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楽していい気分になりたかっただけだった。

4月9日(木)

朝起きて、昨日の夜作った炒め物の残りと、枝豆とわかめの味噌汁、白いごはん、ヨーグルトを食べる。
前日の日記を書き、一時間ほどYouTubeでアンジュルムのライブ映像を見ながらフラフープを回す。YouTubeでハロプロを見ていいのはフラフープを回している間だけ、と決めたので「よっしゃ今日も回すぞ!」と元気にフラフープにとりかかることができる。回し続けて汗だくになり、終わったあとしばらく動けなくなる。

日記の直しを数日分やる(数日分で三十分くらいかかる)と、もう昼ご飯を食べて出かける時間。パプリカと紫蘇とウインナーを具材にして焼きそばを作って食べた。こうして三食自分で用意する日々になってみると、いつも食事のメニューを考えているか作っているかたべているか片づけているかしている気がする。食べるのも作るのもそこそこ好きで、一人分しか用意しなくていい私ですら面倒に感じるんだから、家族分を何年も毎食用意している人は本当に大変だろうと思う。頭が下がる。

軽く化粧をして、ジョギング用のシューズを履いて出かける。腰痛でいつもの筋トレはお休みなので、運動のために有楽町まで約五キロウォーキングすることにしたのだ。皇居の周りは歩いていて気分がいい。

有楽町の献血ルームまで一時間弱で到着。予約していた時間よりかなり早く到着したが、問診採血を終えてすぐにベッドに案内された。
今回で献血は40回目。今のような非常事態のとき、落ち込んだり自分の存在価値がよくわからなくなったとき、私は進んで献血をすることにしている。体重制限もあるし、体調や体質によってできない人もいる(私も血圧が低くて断られるときもある)ので、できるときにはなるべく協力したいと思っている。ささやかだけど人の役に立ったと実感できて気持ちが落ち着く。血、あるいは血の中の成分(血漿など)を抜くので、汗をかいたときと同じくデトックス効果がある、ような気もする。成分献血は3、40分かかるので、本を読んで過ごした。宮本輝『天の夜曲』。

いつもと同じように無事終わったのだが、終了後に献血ベッドの上で血圧を測ると、基準値を下回ってしまっていた。基準値を超えるまでベッドから立ち上がれないので、看護師さんに温かい飲み物とクッキーを渡され、足を動かして血圧を上げる。「ソファで長めに休んでくださいね」と言われたので、遠慮なくアイスを食べながら長めに休んだ。

帰りに、イトシアの中を地下鉄の駅を探してうろうろ歩いていると、同じように迷いながら歩いている男性がいた。マスクなのでわかりにくいが、多分同年代くらい。線が細くてめがねをかけている。正直に言うとわりと好みのタイプだったので、つい「ここ、わかりにくいですよね」と声をかけてしまい、雑談しながら一緒に地下鉄の駅を探す流れになる。私は丸ノ内線、向こうは有楽町線だというので、丸ノ内線改札の方向がわかったところで別れようとすると、有楽町線の駅を一緒に探してほしいと言う。困っているようだったので一緒に案内を見ながら探し、「ああ有楽町線はこっちみたいですね、では」と言って別れようとすると、「あっち(地上)で一緒にごはんを食べませんか」と言われた。いやいやこんなご時世だし、と断ると、「帰る場所がないんです助けてください」と言う。
その人はネットカフェに住んでいたけれど追い出されてしまったのだそうだ。そういう人たちが東京にはたくさんいて、今回の宣言で居場所をなくしてしまうことが問題になっているのは知っていたし、Twitterでも「住む場所がなくて困ったときの連絡相談先」を知らせるツイートを見た。だから、一緒にその人の行き場所を探してあげたらよかったのかもしれない。けれど私はそのとき、「私には何もしてあげられないので、ごめんなさい」と言ってしまった。その人が初対面の私に甘えた感じで話しかけてくるのも、体や顔を必要以上にこちらに近づけてくるのもとても嫌だった。普段から距離感が近い男の人は苦手だけれど、もちろんそれだけではなく、早く離れたかった。

私が丸ノ内線の方に向かって歩き出すとその人もついてきてしまい、「一人暮らしですか」「家はどこですか」と言うので、「家族と暮らしています(嘘)」「家は教えられません」と言った。その人が、家族がいてうらやましい、とつぶやいたので心が痛くなる。このまま改札までついてきてしまったら駅員さんに事情を説明して引き渡そう、と思いながら歩いていると、その人は「では」ときびすを返したので、私も「本当にごめんなさい、お気をつけて」と言って別れた。その人が別の方向に消えるのを見届けてから改札を入って、到着していた電車に駆け込んだ。自分が、労力を割いたりリスクを増やしたりはしたくなくて、困っている人がいても平気でその場を去る人間なのだということを思い知らされた。献血して人の役に立ちたいなんて言うのも、結局は、楽していい気分になりたいだけなのだ。

帰って、いつも通り長めにお風呂に浸かる。出ようとすると目の前が黄色くなったのでその場にしゃがんだ。貧血だった。しばらくベッドに横になる。血圧も低いし献血するのはやはりもう厳しいのかもしれない。

夕飯は、鯖の塩焼き、ブロッコリーとチーズの味噌汁、昼の残りの焼きそば、白いごはん。血を抜いた後なのでがっつりめにしてみた。

いつも一緒に外食をしている不要不急のT氏が、「デイユースプランがあるビジネスホテルの部屋で一緒にワインを飲もう」と提案してくる。ビジネスや昼間を強調してくるとかえって怪しい。本当に二メートル間隔を開けて酒を飲むのか、濃厚接触することなく終わるのか気になるところではある。しかし普段も二人でホテルに行ったりしないのに、敢えてこのタイミングでその危険(いろんな意味で)を犯す理由がないので丁重にお断りする。私のうちで飲むことも提案されるが、それも丁重にお断りする。その後のLINEには「鬱気味」「自律神経の薬を飲んだ」と記されていた。また、「私には何もしてあげられないので、ごめんなさい」と言って逃げ出してしまいたくなった。

メイコと電話で話して、少し元気になって眠る。

#日記 #エッセイ #献血 #ネカフェ

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