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詩)閉ざされた白い窓の外の景色

男はスマホをいじりながら単純な欲望を彷徨っている。女は眼を閉じて自分の最期の姿を想像している。吸い取られていく。顔を白く塗ってしまおう。日差しは暖かい。真っ黒な服を着て顔を白く塗る。何にもならない自由を味わいたい。線路をねじ曲げて平気な顔で歩くのもいい。
百年に一度の竹の花を一斉に咲かせ全て枯らしてしまうのもいい。アナウンスしよう。色は全て失せますと。

その部屋の窓は閉じられたままだった。白く塗られた扉がつけられていた。光の入らない部屋には心地よい音楽が流れている。部屋は白く統一されて窓の存在は消されていた。誰も窓を必要としていない。窓がなくてもいい生活をしているから。それぞれがバラバラに座り向かいに誰がいても気にしない。そういう世界だから。海のポセイドンが窓を突き破って現れない限り。この世の色が全て失せてしまわない限り。

母親に話かける娘は晩御飯はいらないと言う。モスのポテトでいい。そう?母親はうれしそうに笑う。二人の間にはなんのわだかまりもない。ここでは閉ざされた窓はもう普通の景色だ。
男は先ほどからなにかを待っている。単純な欲望は喉の渇きに似ている。母親は「喉が渇いたでしょ」と娘に聞く。男の喉は渇いていた。娘は母親に友達のように話し続ける。喉の渇きを忘れて。
男はもう我慢出来ないくらい喉が渇いている。
母親は楽しそうに娘の話を聞いている。
真っ白な窓の向こうに転がっている白い顔の女。窓は、開かない。この世の色が全て失せてしまわない限り。

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