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異質をたたえる

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異質であること。時代との緊張。
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記事一覧

詩)脇役

食べると洗い物が出る 小皿とお椀はまず水で表面を流してから水に漬けて 箸なんかの小物も一緒に 油ものは一通り洗い終わった後に最後 魚を焼く網も水につけて付いた油をうかせ そうすると割と簡単に落ちる 食べることはとても楽しい 楽しいことのあとに 洗いものがある 食べる 捨てる 洗う 拭く 水気をしっかり取って仕舞う また出すときに分かるように さて料理は 主役があって脇役がある 洗い物は要領よくかたずける準備があり 頭でなく手で 𦚰も主もなく 順番にこなす 生きる それは

詩)鼓動/窓を大きく開けて

読みかけの本を伏せて 窓を大きく開ける 今日は少し肌寒い 本を脇にずらして眠る カーテンが揺れる くだける 前でも後ろでもない 縦でも横でもない 言葉でも形でもない なにか 在り続けること 在り続けられないこと 鼓動 人工的な冷たい響きの中でずっと蠢いて来た 違和感の時代に生きなければならなかった 甘くも酸っぱくもなく なにが価値なのか 虚構の幸せを目標にして 格差が上から塗り込まれ あるものは隠されて 汚いものはないものにされ 下へ下へと圧力ばかりがかかる 恥を知らない

詩)異形の鬼

それがいつから始まったのか 心のすみに住む鬼が表れて 脳みそに貼られたシールを 一枚ずつ剥がし 頭皮にこびりついたまっ白なボンドを 取れるまで 流してくれる 医者はマジックで書かれた暗号をみながら 「このあたりが少し異常ですね」と いつものように言う 長い時間 味気ない茶色の長イスで待っていたのに 答はいつも同じだった 答なんてもともとないのだ だから答があるふりをしているんだ 帰りの電車の中で いつも誰かの目線を気にしていた 気にしていたという形を 装っていた こんなら

詩)ひかりはどこに

ひかりはどこにあるのか 人間の顔と顔 そのあいだに 少年の頃 マックスウェルが開発したと言う 鉱石ラジオを組み立て 電気の必要のないラジオが出す音は 宇宙からの交信そのものであった 黒板で化学の先生から 鉱石ラジオがどうして音が出るのか説明していただくのを 不思議な気持ちで見ていた あの頃 ひかりはまだ短く 人間と人間 宇宙の端に たとえ失うものばかりでも 色彩は貧しくても  存在していた ひかりはどこにあるのか なぜ痛みは感じられず たった一枚の白い布が ずっと子ど

詩)言葉は白い紙に(四行詩)

白い紙をじっとみている この世界はここにある この世界 見えている世界は僕の心の中 孤独だ 結局は立って生きるしかない 誰かの声を聞きたくて もしかしたら僕は もうひとりの自分が どこかに生きていると信じているひとりかもしれない たぶんどこかで 僕と同じもうひとりが生きていて 向こうで僕は、なにか滅びる予感の中で生きている 光が横断する 日常はそんなことの繰り返し 僕が諦めた世界 屈折した光の眩しさ 美しい世界を描こうとすればするほど 踏まれ傷つき 血か流れ 瞳をみる

詩)旧友

広報にしばらく会っていない旧友の写真が出ていた。じっと見るが、目の所に面影があるが、若いころの決然とした口調で述べるあのイメージはなく、眼鏡の奥は温和な目で、趣味はステレオのアンプの組み立てと語るその雰囲気は、一つの季節が通り過ぎ、その季節の中で風を受け流すことなく、たとえ砕かれても尖った目じりを相手にきっちりとむけてた人間の眼の中に在るとは思えないほど、温和である。 1985年、旧友は国鉄分割民営化に反対する国労の組合員として、「人活センター」という名の隔離部屋に異動させら

詩)血債

自己解剖を試みる 生きたまま骨を残して肉を削り取る 血肉を露出する 不問に付してはならない 語らないことが消してしまう いやすでに ほとんど消されてしまった 侵したことを消し去って 曖昧にして 「やっぱり日本人は」そう思われている その事をニッポンジンだけはスルーして 「まあいろいろあった」という世界で ガザはガザのことだろうか あいまいに笑って 存在しているものは 侵しながら笑っているから そこにあるものをまるで無いように 見ることすらないから 死体を引き摺りながら

