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清澄白河カフェのキッチンから見る風景 : 書を捨てよ、町へ出よう

最近読書会が開催できていないことが気になっています。盛況なときは10人ほどの本好きが集まり、持ち寄った本について価値のある意見交換をすることができる貴重な時間でした。昨年あたりから2~3人しか集まらないことが多くなり、マンツーマンになったこともあって、見直すべき潮時と考え、中断状態になっています。常連さんが地方に引っ越してしまったり、体調を崩されたりと、いろいろな理由はあるのですが、こういった会の運営はなかなか難しいものです。

GINGER.TOKYOは本好きのスペースと音楽好きのスペースに分かれていて、窓辺の本好きが好むスペースには「下町文庫」という一箱古本市の常設版のような棚もありまして、それなりに愛好者がいらっしゃいます。皆さんコーヒーなどを飲みながら、気ままに読書していらっしゃいます。長い方は5~6時間いらっしゃいますからちょいと呆れます。

本好きさんに関して、ときどき思うことがあります。「現実世界を生きろ」ということです。現実逃避的に本の世界に浸っていることは自分も時々あります。…というか、虫の居所が悪いときなどに意図的にやります。そういうテンポラリーな話ではなくて、現実世界はどこかに置き忘れているような方がいらっしゃるんです。明らかにおかしいと助言したくなりますが、それなりに知的で自分は正しいと思い込んでいらっしゃるので、強くは言えません。正義感に基づいて行動しているテロリストよろしく、周囲の価値観や道徳観に歪をもたらします。意外なほど迷惑な存在だったりします。

音楽好きにもたま~にいらっしゃいます。妙に詳しく特定のアーティストもしくはジャンルを語るのですが、他はあまり詳しくない。他の人間が好きなアーティストやジャンルのよさを認めない。「あなたは本当に音楽が好きなのか?」と問いたくなります。…もの凄く稀にですけどね。でも数人は思い出せます。自分が浅く広くという性格だから反発を覚えるのかもしれませんが、どうにもいただけない気分になります。まあ、好き嫌いの世界の話ですから、他人がとやかく言うことではないのですが、非現実的な空気感を纏っていらっしゃることは、こういう極端な趣味人の常です。

良いことなのか良くないことなのか判然としないのですが、どうも自分はそういうところが薄く、現実的な人間と見られがちなんです。本人や親しい人間は自分がズブズブの趣味人であることも認めますが、初対面の方などは思い切り意外という顔をされます。まあこれも放っといてくれという気もします。会社や店を経営していれば、現実的にもなります。社長なんてカネのことばかり考えていて、予想以上につまらないものです。

「書を捨てよ、町に出よう」と寺山修司は言いましたが、これはハイティーンに向けられた言葉と解します。オジサン、オバサンに言うことじゃないんだよな。加えて、自分はそれなりにバランス感覚を維持しながら生きているつもりなのですが、その上でズブズブに趣味的生活をしていることを他人様からとやかく言われたくないんですよね。人生一度きり、あっという間に終わりがくるんですから、好きなことし尽くしてから死にたいではありませんか。別に悪いことをしているわけではないんですけど…。

同じ日の夕方、「趣味の世界に隠遁していていいのか」という趣旨のことと、「純粋の趣味人だと思っていたのに結構現実的なんですね、書を捨てて町に出ないんですか」という、要は正反対に近いことをお二人の方から言われまして、両方に対して思い切り反発を感じているんですけど。不良中年が真面目に人生考えて悪いですか、まったく。音楽好きなんて最も罪のない趣味じゃないですか。後悔しないように生きましょうよ。


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