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「ストーンスープ」の物語にみる共創の本意

みなさんは、ストーンスープの物語をご存知でしょうか。古くから世界中につたわる昔話の一つなのですが、私たちグラグリッドでは、この物語の中に「人が力をあわせ幸せをつくりだす」という共創の本意が見出せると考えています。
この記事では、3つの“ストーンスープ”の絵本を読み解きながら、共に創ることについて考えます。


ストーンスープの物語とは

「せかいいちおいしいスープ」の挿絵より

ストーンスープの物語は、超ざっくりいうと、「石のスープ」という奇妙な料理に興味をもった人々が、料理づくりに参加していく過程をとおして、人のぬくもりと生き抜く力を取り戻していく物語です。

[要約]
旅人が、食べ物を恵んでもらおうと、とある街に立ち寄ります。
しかし、どの家もこわい顔をして厄介払いです。
そこで、旅人は「石ころのスープをつくるぞ!」と声をあげ、広場の真ん中で、水に石を入れただけの鍋を火にかけます。すると、それに興味をもった人たちが、一人、また一人と集まりだしました。
旅人は「塩をいれたら美味しんだけどな」「にんじんが入っていたらほっぺが落ちるんだけど」とつぶやきます。すると、「それならうちにあるよ。」と、みんなが具材を持ち寄りはじめます。そして、知らず知らずのうちにたくさんの具材が集まり、気づいたら、とびっきりの美味しいスープができあがっていたのでした。
こわい顔をしていた街の人たちはすっかりと笑顔になり、大きなテーブルを囲み、火をともし、踊り、楽しいひとときを過ごしました。

ストーンスープの物語をグラグリッドが独自に要約

このお話は、ヨーロッパの民話にもとのカタチがあり、その後、それぞれの国でさまざまな変化をしながら語り伝えられてきました。韓国やフィリピンにも似たような話があるそうです。

私たちが興味をもったのは、そこで自然発生的に共創が起きていること。そして、なんの価値のないものから、すばらしい時間や知恵が創出されていること。これらは、現代において無形の価値を創出していくデザイナーの役割そのものではないか、と感じたのです。

3つの絵本を読んでみた

もっと深く知りたい!そう思った私たちは、現在日本で手に入るストーンスープの絵本から次の3つをピックアップ。読んでみました。

「せかいいち おいしいスープ」

まず最初は、2010年に岩波書店より発行された「せかいいち おいしいスープ」。著者は「三びきのやぎのがらがらどん」の著者でもある、有名なマーシャ・ブラウン。

3人の兵隊が主人公となって登場します。フランスの昔話をもとに、アメリカ人の著者が書いた、コルデコット・オナー賞受賞作品です。ちょっと皮肉めいた表現や、アンニュイな絵柄が、異世界観を作り出しています。

「しあわせの石のスープ」

続いては、2005年にフレーベル館より発行された「しあわせの石のスープ」。著者はジョン・J・ミュース。

3人のお坊さんが主人公となって登場する、中国を舞台にしたお話です。東洋思想に関心の強いアメリカ人の筆者が、この物語を「教えを広めていく旅」として捉え直し表現しています。細かく練りこまれた設定や、おちついた水彩画が、何度読んでも味わい深い絵本です。

「石ころのスープ」

そして、最後に読んだのはこちら。2021年に光村教育図書から発行された「石ころのスープ」。著者はジュディス・マリカ・リバーマン。絵はゼイネップ・オザタライ。

1人の旅人が主人公となり、“けちけち村”を訪問していくというお話です。この本は「トルコのおはなし」と明記されており、登場人物の衣装などもトルコの文化を表現しているのだとか。フランス人でトルコに住む著者とトルコ人の画家がタッグを組んで、トルコの昔話復活のために作ったようです。

すごい!これが共創かと感じた
「しあわせの石のスープ」

3つの本を読んでみると、それぞれに異なるメッセージがあることがわかります。その中でも、私たちが心を奪われた本は、「しあわせの石のスープ」でした。

この本には、戦争や洪水、飢饉などで、人を信用できなくなった人たちが、どのように人を信じ、交流していくのか。その様子が丁寧に描かれています。しあわせに生きるために、心をひらき、交流していくことの大事さ見える一冊でした。

(スープを食べ楽しい時間を過ごした翌日)
村人は、いいました。
「わたしたちの心は、(中略)これからもずっといっぱいです。わかちあうことが、ますます心をゆたかにする、ということを教えていただきました。」
お坊さんたちはそれにこたえて、こういいました。
「かんがえてみれば、しあわせとは、かんたんなこと、
それは石のスープをつくるように、かんたんなことなのです。」

「しあわせの石のスープ」より

石のスープは、人々がともに、しあわせに生きる生き方を教えるために、お坊さんたちがつくった、ひとつの仕掛けでした。スープというものは、いろいろなものを入れなければ、あじの良いスープにはなりません。みんながそれぞれ、自分のもっているものをもってきて、それをひとつのなべに入れて煮てこそ、こくのあるおいしいスープになるのです。それを、みんなでいっしょに食べると、なおいっそうおいしいのです。

「しあわせの石のスープ」訳者あとがきより

なぜ、石のスープが人を幸せにできるのか?

私たちは、ストーンスープで起きていることを分析するべく、絵本の内容を事こまかに分析していきました。

本の内容からデザイン活動の大事なポイントを分析した様子

絵本の物語で起こっていることに当てはめていくと、私たちがつくってきた共創の場の意味が見えてきました。(詳細はこちらの記事をご覧ください)

ストーンスープに学ぶ共創の場づくり

自分たちが大事にしていきたい共創とは何なのか?ストーンスープで起こったことを参考に考察してみます。

1. 「わしらはつくる。」という宣言
なにもないところで「つくる」と決める。広場の真ん中に空っぽの鍋を用意する。そこから全てが始まる。

2. 「これが、おいしいスープになる。」という希望
本当にできるかわからなくてもそう信じ、希望をもってビジョンを示す。

3. 「それが、本来のやりかただが。」応用はご自由に
やり方はあくまで参考。もっともっと、美味しくなるように自分たちで工夫して応用すること、追求することを許容する。

4.  「人のためにと考える。」から、ふしぎなことが起こる
自分のことだけを考え心を閉ざしていたひとたちが、人のために行動しだしたとたん、行動の連鎖、発想の飛躍がおこる。

5. 「ちょうちんに灯りをいれて。」成果を味わう
関わった人たちの顔を見ながら、その成果や過程を味わう時間をつくる。この幸せを分かち合う。

6.「こころがいっぱいです。」わかちあうことが心ゆたかに生きることになる
不安や疑心を変えられたのは、みんなでつくり、工夫し、期待し、味わえる意見があったから。分かち合い、助け合う行動は、心を満たす。


「共創」は、多様な人が知恵を出し合い良いものを生み出すことができます。しかし、このストーンスープを読み考えたとき、「共創」はもっと大きな意味をもっていると感じずにはいられません。
共創の本意とは、互いが心をひらき関わり合えること、そのものの豊かさにあるのではないか、と考えます。
わかちあうことは、生きていく力になるのです。

ストーンスープから発想を得たわたしたちのビジョンの一つ
「個性が集まり可能性が開かれる社会」

(三澤)

■関連note記事

まるで、ストーンスープの物語のように、人があつまり、それぞれが工夫しながら関わった「ザクロ収穫祭」の様子

■グラグリッドの共創


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