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猫カフェじゃない、生姜屋でもない

清澄白河のカフェ、GINGER.TOKYOは猫カフェではない。ロゴに猫が入っているので、「猫いるんですか」と訊かれることもたまにはある。しかし猫はいない。ウチのお猫さまは昨年5月に天に召されてしまった。名前は「ジンジャー」、最盛期は13kgもあった巨猫である。生姜色の猫だからジンジャー、ヤツのお姉ちゃんは白黒の縞だったので「ペッパー」という名前だった。まるで性格は違うがいいコンビだったと思う。ペッパーは2年半という短命だったが、ジンジャーはどういうわけか17年も生きた。普通はメスの方が長生きというが、ウチでは逆だった。

2匹ともカミサンの実家に近所のノラが上がり込んできて産んだものだ。2002年の春のことだ。そのときは6匹同時に産まれたが、その中に二回りほど大きいのが一匹だけいた。それがジンジャーである。そういえば母猫も随分大きい茶トラだった。父親は、言わずと知れたカミサンの実家の雄猫である。原因をつくった張本人だ。そしてペッパーの色味は父親そっくりだったのである。

自分は猫を飼ったことがなかったので、あまりに毎日が面白く、出回り始めたばかりのデジカメで撮影しまくっていた。せっかくなので、音楽情報を発信していたウェブサイト「saramawashi.com」で日記的に写真を掲載したところ、大人気になってしまった。日に200ページビューほどは見られていたようだ。アクセス解析のようなツールが流行っていた時代だ。実はブログなどという言葉が生まれるずっと前から日記サイトをやっていたのである。

前職を辞してカフェを作ることにして、せっかくなら法人でやってみようとなったのが2014年だった。会社を立ち上げるとき、少なからず知名度を持っているサイトがあることは有利にはたらくということで、会社名を「株式会社さらまわし・どっと・こむ」とした。結局のところ、ジンジャー様の知名度のお陰なのである。何度か「さるまわし・どっと・こむ」と間違われたこともあるが、サルはいない。ちなみに飲食店起業支援用サイト「saraarai.com」も自分が作ったものだが、残念ながらコンサル事業は休眠中である。

そのころは自分自身の体調不良もあり、サイトの更新は随分疎かになっていた。そもそも狭心症を患い、前職を辞したのである。今のように動けるまで回復するとは思っていなかった。恐らく体重を20kgほど落としたのが効いたのだろう。店名は立ち上げ時のスタッフが「さらまわし」のフランス語だといって「tournantes(トゥルノントゥ)」としたが、5カ月で行き詰った。日本語でもよろしくない意味がある「まわす」という言葉のフランス語に間違いはないが、「フランスではそのよからぬ意味で使われる言葉なのでやめろ」とフランス人女子大生のアドバイスを頂戴したのである。まったくもって、無知ほど恐ろしいものはない。

仕切り直すことにして、一旦2週間ほど閉店したが、直ぐに一緒にやりたいというスタッフが見つかり、店名を「GINGER.TOKYO」に改め、リニューアル・オープンした。これはその当時「.tokyo」ドメインがリリースされたばかりで、ジンジャーの写真を掲載する専用サイトを作ろうとして確保したドメインだったのである。つまり、カフェの名前は生姜料理の店ということではなく、猫の名前の流用だったのである。まったくもって、会社も店もお猫さまさまで決められたネーミングなのである。

あっという間に5年が過ぎたが、いろいろ苦労もあった。途中、カミサンの祖母、カミサンのお母さん、そして自分の母親も他界した。実は友人も何人か他界している。自分自身がそういう年齢になったということなのだろう。あわせてジンジャーも天に召されてしまった。カフェを始めて知り合いは随分に増えたのに、なんだか急に寂しくなってしまったのは事実である。

最初はご近所の生命保険会社の広報の方が美味しいご近所さんとして紹介してくれたことから、パスタが人気になって店の人気にも火がついた。次にバターチキンカレーが人気になり、一気に仕込み量を増やすことになっていった。一時は週5回召し上がる常連さんもいらっしゃるほどの人気ぶりだったのである。

その次がハンバーグ、そしてじわじわと人気になっていったのが、今現在の看板メニューであるポークジンジャーなのである。リニューアル当初を知る常連さんなどは、「最初は生姜屋じゃなかったよね」などとおっしゃっている。今でも生姜屋ではないが、ポークジンジャーと自家製ジンジャーエールが人気なのは確かなのである。そして、決して猫カフェでもないのである。ちゃんと看板も出さないし、ちゃんと宣伝もしない自分が悪いのだが、それでそこそこ人気店になっているのだから、結果オーライではないか。

さてポスト・コロナが気がかりではあるが、あまり心配はしていない。時間が経てばまたお客様も戻ってきてくれると信じている。今後はウィズ・コロナかもしれないが、元々レイアウトには余裕がある店だったので、それでもいいではないかと呑気に構えている。これも、あのマッタリした巨猫から学んだことかもしれない。まったくもって、お猫さまさまのカフェなのである。

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もちろん伊右衛門は2リットルである


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