見出し画像

ビジュアルファシリテーションの9つの役割と、領域×役割で見えた「関わり方の違い」

こんにちは。ビジュアルファシリテーターの和田です。前回の記事では、「コンテクストに合わせたビジュアルファシリテーションの活用を、実践者・活用者が行えるように!」を目的とした研究のうち、ビジュアルファシリテーションが活用される6つの領域(典型的なコンテクスト)についてご紹介しました。
今回の記事では、領域と同時に特定した、ビジュアルファシリテーションの9つの役割を解説します。また、6つの領域×9つの役割を文献より考察して見えてきた「求められるビジュアルファシリテーションは、領域が違うとこんなに違う!」という発見についても、お伝えしたいと思います。

ビジュアルファシリテーションの9つの役割

それでは早速、特定したビジュアルファシリテーションの9つの役割を解説していきます!それぞれの役割には、さらに小分類の役割もあります。

役割1:コミュニケーションの土台を作る

1つ目は「コミュニケーションの土台を作る」という役割です。多様な人が話し合いに参加できるよう、可視化の手法を用いて話し合いを支援するというものです。

▼小分類
・コミュニケーション能力の差を埋める
・弱い立場/少数派の参加を支える
・多様な人が対等に参加できる状況をつくる

役割2:コミュニケーションを活発にする


2つ目は「コミュニケーションを活発にする」という役割です。議論がリアルタイムで可視化されていくことで思考や議論が活発になっていったり、言いづらいことも言いやすくなったりする効果があります。

▼小分類
・自由な意思表示を支える
・活発な議論/対話を促進する
・思考が活発になるための環境をつくる

役割3:参加者を理解し関係性を作る

3つ目は「参加者を理解し関係性を作る」という役割です。価値観や思いなど見えづらいものを可視化していくことで、お互いを理解し、関係性を育んでいく助けとなります。

▼小分類
・参加者の個性の理解を助ける
・参加者の要求の理解を助ける
・参加者同志の関係性を高める


役割4:状況を共有し把握する

4つ目は「状況を共有し把握する」という役割です。参加者が持っている情報を共有し検討していく過程を経て、共通認識が育まれていきます。このプロセスを経て、人対人ではなく、問題と私達という認識も育まれてゆきます。

▼小分類
・情報や意見を共有する
・問題と向き合う状況をつくる
・内容をわかりやすく整理する
・共通認識をつくる


役割5:内容を捉え意味を理解する

5つ目は「内容を捉え意味を理解する」という役割です。共通認識から、さらに一歩深く、俯瞰したり、見えなかった関係性を解き明かすなどして、本質を捉えていきます。

▼小分類
・俯瞰して全体像を捉える
・関係性を解き明かす
・課題の本質を捉えやすくする
・活動の意味を考えやすくする


役割6:発想を促進する

6つ目は「発想を促進する」という役割です。新たなインスピレーションを得たり、考えていくために、視覚的な支援は大きな効果を発揮します。

▼小分類
・観点や全体像を示し考えやすくする
・例えの表現で考えやすくする
・ひらめきを書き留め考える足場をつくる
・理想のビジョンをイメージとして描く


7:体験の価値を上げる

7つ目は、「体験の価値を上げる」という役割です。祝祭的に体験の場を共有して一体感をつくったり、参加者の感情や場の空気に注目しやすくすることで、参加者の体験の価値を上げるというものです。

▼小分類
・体験の場を共有し一体感をつくる
・参加者の感情や場の空気に注目しやすくする


役割8:学びを深化させる

8つ目は、「学びを深化させる」という役割です。振り返りを行う際の視覚的な支援が行われることで、学びが深まり、学習者自らが新しい発見をしていくことが目的です。

▼小分類
・反応や評価を受け止めやすくする
・過程を振返り、省察を深める
・体験を理解し知見を得やすくする

役割9:能動的な行動を促進する

9つ目は、「能動的な行動を促進する」という役割です。頭でわかるのみならず、腑に落ちて実行できる、というレベルに人の思いや行動を促すというものです。

▼小分類
・自己効力感を高め積極的な行動を促進する


ビジュアルファシリテーションが活用される6つの領域と、9つの役割から見える「多様性」

前回の記事で紹介したビジュアルファシリテーションの活用される6つの領域と、今回ご紹介した9つの役割(小分類では27の役割)を対応表に示すとこのようになります。

●はVF手法について重点的に論じられている部分で、領域ごとに重点的に論じている「役割」が違うことがわかります。

また、同じ領域でも、求められる役割は画一的ではなく、多様なパターンがあることもわかります。
領域と役割から考えると、ビジュアルファシリテーションの関わり方の多様性が見えてくる
のです。

※この対応表において印がない部分については、既存の文献において重点的に論じられていない部分です。その背景としては、領域で重要視されていない他、今は形式知として文献化されていないが今後の領域とビジュアルファシリテーションの発展によって形式知化されていく部分である、という可能性もあります。

求められるビジュアルファシリテーションは、領域が違うとこんなに違う!