詩)末答

我が家に魚が棲みついた 魚はいつのまにかボクよりもヌシのように なんだかんだと口をだす いつのまにかボクは 魚のほうがエラく 根拠とかないが上にいるように思え そう思うと余計に魚は偉そうに見える ある日曜日ボクはコンビニで寿司を買ってきた 物価高で高いものは買えない 安物の寿司にはマグロの赤身とか何魚だかわからない光り物の魚とか入っていた ボクは当然だがパクパク食べた ハラも減っていたし なんの遠慮もなく 魚はしかし魚を食するボクにぎょっとしたのだ どうしました?と問いか

詩)「失われた腕に」を読む 御庄博美 1951年 政令325号違反で逮捕

失われた腕に        御庄博美 ~一傷兵のメモより~ おい そこいらを飛びまわっている 飛行機虫 レイテの底に沈んだ 僕の右腕にあきたらず 真っ赤な心臓まで蝕もうというのか 無残にもただれた正中神経もいまは蘇って ボードと ナットと リングで出来ているこの鉄の腕は強いぞ おい そんなに蒼ざめた眼をして飛び廻るな 飛行機虫 今に この鉄の腕で たたき落としてくれるぞ! 1951年 国立岩国病院患者自治会報・明友ニュース新年号 政令325号(占領軍行為疎外令)容疑で逮捕

詩)自問~What was I made for?

わたしはどうすればいいのだろう 自分にできることは何だろう 伝えられることはなんだろう たった一人の愛するものを奪われた人へ 語り合いながら家路につく その途中で無残に殺された4人の男たち 爆撃で飢えで子どもを殺された親が 血相を変えて部屋を出ていこうとするとき こんなことなら生まれてこなければよかった しあわせだったのは 現実じゃなかった 何のために生まれてきたの? 何のために生まれてきたの? わたしはどうすればいいのだろう わたしはなにができるだろう 自分にできるこ

詩)言葉

入口と出口なのだろうか 白紙 の中で 死んだ行動が継続している 続く忘却 過去は停止している 新しい歴史 遡ることを許さない 行動の死 ジャーナリストの死 子どもの死 妊婦の死 あまりにも多すぎる死 胸のつっかえ 夜通し黙ったままで それでも救いはない それでも吐き出す 地球儀の裏側の 苦難の風船は 風に吹かれたまま 流される 自分をみつめる信号を 探す もう入口は見えない この果てしもない人殺しの 出口はどこだ? 言葉が残し

詩)預言 

あなたは素敵だ リスみたいに かわいい 生きることは どう評価される? 生きるのは 状態じゃない 死も。 昨日とは違う今日 ただ 何かになる時 自分以上の自分が 静かに来る 覆い尽くされていた世界は ある日突然 預言者の世界に変わるのだ

詩)人間の王道…ある詩人へ

この世に生きているのだから確かに全てが綺麗ごとなわけがない バザーの金を預かっていたオマエが5000円抜いたと俺に散々言っていた本人が 5000円でランチしようよと電話して来た わたし嘘つきだからさ そう言ってケロっとしている  こんなごとくらいは毎日いくらでもあるでしょ 人間ってそう言うもんよ ぼくは寄り添うなんて言う奴は偉そうに見えてね あんな嘘っぱちはないよ だってそうだろ 弱いものの味方みたいなふりして自分を売り込むんだから 本気でその人のこと丸ごと受け止めて書いて

詩)修羅

書く 書く 美しくないことも 嫌われ者のことばも そこで起きていることがなにか おまえはなんのために息をしているのか ぐうたらな生をのうのうと存えるために どこかの誰かに うちわぼめされるために おまえは つまりおれは 書いているのか 書けば偏る 偏ることがあるからだ こんなことを書けばまた偏る 気持ちが波立つ それは実際そうだからだ 書く なにもならないことがなにも出来ないことが 悔しくて悔しくて 悔しくて たまらないと 書く なぜ こんなことが起こり 起こっていることを