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28)オートファジーを亢進すると細胞が若返る

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術28

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【細胞は自分のタンパク質を分解して若返りを行なっている】

 細胞内のタンパク質は絶えず分解して新しいタンパク質と入れ替わっています。古くなったタンパク質を分解して新しいタンパク質を合成することによって、細胞成分の若返りを行なっています。このタンパク質の若返りに重要な役割を担っているのがオートファジーという現象です。  

オートファジー(Autophagy)という用語はギリシャ語の「自分」(オート;auto)と「食べる」(ファジー:phagy)を組み合わせた用語で、文字通り「自分を食べる」という意味を持ちます。日本語では「自食作用」と訳されています。  

オートファジーは細胞内の一部を少しづつ分解する細胞内のリサイクルのようなものです。例えば、私たちは食事から1日50~100グラム程度のタンパク質を食べています。一方、私たちの体内では、1日に200グラム程度の自分のタンパク質をアミノ酸に分解し、それに相当するタンパク質を合成しています。つまり、口から食べているタンパク質より、ずっと多い量の自分のタンパク質を食べているのです(図)。

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図:体内ではオートファジーによって1日に200グラム程度の自分のタンパク質をアミノ酸に分解し、それに相当するタンパク質を合成することによって、細胞内のタンパク質の若返りを行っている。


【細胞が栄養飢餓になるとオートファジーが亢進する】

 定期的な断食(絶食)や継続的なカロリー制限を行うと体が若返ります。その理由は断食やカロリー制限をするとオートファジーが亢進して、細胞が若返るからです。

食事からの摂取カロリーを減らすことを「カロリー制限」と言います。食事中のビタミンやミネラルやタンパク質などの栄養素の不足を起こさずに摂取カロリーだけを30~40%程度減らす食事です。このカロリー制限は酵母から線虫、ハエ、マウス、霊長類に至る数多くの生物種において、老化を遅延して寿命を延ばし老化関連疾患の発症を遅らせる最も再現性の高い方法であることが、多くの研究で証明されています。

30~40%のカロリー制限というのは軽度から中等度の飢餓状態であり、それに対して生体は様々な適応応答を行うために、代謝や防御機能に関与する遺伝子の発現レベルでの変化が生じます。
その一つがオートファジーの亢進です。

オートファジーは細胞内タンパクや小器官を二重の脂質膜で包み込み、これをリソソームに輸送して分解する仕組みです。細胞が飢餓条件下におかれると、細胞質に隔離膜と呼ばれる扁平な小胞が現れます。その後、膜は細胞質内の異常タンパク質や細胞内小器官を取り込みながら伸長し、先端どうしが融合して、オートファゴソームが形成されます。 オートファゴソームがリソソームと融合して内包物は分解されます。自己消化で得られたアミノ酸は栄養源として再利用されます(図)。

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図:細胞質に隔離膜と呼ばれる扁平な小胞が現れ、異常なタンパク質や細胞内小器官を取り込む(①)。その後、膜は細胞質を取り込みながら伸長し(②)、先端どうしが融合して、オートファゴソームが形成される(③)。 オートファゴソーム内にはミトコンドリアなどの大きな細部内器官も含まれる。オートファゴソームがリソソームと融合すると(④)、内包物は分解される(⑤)。自己消化で得られたアミノ酸や脂肪酸や核酸は細胞内の物質合成に再利用される(⑥)。(参考:Nature Cell Biology,9, 1102-1109, 2007 )


細胞は栄養飢餓に陥るとオートファジーにより細胞質内のタンパク質や小器官(ミトコンドリアや小胞体など)の一部を分解および再利用し、細胞の生存に必要なエネルギーやアミノ酸を得ています。

さらに、オートファジーを使い老廃物や損傷したミトコンドリア、病原体、異常タンパク質を除去しており、それにより神経変性疾患、がん、糖尿病、心不全、各種の炎症や感染症など、さまざまな疾患の発症を抑制していることが明らかになっています。つまり、オートファジーは細胞内の老化した成分を除去して細胞を若返らせる作用があります。断食が細胞を若返らせるメカニズムもオートファジーの亢進が重要です。

オートファジーの機序でミトコンドリアを分解することをミトファジーと言います。カロリー制限や絶食はミトファジーを亢進して異常なミトコンドリアの除去を亢進します。

オートファジーが抑制されると腫瘍が発生しやすくなります。これは、細胞内に異常タンパク質や不良ミトコンドリアが蓄積することが引き金になると考えられています。


【栄養過多はmTORC1を活性化してオートファジーを抑制する】

 ラパマイシン(Rapamycin)は臓器移植の際の拒絶反応を防ぐために使用される薬ですが、このラパマイシンに寿命延長効果と抗がん作用が明らかになったことから、ラパマイシンの生体内のターゲット分子である哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mammalian target of rapamycin)、略してmTOR(エムトール)という蛋白質が注目されています。

mTORはラパマイシンの標的分子として同定されたセリン・スレオニンキナーゼ(タンパク質のセリンやスレオニンをリン酸化する酵素)で、細胞の分裂や生存などの調節に中心的な役割を果たすと考えられています。