領域や役割によって、ビジュアルファシリテーションの関わり方は変わってくる、ということが見えてきました。
さて、これからはビジュアルファシリテーションの活用される6つ領域、9つの役割を考察して見えてきた「求められるVFは、領域が違うとこんなに違う」という例を2つご紹介したいと思います。
「①場が参加者に与える影響」と、「②目指す成果」です。


①場が参加者に与える影響
まず、「場が参加者に与える影響」について。 
「体験を演出する場をつくり一体感をつくる」という役割は同じでも、領域によって、プロセスで重視することが異なります。

例えば「企業内の創造的活動」「学びと教育」の領域では、「場が参加者を刺激し活性化する」ことで、一体感を育んでいきます。壁にグランドルールを書いたり、思考のプロセスを示したりなど、VFは参加者の思考を活性化する関わり方を行います。
上記の絵はVisual Leadersに掲載されていた、Grove社の「Decision Rooms」のモデル図です。これまで、そしてこれから議論していく思考のプロセスを可視化することで、「Decision Rooms」がよい意思決定を助けると述べられています。

対して、「コミュニティと組織開発」の領域では、「参加者の思いを引き出す」ことで一体感を育んでいきます。そのために大事なのが、白紙の状態ではじめること。意図を介入していない白紙ではじめることが、率直な思いを引き出し、共有することに寄与します。
例えば、オープンスペーステクノロジーという書籍で、ハリソンオーウェンはこのように述べています。まさにこの写真のような状況ですね。


最初の時点では、できるかぎり何もない状態にしてください。それによって、事前にアジェンダは存在しないという重要な意思表示がなされるのです、私たちは文字通り白紙の状態から始めるのです。

Harrison Owen:Open Space Technology A User's Guide,株式会社ヒューマンバリュー,2007


②目指す成果
次に「目指す成果」について。
成果が「人の成長」か「アイデア」かによって、VFの関わり方が大きく異なってくるのです。

「人の成長」が成果としてあげられるのは、「コミュニティと組織開発」「学びと教育」「福祉と対人関係」領域です。
「参加者を理解し関係を作る」大きな役割や、「活動の意味を(個人個人が)考えやすくする」役割がビジュアルファシリテーションに求められます。社会や人の心理等、背景の理解を行うビジュアルファシリテーションの関わり方を行うことで、つながりを育み、人を育てていきます。
例えば、プレイフルラーニングという書籍では、名札代わりの椅子を使った手法が紹介されています。この椅子は常にワークショップ中持ち歩き、その椅子に座りながら話すこともできるし、気づいたことを書いていくこともできます。それによって、人とのつながりを育み、自分の学びを深める助けとなるのです。

対して「アイデア」が成果としてあげられるのは、「企業内の創造的活動」「住民参加型都市計画」領域です。
この場合に求められる役割は「体験を理解し知見を得やすくする」というものです。参加者・非参加者問わず、容易に知見を得て組織での創造を促進する目的を果たすために、ビジュアルファシリテーションには「本質がつかめること」が求められます。
上記の写真の例は、1993年に東京都世田谷区の、せせらぎのある緑道づくりで生まれたグラフィックとプロトタイプです。模造紙は「緑道のせせらぎで大事にしたいこと」、プロトタイプは「実際にどんな状態がいいのか」を試行錯誤しながら議論した結果が一目でわかるようになっています。こうしたものから知見を得て、区の設計者が計画案を作成しています。2018年現在も、この緑道は地域住民に愛されて利用されています。

ビジュアルファシリテーションの価値ある活用のためには、「どの領域で、どの役割が求められているのか、そしてどのように場へ関与するのか」を考えることが必要です。効果的な描き方も、描く対象も、分析やフィードバック方法も生まれてくるのです。

-----


研究発表を行った際、「実際の現場では、領域と役割の違いを理解し、どのように描きわけているのか?」という質問をいただきました。
こうした描きわけ(=関わり方を変えること)については、またこのnoteのマガジン「ビジュアルファシリテーション最前線」の中でどんどんご紹介していきたいと思います。どうぞお楽しみに!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?