そして時は動き出す
わたしは都内の漫画を教える専門学校に常勤として勤務している身なので、この度の流行りやまいで、あおりをくらっている一人です。
何があおりってそりゃあ、慣れないオンライン授業のシステムをある程度(突貫ではありますが)把握し、そもそもパソコンへの理解度もバラバラの他人(人数にして100名ほど)に、教えて理解してもらわなければならないってことはもちろんなのですが。
多くは、学生の学ぶ意欲にこたえることが、画面越しではやはり限界があるのを実感しつつあるということです。
巷では、オンラインで教えられることで世界の有名なひとの講義を受けることが可能になるだとか、近場の道場でもオンライン講義始めちゃったら、いよいよそこである意味は無いとかって意見がけっこう散見されました。
たしかにそうなんですよね。
ワンピースの尾田栄一郎先生がオンラインサロンなんか開いちゃった日にゃ正直、商売上がったりってやつです(どうもジャ○プがマンガ塾やるとか言ってますけどね。ブツブツ…)
だって、有名な先生の漫画の描き方って絶対知りたいし、お金を払う価値ありあり。だって実際に仕事してるひとだし、それこそ億万長者でしょ!
とはいえ、マンガって描き方がひとつではないので、よほどその描き方が合う人でないと、「そのひとはそう」であって、自分が本当にその描き方で面白いマンガが描けるかってのはまた別なんですよね。
著名人の個人サロンと学校の違いって、大きくはそこかもしれない。
そのひとイズムを学びたいひとにはサロンはもってこいですが、まんべんなく学ぶなら学校が手っ取り早いのでは。
創作系はオンラインじゃ限界ある
それじゃあ、ネットの海にあまねく漂う情報たちの中から、合うやり方を選べばいいかといえば、「それは初心者にはおすすめ出来ん」となってしまうのです。
だって、それが取捨選択できるひとはそもそも人に教えられなくても描いちゃう。そこの取捨選択に自信があるならすでに描き始めてるはずなのです。
多くの人は、取捨選択をして行動にうつす。その1歩を踏み出せない。
それは、やり方を模索するがゆえに、何からやればいいかわからないというケースが多くあるように感じます。学校というものは、そんなひとたちの1歩をいっしょに考える場であると思っています。
そう、そこでネックになるのが「対面で教えられない」現状。
完成した絵だけをみてアドバイスをするのは、ある程度そのひとのクセや、嗜好や、方向性が分かってからの話であって。そのクセすらもよく見てない、まして対面で会ったことがないひとには教えようがないんですよね。
描く過程を見たい。考え方を、性格を、そのひとの目指す目標なんかを知らないと、アドバイスってめちゃくちゃしづらかったりします。
けれど、学びたい意欲、描きたい意欲を下げたくはない。メールで、オンラインミーティングで、どうにか質問にこたえてやり取りをする。
でも、やっぱりそれは限界があって、たとえば線をひくときのペンの持ち方ひとつとっても「クセ」なので、悪いクセだった場合はそれを見ていない状況では指摘すらできないわけです。
オンラインでの添削、イラストレーターの中村佑介さんなんかはわりと有名ですが、あの添削は、中村佑介さんにアドバイスを貰いたいひとが(つまり中村佑介さん流のイラスト術を知りたいひとが)お願いしているわけなので、無問題だと思います。構図とか色とか、絵としてのバランスをみてからのアドバイスも多いですしね。
近所の道場と世界チャンピオンの違い
空手の型もやったことがないひとが、いきなり世界チャンピオンの敵の倒し方マインドについて聞いても、たぶん情熱大陸みたいな印象しか抱かないと思うんですよ。
自分に重ならないからね。
世界チャンピオンのマインドって、やっぱり強いと思います。チャンピオンたるゆえんというか。トップを走る人は、負けない、ぶれない芯があるんです。それを、まだまだぶれる余地のある(良い意味でも悪い意味でも)ひとが聞いても、はーすげぇなーで終わってしまうというか。
それを見て吸収できるだけの土壌がないと、オンラインでの授業は何やってもそんなに効果ないと思います。
ネイルやってみよ!と思ってYouTube見ても、やっぱり練習しないときれいに塗ったりはがしたりできないんですよ。で、練習の効率をあげるためのアドバイスってのは、やっぱり手取り足取りでないとダメだったり。
近所の道場は、そのひとの目指すところから一緒に見てくれるんですよね。身体を鍛えたいとか、強くなりたいとか、あいつに勝ちたいとか、先生になりたいとか。そのうえで、クセを直してくれる。
限界ある中でどうしていくのか
学校に行けない時間が強制的に流れ続けていたこの2ヶ月、いろんなひとが、本当にこれでいいのか?って考え続けてきたと思います。
学生から、学校行きたいって聞くことなんてあんまりないですよ(笑)でも、そんな一言も色んなところで聞きます。もちろん自分の教え子たちからも。
それだけ、ひとはひとの中で学び、成長するんだなあと思うわけです。ひとが刺激になって、がんばろうと思えることってたくさんありますからね。
でも、今は会うことはできない。そんななかで私たちがとった選択は、オンラインでのレクチャーと、メールを用いた個別相談でした。
しぬほどメールきますし、チェックめちゃくちゃ大変だし、返すのにも文章だから頭使うし、毎日毎日パソコンとにらめっこして、それでも返し終わることは無い。さすがにクセを見ないとわからない相談については、登校が再開になってから対面で教えるということで返事を待ってもらっていますが……。
みんな、できれば顔みて教えたいです。わかってるかわかってないかもわからない状態で教えるのは、やっぱりなかなか手強いです。だって、アドバイス言うだけならそりゃすぐですけど、それで納得して手を動かしてもらわなきゃ意味無いですからね。
いまの専門学校には、自分も学生として2年間通って、勤務するようになってからはまる4年が経ちました。この4年のなかで、たぶんいちばん大変だと思いました。ただ、そのなかで「より丁寧に」「わかりやすく」でも「気張りすぎない」ことを学べたことは、ちょっとよかったかも。
6月以降、徐々に登校が再開になると思います。そのときも、近所の道場マインドを忘れずにやっていかなければなあと切に思う今日この頃です。
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