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都電テーブルという人たち N70

 東京に路面電車が走っていることを知らない東京都民も多いことだろう。ところが歴史ある路面電車で都営荒川線(最近東京さくらトラムという名称がついたらしい)が一本だけ走っている。この沿線の街は商店街(あるいはさびれた商店街やその跡地)がそのまま残っており、都電に乗ってそれぞれの停留所で降りて街を散策するだけでも十分楽しめる。

  そんな都電が走る向原あたりから雑司が谷にかけて都電テーブルという「まちにもう一つの食卓を」をテーマとしてダイニングを展開している人たちがいる。

 地元で事業を営む若者たちが集まってプロジェクト化して始まったそうです。彼らのアプローチは古い集合住宅や建物をリノベーションして、おしゃれだけど、食材にもこだわった食事を提供する。しかもクラウドファンディングとかしたりして経営テクノロジーもしっかり最先端をいく。

 彼らが意図して狙っているかどうかは知らないが、彼らのメインの顧客層は徒歩圏内の居住者だ。何より、池袋駅にも地理的に近いので5分、10分も歩いて行けばもっとおしゃれなレストランはある。言い換えれば、わざわざ池袋駅から10分以上かけて歩いてこの店まで訪れる価値には至らない(食事のクオリティという観点においては)。  

 むしろお客さんが求めているのは近所の食堂や居酒屋だがとてもおしゃれで味も雰囲気も満足感が得られる店なのだ(もちろん遠くからわざわざ来ても満足感ある雰囲気と味は保証できますが)。きっと美瑛テーブルや屋久島テーブルを開業しようものなら間違いなく観光客をターゲットにするだろうが、この都電テーブルは近所の住民を商圏としたことに意義がある。  

 20世紀は遠くに行くことが価値だった。ハワイだったりパリだったりに行くことが勝ちだった(価値のタイプミスだけど、そのままにしておこう。意図せぬ駄洒落)。しかしテクノロジーや移動手段(LCC)の発展のおかげで遠いことも日常に吸収されてしまった。気楽にハワイに行くこともできるし、パリのミシュランレストランで働いていたシェフはもう余るほど日本にいる。  

 エキゾチックを求めて外に出かける拡大の価値観から身近なご近所とのつながりを深める価値観へと変化させる契機をコロナは持ったのは私だけではないだろう。近所のカフェに日々通うことで世間話をするようになって、好きな野球チームが同じだったり、子どもの年齢が同じだったりと関係を強化していくことの良さを実感している人は多いことだろう。  

 今後の都電テーブルの発展に期待したい。 

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