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大阪み、わたしみ、人間み。

8月3日(土)

深夜二時前、ほろ酔いの楽しい気持ちのまま、サウナ&スパ大東洋の目の前でタクシーを降りる。大阪の街はネオンが独特、街全体がぎらぎらしている気がする。酔っぱらいらしくちょっと立ち尽くしてから、地下のレディスフロアに降りていった。

サウナは高温サウナ・低温サウナ・ミストサウナの三種類、水風呂もぬるめと18度の二種類あってとても贅沢なスパだった。タオルが交換可能なのも嬉しい。サウナはバスタオルを腰に巻いて入るスタイルで、横になってもオーケーで、大事なところが隠れている安心感と横になれる解放感がクロスしてありえないくらいリラックスできた。低温サウナは「ファンタジーサウナ」というやばい名前がつけられている。どんなものかと思ったら入り口近くにどどんと鎮座した水晶がいろんな色の光を放っていて完全にスピリチュアル空間だった。温度が長居するのにちょうどよくて、ふわふわの空気に体中包まれて数分意識を失った。二種類の水風呂も交互に入ると体が切り替わる感覚がわかって面白かった。

深夜にもかかわらず、従業員のおばちゃんがせっせとあちこちを清掃したり、客がぐちゃぐちゃにしたブランケットを畳んだりしてくれる様子を横目に、畳敷きの休憩スペースで雑魚寝に入る。ここは、夏休みのおばあちゃんちか。

七時頃に館内放送で起こされるも二度寝。八時半にやっと起き出して朝風呂朝サウナ。お風呂も種類が多く、ジェットバスのジェットが位置的に私の両方の肩甲骨の凝りにベストヒットで、長旅と雑魚寝の疲れも吹っ飛ばしてくれた。

昨晩大阪に到着して、滞在時間はたったの十二時間。それでもスナックぐりこと大東洋で過ごせて密度が濃い時間だった。大東洋のロッカールームにいた、頭髪がピンク色でパンチパーマのおばちゃんが、一番大阪みがあった。

18きっぷで次に目指すは名古屋・大須観音駅。ライブハウス・エレクトリックレディランドに「超歌手大森靖子2019 47都道府県TOUR“ハンドメイドシンガイア”」を見に行くのだ。

サウナ明けの強烈な眠気で移動中はほぼ爆睡。大須観音駅に着いて地上に出るとライブハウスはすぐそこで、並びにスリランカ料理屋があったので遅めの昼食をとった。土日限定八種類のカレーセットというのを頼む。

こんなに綺麗に盛りつけられているのに、現地の人っぽい店員さんが「全部混ぜて食べるのが一番おいしいです」と言うので、もったいないと思いつつ、言われた通り全部完璧にぐちゃぐちゃに混ぜて食べた。普段は冷たい飲み物は注文しない派だけれど、セットのコーヒーはアイスのみだったのでアイスコーヒーを飲んだ。辛味や酸味が強いカレーに、氷で薄まった冷たいコーヒーはよく合った。

私は郷に入りては郷に従う派だ。飲み物の好みだけでなく、年を重ねるごとにわけのわからないこだわりというか自分ルールが増えていく自覚があるから、こうして違う文化に触れたり非日常的なものを取り入れるのはすごく大事だなと思う。海外旅行に行くのもアニマル柄の服を買ってみるのも、そしてライブに足を運ぶのも全部そうだ。

駅に戻ってあげは嬢と合流。駅前のかわいい手作りがま口バッグのお店に入ってあれもかわいいこれもやばいと言い合う。かわいいものを見ると相変わらずテンションが上がって語彙が乏しくなる私たち。お値段はあまりかわいくないので連れて帰るがま口一点をどうしても決めきれず、いつかセミオーダーすることを誓う。そして私はなぜか自分が履いていた白の柄物プリーツスカートとまったく同じ形の黒の柄物スカートを購入した。サイズがちょうどいいのも色形が似合うのもわかっていたので、試着してからの誉め合いが完全に茶番だった。

タピオカ屋で涼をとった後、開演十分前にライブハウス入り。大森さんの到着が遅れるアクシデントがあり、到着を待つ間にバックバンドの方々のサウンドチェックを聴くことができた。さらに、バンドの演奏で、観客の女の子がステージに上がって「over the party」を歌っていた。大森さんと同い年で誕生日も一日違いの私は、三十歳になる前後にひたすら体育座りして「Over30 おばさん」と繰り返すこの曲をエンドレスリピートしていたので、若い女の子が豪華なバンド演奏をバックにステージ上で堂々とこの曲を歌っているのを聴いて、しみじみと感慨にふけってしまった。

定刻を30分過ぎて、彼女は白い夢かわドレスをまとって駆け込んできた。一曲目「ミッドナイト清純異性交遊」から続く「IDOL SONG」でキラキラ感を全開にしてくる大森靖子。「ZOC実験室」でキレキレのダンスを見せつける大森靖子。音源を聴いただけでも、曲によって声の表現を完全に使い分ける人だなあと思っていたけれど、生はもっとすごかった。曲によって、表情から声から動きから歌い方から全くの別人だった。歌を聴いているというよりイタコの口寄せを見ているようだった。彼女はそれくらいそれぞれの曲に入り込んでいたし、同じ熱量で私も引き込まれていった。

