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DXは経営改革――。戦略とDXの実現においては“現場の実行力”が鍵 (2/6)

第1回目では、1.DXには「攻め」と「守り」の両面が欠かせない、2.DXの一丁目一番地は「コミュニケーション改革」にある、という2点について議論しました。今回は、「戦略とDXの実現においては“現場の実行力”が鍵である」をテーマにお届けします。

3.戦略とDXの実現には「現場の実行力」が鍵になる

望月:少し論点を変えて、西さんがここ数年取り組んでいる「日本企業の課題:経営戦略が実現されない理由」がDX時代になったことで変化があったのかについて、議論したいと思います。

西:DXが叫ばれる前から、「多くの企業は戦略をいっぱい作っているけれど、どのくらい実現されているのだろうか?」と思っています。少々厳しい表現になりますが、実現されない戦略の代表例が「中期経営計画」だと思います。企業によっては、計画通りに実現されずデジャブのように似たような戦略が繰り返されることがある。そうなると、戦略に意味がなかったのか、それとも結果として機能しなかったのか?そこを考えてしまいます。

各務:私は、雑な中計って意味がないと思っています(笑)

望月:言い切りましたね(笑)まずは、各務さんなりの「意味がない」理由をお話しください。

各務:私はKADOKAWAの執行役員でもあり、全社で戦略を描く重要性は理解しています。ただ、ふわっとした言葉で書かれた長期スパンの中計は、「絵に描いた餅」になってしまうから意味がない、というのが一番の理由です。

望月:長期スパンではなく短期スパンでも有益度は変わりませんか?

各務:短期スパンにするなら、中計ではなく単年度計画にすればいいと思います。そもそも、「3年先ってわかるのかな?」が根底にあります。

望月:一方で、「ある程度マイルストーンを示してもらわないと、私たちはどっちの方向に向かったらいいのかわからない」という方もいるのではないでしょうか?

各務:そういう人が多数を占めるなら、「ちゃんと作ったほうがいいです」(笑)

望月:なるほど(爆笑)

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各務:私が言いたいことは、「作るなら、ちゃんと作りましょう」です。数字を細かく積み上げるのではなく、マーケットから考えたとききに、自社がどういうスタンスをとるのかという経営の軸をきめることが重要です。にもかかわらず中計作成の際、細部に気をとられてしまうことが多く、細部視点の集合体なら中計は意味がない。また、「挑戦型の中計」と「挑戦しない中計」の2つ視点で迷うときは、「自分たちはどちらを選ぶのか」を議論することが重要です。

その議論を経て、「そうだよね、そこ行くしかないよね」と未来に賭けるならいいのに、いきなり謎の絵が資料にでてきて、「え?これしか選択肢はないの?」という気持ちになると、やっぱり絵に描いた餅になりますよね。

西:私は、「数字の作り方」と「レベル感」の2つが中計の肝だと思っています。数字の作り方で機能しない最たる例は、事業部から数字を積み上げたものです。これは、整合性の誤謬が生じて全社の中計にならないことが多い。本来は、まずコーポレートが方向性を示して、事業部がアラインメントすることが大事です。なのに、積み上げだと順番が逆になっている。一方で、正しい順番でつくられた場合でも、本気度が伴っていないと絵に描いた餅になる

次にレベル感ですが、「普通にできるよね」のレベルの時と、「相当、組織変革しないと実現しなくない」という違いがあると思います。前者は、今できることの延長線なので、基本的に面白くないことが多い。だから多くの中計は、後者を書きますよね。でも、後者のレベルは、「3年くらい経過すれば組織が変わってくれるのではないか」という漠然とした、希望的観測で書かれていることが多い。しかも、戦略の実現のためには、組織のケイパビリティ(能力)が大幅に向上することを前提とした変革を描いているけれど、経営者が組織を抜本的に変えることに本腰入れていないから、結局変わらない。少し前だと中計では「グローバル化」がテーマになっていたけれど、今のDXもそういう傾向が多いのではないか?と考えています。

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各務:いや、まさに実行力不足ってことですよね。

西:そう、本当に私もそこが課題だと思っています。中計のみならず戦略の実現には、会社を変えないといけないから、実行力が問われますよね。  

各務:この構造は、DXの実現とも似ていて、白黒つけないと中計の実行はできない。でも、既存のやり方で仕事をしてきた場合、白黒つけられるのって、つらいですよね。

西:何がつらいと思いますか?

各務:例えば、これまではポジションパワーや、情報の非対称性で優位性があった人は、自分の仕事のプロセスとアウトプットの両面が可視化され、評価されなくなる可能性がある。そうなると、白黒つけた側に対して、「今まで自分が世話したのに、なんでこんな仕打ちするんだよ」となる。その抵抗したくなる気持ちを持つ層の存在は、改革の阻害要因になりかねない。

西:ですよね。そうなると大きく変えるときには、異端児的な人材や、外から来た経営者が、組織を壊すぐらいの覚悟で取り組まないと、本質的に組織ケイパビリティまでは変えられないかもしれません。

各務:KADOKAWAの場合は、トップである社長の松原が変わることを決めています。ただ、これまでは実行部隊が不足していました。KADOKAWAにはDXを推進するためのエンジニアチーム部隊が不足していました。ドワンゴのインフラ改革の目処が立った2018年10月に、会長の角川から「KADOKAWAに来てほしい」と声を掛けられ、KADOKAWAでの仕事を開始しました。松原に、「こういうやり方をしないと、働き方改革もDXも上手くいきません」と話したら、松原が「ITはわからないけど、各務の言っていることは可能性がある」と共感してくれて、ドワンゴからエンジニアを60名くらい引き連れて、KADOKAWAのICTサービス提供と、働き方改革支援を行うグループ全体のDXをリードする会社として「KADOKAWA Connected」を作りました。2019年4月の創業時は120名を切る体制ながら、現在は、約200名に迫る規模になり、さらに実行力が高い組織になっています。

