聞いていたことば。

"6ポイントマッチ"

順位が近いチーム同士の直接対決のことをこう呼ぶらしい。
勝てば自チームに勝ち点3が、負ければ相手方にそれが渡るという、勝ちor負けで勝ち点が"6"変動するため、2試合分の重みがある試合。

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9月19日、台風一過で快晴の相模原ギオンスタジアム。
気持ちのいい青空と明るく差し込む陽射しとは対照的に、個人的には今までにない緊張感のある試合前だった。

SC相模原と共に、J2残留争いの日々を戦っているレノファ山口FCとの第30節。

これまで、「負けられない」試合はいくつもあった。
けれど、今節は「絶対に勝たなければいけない」試合。

試合前時点では、五輪中断明けから好調とはいえまだ最下位を抜け出せないでいる相模原にとっては、同じ下位クラブに対しては何よりも勝利という結果が求められていた。

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そんな、今季最大の緊迫感のある試合。
SC相模原は文句なしの今季ベストゲームで勝利を飾った。

序盤、#38成岡がアタッキングサードからゴール前へ鮮やかな弧を描くパスを出すと、ボールは最初からそう決まっていたかのように#23平松の頭に合わされ、そのままゴールネットへ吸い込まれた。

あまりにも理想的な得点だった。

相模原は攻勢を緩めず、次々に山口DF陣の裏を取る動きを見せ、果敢に攻撃し続けた。

1点目から十数分後、#39松橋の何度目かの抜け出しが奏功し、ペナルティエリア内でファウルをもらい、PKを獲得した。
これを落ち着いて#4藤本が沈め、相模原は今季初めて複数点差をつけてリードする運びとなった。

その後の前半戦でも、サイドチェンジを何度か行いながら#2夛田と#13石田の両サイドが着実にコントロールしたり、#38成岡の僅かに枠を捉え損ねたミドルシュートを放つなど、素晴らしい攻撃が続いた。

高木琢也監督体制に移行してからの、引き出しを増やしながら選手自身が考えて前を向きゴールを目指すサッカーが、ピッチ上で体現されていた。


後半戦は山口の攻勢に押される危険な時間帯もあったが、#30川崎・#31木村・#18白井のセンターバックが縦に放り込まれるボールを着実に跳ね返し、シュートを打ち込まれても今季セーブ率J2トップで「大明神」の異名がすっかり定着した#21竹重が確実にボールをホールドし、山口に反撃する隙を与えなかった。

ゲームが佳境に差し掛かってからは、フィジカルビースト#9ユーリ、ベテランMF#37兵働、レジェンドボランチ#6稲本など豪華なベンチメンバーを次々に投入し、ゲームクローズに動いた。
特に、稲本の身体と足を余すことなく相手にぶつけて全身全霊でボールを奪い取るさまは圧巻だった。

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どうしても取りたかった6ポイントマッチを2-0、それも今季ベストゲームで勝ち取れた。

試合内容に釣られるように、ギオンスのスタンドもワンプレーワンプレーにのめり込み、チャンス時の「SAGAMIHARA CLAP」や、ボールをクリアしたときなどの1つのキックの度に起こる拍手が、えも言えない一体感を生み出していた。

最高の試合と最高の空気が、相模原ギオンスタジアムを包んでいた。


そんなギオンスで、心に留まった光景があった。

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それは、試合前と試合後、誰もいないホームとは反対側のゴール裏の芝生エリア前で整列するレノファ山口の選手達の姿。


Jリーグでは現在、ホームあるいはアウェイのどちらかのクラブが属する都道府県に緊急事態宣言が発出された場合、ビジター席の設置を取り止めるプロトコルが導入されている。

よって、相模原のある神奈川県が緊急事態宣言期間中のため、今節ではレノファ山口サポーターはギオンス、そして相模原を訪れることが叶わなかった。

県境を跨いだ往来、そして人流抑制の観点から致し方ない措置ではあるとは思いながらも、実際に誰もいないビジター席に向かって礼をする選手を見ると心が痛んだ。


南関東1都3県の緊急事態宣言は長期化しているため、アウェイ観戦を断念せざるを得なかったサガミスタも大勢いる。

そのためか、レノファ山口がビジター席の芝生に向かって一礼をしたとき、ギオンスタジアムのサガミスタからは拍手が送られていた。

スタメン発表の際にも、レノファ山口の選手がコールされる度に、スタンド全体から拍手が送られた。


相模原の前節・長崎戦では、ビジターサポーターがいない相模原の選手・スタッフに対して、トランスコスモススタジアムに詰め掛けていたV・ファーレン長崎サポーターからとてもたくさんの拍手が送られていた。

その様子はDAZN中継、またTwitterなどで見聞きしていたし、実際にSC相模原を応援する身としても嬉しい気持ちが大きかった。


応援に行きたいのにいけない気持ち、そしてサポーターの前で戦えないアウェイクラブの選手・スタッフの気持ち。

真剣勝負の場のため、もちろん全てに寄り添える訳ではない。
それでも、同じ気持ちを共有する仲間として、どうしても拍手を送りたくなってしまった。

5月、山口に行った際には温かいレノファサポーターの心意気に感動した。

僕が場外で相模原のポンチョを被って歩いているだけで、通りすがりのオレンジのポンチョのレノファサポーターが挨拶をしてくれた。

ビジター席には、山口県の銘菓まで置かれていて、今まで感じたことのない温かさに本当に感動した。

そのときの試合は相模原にとって非常に悔しい敗戦だった。
スタジアムから宇部空港までの道すがらで、悔しさにまみれて半べそをかきながら食べた瓦そばの美味しさは忘れられない。


あの時の僕と同じように、きっと、色んな思いを抱えてレノファ山口を応援している人がたくさんいるに違いない。


行きたいのに行けない。
後押しができないもどかしさ。
それでも、どうにか、応援するクラブに届けたい気持ち。


そうした多くのレノファサポーターの思いが、あの無人のビジターエリアには宿っていたと思う。


薄暮開催となった今節。
日の入りを迎えた前半終了時、台風一過の美しいオレンジの夕焼けが西の空を覆った。

相模原ギオンスタジアムの無人の緑の芝生に、オレンジ色の空がよく映えた。

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