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2019年ベスト映画

年の瀬なのでね。合計136本(あー150本届かず・・11月から失速した・・)中のベスト10本を選出いたしました。

⒈ JOKER

今年は迷いなく、圧倒的にJOKER。

この映画が、ジョーカーがあまりにも美しくて、美しいということに恐怖を覚える。これを美しいと思う自分のモラルコンパスは合っているのか。倫理は。常識は。善意はどこへ行った。そんなもの最初からすべて幻想だったのだろうか。善良で高潔なはずの豊かな人々に、ずっと無視され、抑圧されてきた小さき人々の怒りの渦が、アーサーという媒介を通して、ジョーカーという美しき概念に結晶した。

むしろ、今までジョーカーをヴィラン扱いしてきたバットマン映画が誤りだったのではないか?とさえ思う。金持ちの、エスタブリッシュメントの、何不自由なく育ったいけすかない御曹司が、親を殺されたくらいヴィジランテを気取って。あのバッドマン映画の数々は、支配階級やウォール街の連中が作った、まやかしだったのではないか。我々労働者を、大富豪のダークヒーローなどという甘い幻想に浸らせて、実際に世界を牛耳っている奴らに疑問を向けさせないための欺瞞だったのではないか。

目を覚ませ。ジョーカーこそが我々のヒーローだ。

と、崇めてしまいそうな、ひれ伏してしまいそうな、圧倒的な悲しさ、切実さ、恐怖、怒り。なんて残酷な寓話だろう。これが世界のあちこちで起きていることなのだ。今、こういう形でジョーカーを世に示すなんて、なんて恐ろしい映画だろう。なんて暗い時代だろう。

2. SPIDER-MAN:FAR FROM HOME/Avengers Endgame

もう反則だらけですよ。反則。単体では評価できない一大フランチャイズの記念碑的作品を2作品同立で2位にしてしまうという反則。でももう色々これは、特別編!殿堂入り!枠外!規格外!!許して!!!!

フェーズ3がこんな形で、文句のつけようもなく壮大に、一糸乱れぬ美しさで完結するなんて。どんなファンの期待も裏切って、上回って、観終わった時、感謝の気持ちしかないって、すごくないですか。すべてが愛おしくて、それぞれ6回観て6回とも号泣した。10年以上かけて紡いできたすべての物語が、ここに流れ込んでくるその壮大さと緻密さにただ圧倒された。

これは映画じゃないとか、スコセッシ先生もコッポラ先生も狭量なこと言わないで。いくらディスられても映画ファンはこの映画を愛しているんだよ。

3. El Camino:A Breaking Bad Movier

これも反則ですよね・・わかってます・・全世界のドラマファンがテレビの前で目から血を流して絶叫したあの最終話から6年。GoTの最終話の仕上がりによってGoTを軽く抑えて世界で最も偉大なドラマとして全世界のファンの心に刻み込まれたあのブレイキングバッドが、映画になってくる。しかも、しかもだ。ジェシーの話だというではないか。

ドラマ抜きでは評価できない時点で映画のランキングとしては反則だと思うものの、そうだとしても素晴らしい映画だった。

エンドゲームも同様だったが、Trailerのシーンなんて蓋を開けてみれば映画のごくごくわずかで、何なら映画本編に残されてさえいないシーンだった。全世界が固唾を呑んで待ち焦がれ、予想を飛ばしまくったのに、全く予想がつかなかった。

美しく、悲しく、力強い映画だった。こんなに苦しい思いをするとは思わなかった。本当に偉大なドラマ・映画だ。

4. 主戦場

今年はドキュメンタリーってこんなに面白いのか。と思った1年だった。しかしこれはもうドキュメンタリーという枠に留まらず、全映画の中でも群を抜いてすごい映画だった。

わざわざわたしがここで語ることはないかな。腹の底の方でずっと、憤懣やるかた無い感情がくすぶっていた。自由で、リベラルで、平等な国に育ったと思っていた。でももうそれは、過去の話なのだ。

5. Blindspotting

最高にクールでドープ、かつシリアスでインディペンデント。随所にフリースタイルラップが散りばめられ、映されるオークランドの街角にも、セリフのリズムにも、二人のコミカルなやりとりにも、ストリートのスピリットが生き生きと息づいている。その軽快さ、クールさと裏腹に、人種問題やジェントリフィケーションに現れるある種の階級問題をシリアスに見つめる、主演を務めたこの2人の真摯さ、クレバーさには舌を巻く。Nワードが抱える業の深さをあんなやり方であぶり出すなんて。それに、ラストシーンのコリンのラップシーン。行き場のない怒り、やるせなさと、一方に力強さ。若い頃ヒップホップを倦厭してきたのがバカみたいだと心から思った、ヒップホップは抵抗の、抗議の、ストリートの魂の音楽だ。かっこいい。