西:すごいですね。実行力のある組織に変われば、日本企業はもっと本当に強くなるのにと思っています。戦略を構想できる人は結構増えたけれど、組織を変えられる人が少ないというのが、私の問題意識です。

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4.実行できる組織の鍵は、ギバーの存在にある

各務:実行するときに何が大事かをすごく考えました。結局、その解答は、「ギバー(GIVER:与える人)を守る」という作戦です。実行力が高い人は基本ギバー。ギバーを守るのがマッチャー(Matcher:バランスをとる人)、それを侵食するのがテイカー(Taker:受け取る人、奪う人)と言われています。一般的に、企画や戦略を書いたりする人は、テイカーが多く、エンジニアはギバーが多い。その間をつなぐためにマッチャーが必要で、たくさんいるギバーの人たちが心理的安全性を担保して実行できるマネジメントが大事になってきます。
  
私は、マッチャー役を務めていますが、マッチャーの人がテイカーからギバーを守るためには、相当な政治力が必要。しかも、マッチャー要素をもっている人がそもそも少ない。とある大手製造業は、あえて別会社をつくって、ギバーであるエンジニアが多数いる状態を作っている。GAFAなどは、そもそもトップ層がエンジニア出身であるためマッチャー気質が高い。そのような企業には実力不足のテイカーがほとんどいないため、ギバーの人が思いっきり働けることが組織の駆動力になっている。これを仮説として持っていますが、おおよそ間違いないと感じています。

西: 確かに。私もだいたいのことは現場の言っていることは間違っていないと思っています。マネジメントがそれをどのくらい理解して、大きな絵を描いて、リソース配分できるかですよね。 

各務:そうです。現場の人が搾取されていないと感じて仕事ができる建付けが、どのくらいできているかどうかですよね。

西: いや、まったくそうです。なので、DXに限らず経営改革には「戦略論より組織論のほうが重要」だといつも思っています。

各務: はい、同感です。特に、DXは人と組織です。そしてコミュニケーションです。それを整えると、新しい事業を作るという体制になって、組織がうまく回り始めると、どんどん新しいことが生まれて、「攻めのDX」になっていくと思います。

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望月:戦略論と組織論の話は、鶏と卵かもしれませんが、組織のコンディションをDXに向けて整えるのが先なのか、それとも、ターゲットとなるDXの戦略を打ち立てて組織を整えるのか?という順番をいうと、どちらのほうが現実的なのか?各務さんの意見を教えてください。

各務:同時進行です。現場から、「こういう風にしたほうがいい」という意見がでてくる状態を作る。リーダーはその意見を吸い上げつつ、会社としてどうありたいかを、フュージョン(融合)していくとすると、「仕組み」と「現場の声」がぐるぐる循環して、会社としての目的が磨かれてくる。これを今まさに体感しています。現場には、いろんな意見やアイデアが埋まっています。

望月:かっちりとした戦略ではなく、大まかに「こういう風になりたいね」を描き、そこに共感した人が集まって、しかるべき環境があれば、現場のほうからも意見やアイディアが出てきて、結果的に戦略もさらに磨かれるイメージですね。

各務:まさにそうです。

西:戦略実行の前提が以前とDX時代で大きく異なっているのもありますよね。昔は、ウォーターフォール型。人材の配置含めて資源配分を決めて、投資をした後で、戦略を実行に移していたやり方だった。それに対してDXは、現場からの意見を吸い上げながらアジャイルに方向修正したり、改善したりできるという前提の違いもあります。

各務:あと、最初に話したアナログの有形無形の固定資産の話ですが、例えば、経営企画のような部署が認識している自社の有形無形の固定資産ってありますが、それに加えて、現場には有形無形の固定資産、ノウハウがいっぱいあります。経営企画のようなコーポレートの部署は、ブラウン管テレビ並みの「レゾリューション(解像度)」で大雑把には把握しますが、本来DXは、マイクロセグメント型のビジネスをするということも含めて、レゾリューションが重要です。レゾリューションを高めていこうとすると、現場の声を正確に把握し、いかに吸い上げるかというコミュニケーション改革が絶対に欠かせません。ビジネスのメカニズムも含めて、DXでは前提が変わっています。 

望月:そうなると、経営者が資源を配分する怖さもありますね。自分が見えてない現場の声を信頼して、環境を整え、結果が後から上がってくる。投資とリターンが想定できたのが昔の戦い方だとすると、今ではもっと投資への不確実性とか、自分がコントロールできてないところに対してのポテンシャルに期待しなくてはいけない。ハンドリングする側としては怖くないですか?

各務:そうですね、大きなビジョンに対して戦略を立てるというよりも、「こういうことをやるべきだ」という会社の土俵、つまりどのマーケットで勝負するかは、マネジメントが定義しないといけない。

望月:マーケットを決めるのはトップの仕事で、具体的にどのような価値を出すかは、ボトムアップで意見が出てくることでしょうか?

各務:はい、どこで戦うのかは経営者のほうが知っているし、決めるけれど、どのように戦うかの戦術は現場のほうが知っている。そこが、いまアンマッチなんですよね。DXによって、それらがマッチできるようになると、風通しがよくなるでしょう。

【続き(3/6)はこちらです】


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