初め、酵母におけるラパマイシンの標的タンパク質が見出されてTOR(target of rapamycin)と命名され、後に哺乳類のホモログ(相同体)が見出されてmTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)と命名されました。




mTORにはmTOR複合体1((mammalian target of rapamycin complex 1:mTORC1)とmTOR複合体2(mammalian target of rapamycin complex 2:mTOR2)の2種類があります。mTORに幾つかの他のタンパク質が結合して複合体を形成しますが、結合しているタンパク質の違いで2種類の複合体ができ、異なる機能を担っています。

mTORC1は成長因子や、グルコースやアミノ酸などを含む栄養素のセンサーとして機能し、mTORC2は細胞骨格やシグナル伝達の制御をしています。インスリンやインスリン様成長因子やアミノ酸(特にロイシン)によって活性化されるのはmTORC1の方です。ラパマイシンで阻害されるのもmTORC1の方です。 


mTORC1は、グルコースやアミノ酸などの栄養素の状況、エネルギー状態、成長因子(増殖因子)などによる情報を統合し、エネルギー産生や細胞分裂や生存などを調節しています。

細胞の増殖というのは、栄養とエネルギーが利用できる状態にあるときに、新たな細胞構成成分(タンパク質、核酸、脂質など)を合成して、細胞の数を増やす生化学的プロセスのことです。したがって、増殖するためには細胞を新たに作る材料(栄養素)とエネルギー(糖質や脂質を分解して得られるATP)が必要です。増殖因子や成長因子やホルモンなどによって細胞増殖の指令(シグナル)が来たときに、栄養素とエネルギーの供給が十分にあることを判断し、タンパク質や脂質の合成を促進して細胞増殖を実行するスイッチを入れるのがmTORC1です。

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図:哺乳類ラパマイシン標的タンパク質複合体1(mTORC1)は複数のタンパク質から構成されるセリン・スレオニン・リン酸化酵素で、インスリンやインスリン様成長因子-1(IGF-1)や上皮成長因子(EGF)や血小板由来増殖因子(PDGF)などの増殖因子によって活性化される(①)。mTORC1はタンパク質翻訳の開始因子であるelF4Eを抑制する4E結合タンパク質(4E-BP1)をリン酸化してその機能を抑制する(②)。また、リボソームの生合成を促進するS6K1をリン酸化して活性化する(③)。これらの作用によってmTORC1はタンパク質合成を促進する(④)。その他、多くの標的タンパク質をリン酸化することによって脂質や核酸の合成を亢進し(⑤)、細胞内小器官の消化・再利用に重要なオートファジーを抑制する(⑥)。 


【糖質摂取を減らせば細胞や組織が若返る】

 前述のようにmTORC1が活性化するとオートファジーは抑制されます。インスリンはmTORC1を活性化するので、糖質の多い食事はインスリンとmTORC1と介してオートファジーを抑制することになります。  

オートファジーが抑制されると悪性腫瘍が発生しやすくなります。これは、細胞内に異常タンパク質や不良ミトコンドリアが蓄積することが引き金になると考えられています。また、オートファジーの抑制は、古くなった細胞内のタンパク質や小器官の分解を阻害するので、細胞の老化を促進します。

つまり、インスリンやインスリン様成長因子-1によってmTORC1が活性化されることは体の成長促進や筋肉増強には効果があるのですが、オートファジーの抑制や酸化ストレスの亢進によって細胞の老化とがん化を促進することになります(図)。

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図: mTORC1(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質複合体1)は細胞のがん化と老化の両方に関与している。栄養素(グルコースやアミノ酸など)、インスリン、インスリン様成長因子-1、その他の増殖因子はmTORC1シグナル伝達系を活性化し、細胞の成長や細胞周期(細胞分裂した細胞が再び分裂を起こすまでの過程)の進行を促進する。オートファジーは細胞内をきれいにして細胞を若返らせる効果があるが、mTORC1の活性化はオートファジーを阻害して老化とがん化を促進する。 

 

線虫の研究では、カロリーを制限しなくても、カロリー摂取で応答するインスリンの信号伝達系に欠陥がある変異体は普通にエサを食べていても長生きすることが明らかになっています。

インスリンはオートファジーの抑制因子であり、インスリン信号伝達に異常があるとやはりオートファジーが亢進するのです。このようにがん予防と寿命延長とインスリンシグナル伝達系とオートファジーは密接に関連しています。  

いろんな成長因子や栄養素(グルコースやアミノ酸など)は成長過程においてはmTORC1の働きによって体が成長し成熟していく上で重要な働きを担っていますが、成熟が済むと、成長ホルモンや成長因子やmTORC1の活性化は細胞や組織の老化を促進する作用になり、さらにがん細胞の発生や増殖や進展を促進することに加担しています。

一時的飢餓あるいは軽度の飢餓はオートファジー亢進を通じて細胞内をきれいにして、細胞を若返らせる効果があり、さらにがんを予防することもできます。カロリー制限は完全な絶食ではなく、普通の食事の60%から70%程度のカロリーに抑えるのですが、この程度の弱い飢餓でもオートファジーが誘導されます。

絶食やカロリー制限を実践すると体の若返りに有効ですが、空腹感という苦痛が伴います。そこで、オートファジーを誘導する医薬品やサプリメントや食品成分の利用が検討されています。そのような効果がある食品成分としてスペルミジンが有名です。スペルミジンはポリアミンの一種で、小麦胚芽や納豆やチーズなどに多く含まれます。最近は抗老化のサプリメントとしても注目されています。スペルミジンについては次回解説します。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ



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