6. American Animals

いやーこれは面白かった。圧倒的にクレバー。巧すぎて、やり口が洗練されすぎていて、この監督、長編初監督ってマジかよ、ってあちこちで言われていた。

平凡に飽いた平凡な大学生4人が、レザボア・ドッグスに憧れつつ、強盗を計画し始めるが、いつしか引き返せなくなって・・・という話。

実話ベースというか、実際の犯人が4人とも出てくる。彼らのインタビューを織り交ぜながら、その証言に基づいて映画として再現されていくのだが、これがまーーー巧い。ただのドキュメンタリーではなく、ドキュメンタリー風なのに、食い違う証言を元に映画を組み立てていくと、何やら、フィクションよりもスリリングなファンタジーに仕上がっている。記憶や認識の曖昧さ、幻想に焦がれる平凡な若者たちの動機のなさ・・・現実がこんなにも不確かで、さながらファンタジーなんだということを、ドキュメンタリーとフィクションの境の白線を鮮やかに爪先でかき消しながら見せていく。素晴らしい。めちゃめちゃ面白かった。アメリカの「ファンタジーランド」性を際立たせる映画だった。

7. BlacKkKlansman

スパイク・リーですよ、スパイク・リー。スパイク・リーらしいなと、本当に爽快な気持ちになった。根深い人種問題になんの遠慮もなくバスバス大鉈振るって切り込み、白人たちに気まずい思いをさせつつも、笑い飛ばす豪胆さを忘れない。シリアスな問題を扱っているけれども、映画・エンターテイメントとして高いレベルで成立していて、めちゃめちゃ面白くて、真剣で、核心を抉り出し、問いかけられる、そして居心地悪く不安にもなる、という類稀な映画である。基本的に、ファイティング・ポーズなんだよな。スパイク・リーは。それが爽快。

8. OLD MEN NEVER DIE

東京国際映画祭で観たイラン映画。これは本当に度肝を抜かれた。シリアスなのか、コメディなのか、判断しかねるレベルにシュールで、超高齢社会という近未来ないし現代を、まるでSFのような鋭い批判性と寓話性で描き出す、非常に非常に(個人的に)物議を醸す映画だった。

イラン国境の山間にある、「老人が死なない村」。生きる希望を失くし死にたくてたまらない老人たちが自殺を画策するが、駐在している警察たちはそれを必死に阻止しようとする・・・というそれだけでもう、なんかこの高齢社会日本で暮らしていると背筋が寒くなるような設定。なのに、これがまた少しコミカルでユーモラス。いよいよ死ぬか?!と思いきや間一髪で助けられてしまう、という様式が繰り返されるのが、吉本新喜劇的でもあり、笑いを誘う。が、ティーチインの時、観客から「コメディ」という表現を聞いた監督は首を傾げて「確かにこれはコメディなのかもしれない」と言っていた。笑わせようと思わずに一心不乱に真剣に作っていてあんなにユーモラスなのか。監督的には社会課題に真っ向から挑んだということだったのだろう、そしてその企図は全く外れていないが、それでも、悲惨さはどこかコミカルでもある、ということだろうか。

いや。これはたまげたよ。面白かった。

9. THE KING

もうこれはね!!!!!これ!!はね!!!!ティモシーがヘンリー5世ってだけでもう横隔膜が震えてくるしね!!!このね!!!ティモシーが腹から声出して”Make it England!!!!”とか"On me!!!!"とか叫んでるのももう最高だしね!!!!出たよ!!!!王!!!!!みたいな。呑んだくれの放蕩息子だったところからの以外にも出たよ名君!!!ヘンリー5世だよ!!!!みたいな。もうただティモシーを称える映画。

寡黙で抑制され、仄暗い画面が中世の美しさと不穏さを存分に表現する。脇を固めるベン・メンデルスゾーンにショーン・ハリス、ジョエル・エドガートンの盤石さ。ああもう、ティモシーの若き王がカッコよくしかない。

シェイクスピアそっちのけで大盛り上がりできる素晴らしい映画。

10. 女王陛下のお気に入り

この、現代を代表する力のある女優3人の競演!!ヨロゴス・ランティモスの類稀なアイロニーとユーモア!!単純に完成度高すぎ。女同士の泥仕合がどうとか、っていうのはまあ、主要プロットではあるんだけど、そこがどうというよりも、その切実さや悲哀、怒り、嫉妬、没落、驕慢・・・階級がすべてだったこの時代、生き残るか落ちぶれるかの二択だったこの時代を生きた女たちの刹那に閃くような生き方を、こんなにも知性的に魅せるあたりにセンスしか感じない。好き。面白い。楽しい。美しい。こんなにいいもんはない。オリヴィアの受賞も本当に良かった。大好きだよオリヴィア〜〜〜〜!!

まとめ

本当はバッチ様のBrexitやアダム・ドライバーのTHE REPORTも入れようかと思ったのだが、取り上げた題材の評価が多分に入ってしまうため、映画としてはランキング外にしておいた。

全体としてやはり、ありとあらゆる切り口で起きている「分断」を取り上げた映画を多く見たし、心にも残ったなと思う。こうしてあげてみると、どれも歴史に残りそうな作品ばかりだと思える。うむ。来年もたくさん映画を観よう。

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