彼女がファンに対して伝えてくれる彼女自身のメッセージは絶対にうわべだけの言葉じゃない。だけど博愛、なんてきれいごとでもない。そこにあるのはやはり「救済」そのものであるように私は思ってしまう。だってたった二時間で、たくさんの「私」が救われた。かわいくなりたい私や、ヤリマンだった私や、繰り返し語っている私や、自分でも言葉にできないでいる私や、その他たくさんの「私」たち。たくさんの「わたしみ」が肯定されていくことを全身で感じながら私は彼女の歌う「わたしみ」を聴いていたのだ。そしてその後で終盤の全身全霊の「死神」や「きもいかわ」。
感謝しかない。「あなたの一番好きなあなたもあなたの嫌いなあなたも私と私の音楽は全部肯定したい」って、曲で、言葉で、大森靖子のすべてをかけて一貫して伝え続けてくれることに感謝しかない。届いてる。届きまくってる。
本編最後の「オリオン座」の全員合唱とアンコールの「絶対彼女」のコール&レスポンスでめいっぱい声を出した。

あげは嬢の家に電車で向かいながら、ライブの感想を言い合う。まずは大森さんが我々と同い年と思えないくらい体力と気力があるという話。MCを一回挟んだきりであの全力パフォーマンスで18曲! 体を鍛えている様子もないし、やはりシャーマンなのかもしれない、ライブや自分の音楽活動だけでなく、子育てやアイドルのプロデュースや道重さゆみのオタクやいろんなことをしているのもすごいよね、ライブもただの口寄せじゃなくて救済だし、などと言っているうちに言葉が次々溢れてどんどん早口になっていく私たち。

救済なんて大げさなものでなくても、人のために何かするのにはとにかくエネルギーがいる。自分に余裕ないときや疲れてるときは席譲ったり人の悩みを聞くのもしんどいし、体調が悪ければ献血もできないし。もっともっと壮大な救済やファンとの交流やいろんなことをやってのける彼女のエネルギーの源は何なんだろうね? しばらくあれこれ言い合って、ありきたりな結論だけれど、たぶん、他のアーティストから彼女自身がたくさん愛をもらって、それによって救われてきた人だからなのではないか、ということになった。高校時代の彼女に2回だけ届いた峯田からのメールの返信とか、道重さんとの握手とか。

たくさん受け取るからその分たくさん与えられる。私も、もらった分を誰かにあげられるだろうか。

あとは、大森さんを始め三十すぎて精力的に活動している女の人はみんな自分の欲望に正直に生きているかんじがするね、ということを道中ずっと言い合っていた。早口で。

夜十時頃にあげは嬢宅に到着し、あげは嬢の夫氏とあげは嬢と三人で生酒を飲んでいたら、お子(一歳女児)が起きてきた。八ヶ月前に会ったときより、俄然人間みを増している。もう赤ちゃんじゃない。人間。
子供は日に日に変化、というより圧倒的成長を遂げていてすごい。大人は意識しないと考えは凝り固まるし、あとは変化というより退化、体や脳の機能が衰えていくばかりだ。だからこそ私は就職して仕事に慣れた頃に「変化」を求めて結婚や出産をしたくなったし、そういう女子は多いのではないかという話をした。しかもその「変化」は一過性のものではない。二十年くらいは子供は成長し続けるわけで、それに関わっていれば自分も二十年否応なく変わり続けられるのだ。絶対退屈しない。
「変化」ということでいえば、作家にしろ音楽家にしろ私たちが好きでずっとその表現を追い続けていたいと思うのは、大森靖子を始め、一面だけでなくいろんな面を見せてくれたり、作風やテーマがどんどん移り変わっていく女の人だよね、という話をした(そういえば大森靖子も峯田との対談で峯田に「いろんな顔を見せてほしい」と言っていたような)。彼女たちは出産や育児を経ても経なくても、その持ち前のエネルギーでどんどん変化していく。
私も今はもう、結婚や出産によって自分を変えたいなんて思わない。女性の「変化」を全部恋愛や結婚や出産や育児に帰結させるような言説も、全部鼻で笑って蹴散らしていきたい。
今は、毎日日記を書いたり友人たちと公開交換日記をしたり、文フリではエッセイだけでなく小説も売ったり、仕事でも文章を書いたり、そんな風にいろんな形で自分を表現する中で、さらにいろんな「わたしみ」が出てきたらいいなと思う。自分の表現も自分自身もどんどん変わっていったらいい。やっぱり私は昨日の自分と違う自分に出会い続けたいし、変わっても変わっても変わらない自分の核みたいなものがもしあるなら、人生の最後にそれがなんだったのか知りたい。

一歳児を寝かしつけるために大人三人も布団に入り、長い一日が終わる。

とりあえず友人の子をこんなにかわいいと思うようになるなんて二十代の頃は思いもよらなかったので、これも新しい「わたしみ」かも。

#日記 #エッセイ #大森靖子 #ハンドメイドシンガイア

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