ルポ4.22 大久保ひかりのうま「パレスチナへの詩とうた」「きっと、伝説として語り継がれる夜になる」
4月22日、大久保駅から徒歩30秒「ひかりのうま」では17時に音楽関係の音合わせリハーサルが開始されていた。白拍子の桜井真樹子さんの呼びかけで「パレスチナへの詩とうた」に集まった様々なジャンルを超えたアーティストたち。私も18時の詩のリハより早めに「小屋入り」したが、すでに歌人の大田美和さんはスタンバイしていた。詩人の伊藤芳博さんが岐阜から来られた。初対面である。「実はロードバイクで走行中にトレーラーに接触されて。死ぬところでした。」とびっくりするようなお話をされる。ソマイアさんの来日の際、司会進行を務めていただいた文芸評論家の岡和田さんとも久々の対面。大きなリュックを抱えて詩人の宮尾節子さんもやってきた。
会場は30人も入るのだろうか?というところだが、予約が40人近いという。リハーサル中にもお客さんがのぞきにやってきたりする。私も音出しのリハ。宮尾さんから「もう少しマイクの近くに」とアドバイスを受ける。客入りが始まり、会場はあっという間に立ち見も含めぎっしり満席に。「唐十郎の黒テントみたいだね」という声が聞こえる。かなりのお客さんが立ち見。
そのオーディエンスに囲まれるように19時半ステージが始まった。トップバッターは大田さん。洋服の上に和服を羽織る衣装でラッパーのように短歌を繰り出していく。全身全霊を込めたエネルギーが伝わってくる。
桜井真樹子さんの白拍子がそのあとすぐ始まる。観客が息をのんで見ている。私も初めて間近で見る白拍子「我はきみ(レファアト・アラリール)」は3部構成で「われ」と「きみ」を通してパレスチナと自分の「分かちがたい関係」を訴えていると感じた。そして福島泰樹を師と仰ぐ葛原りょうさんの短歌のすさまじい パフォーマンス。
すぐ後の吉松章さん「我はきみ その2 」邦楽と短歌が融合して、まったく異次元を作り出す。ちなみに葛原りょうさんは日暮里で「bar日暮里モンパルナス」をやっている詩人でもある。
詩人でパン屋のミシマショウジさんはビデオで出演「パン屋に爆弾を落とすな パン屋を攻撃するな」パフォーマンスの後、ミシマさんの特製パンが配られた。私のもらったパンは堅めのクルミ入りパン。歯ごたえがありおいしかった。
詩人伊藤芳博さんが寺井尚子さんの「フラジャイル」をバックに使い、「この子の名前は」 を朗読。2003年と04年にパレスチナを訪問した伊藤さんは子供たちの腕に刻まれた「名前」の意味を切々と読み、胸が苦しくなるほどのいとおしさと戦争が何を奪っているかを訴える。
三味線を使った塩原庭村さんの長唄「ガザの児」で会場は静まり返った。ピーンと張りつめた緊張感。会場の空気を変えるほどの三味の音。その静寂を破るように岡和田晃さんが「病院に爆弾を落とすな」を熱く朗読。岡和田さんの想いはガザから北海道のアイヌへ。ねじ込むような声と表情を全部使ったパフォーマンス。
ふたたび桜井真樹子+吉松章さんが二人でわれときみを演じ、「われ」がもう一人の「われ」を切り殺す。それぞれ同じ人間でありながらどうしてこのようなことが起こるのか。そう問いかけているようでもある。ここまでが第一部。ものすごく内容の濃いものだった。
第二部は黒川純さんの映像「Far from Gaza あなたはもう大量虐殺に加担したくないと言って死んだ」焼身自殺した米兵の衝撃的なストーリー。 桜井真樹子さんが「私の家(パレスチナ・ソング」をアラビア語で。どこか懐かしいメロディに豊かな大地のにおいを感じる。
詩人の宮尾節子さんが「この日のために「春のパン」という作品を作ってきたら、本当にパンが配られて」と会場を和ませた後、「蜘蛛」で「私の言葉があなたの言葉になる」ことを問いかけ、「春のパン」で、いま会場で考えたという「言葉にできない言葉」を織り込んだパフォーマンスを披露。言葉にできない言葉とは、「うねり」に近い。「ううう」とか「あああ」とかでよく聞けば何かを発しようとしている「言葉にできない言葉」その朗読が痛切に訴えかけてくる。人の声の根源的なものに聞こえるのだ。
詩人河津聖恵さんが「夜のかざぐるま」でビデオ出演。直後にアンダーワールド「ロング・アンド・ダーク」が流れ、少し不穏な空気を作り出し、私の朗読が始まる。「死は美しくない」「子どもを殺すな」を朗読。終了後、岡和田さんが「子どもを殺すな!」と声援をくれた。
ソマイア・ラミシュさん「パレスチナにおける戦争とジェノサイドに反対する日本のアンソロジーのために」(翻訳‥大田美和)桜井真樹子代読で紹介され、みんなで手拍子をたたきながら「私の血はパレスチナ人(パレスチナ・ソング)」を歌い終了を迎えた。
凄い夜だった。掛け値なしに今まで体験したことにないとんでもないパフォーマンスの連続。大げさではなく、きっと伝説として語り継がれる夜になる、そう思った。これは主題がパレスチナへの想いが募っていたからということと併せて、邦楽のみなさんの訴える力の強さが今回のパフォーマンス全体を引き締めたからだと思う。後日、4月22日の演奏家のライブの情景を撮影したもの、朗読した詩人の写真、当日参加した詩人と演奏家の集合写真を入れて改めて価格をつけて出版するそうです。経費にかかる実費以外の収益が出た場合は、その売上金は私のパレスチナの合気道の生徒のリーダーに送金したいとのことです。作品ができた暁には、ぜひともお買い求めください。
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