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大学院と精神科疾患

2018年3月、科学誌Nature を発刊するNature は、「大学院生の3分の1以上が鬱の症状を有する」との結果を発表した。一般的な値の6倍にあたる数値である。 かく言う私も大学院に進学後に精神科通院を開始し、抗うつ薬と眠剤の投与を始めて4年を迎えた。大学院で生活を送った読者の中にも、実際にメンタルヘルスの不調におちいったり、そのような状態に陥った学生に遭遇したりした経験を持つ読者は多いのではないだろうか。 大学院生が精神的に「病んで」しまう原因とは何だろう? 「休

    • 実験系研究室で死なない方法:物理編

      ラボで死なない方法いろいろ。特にバイオ系。 はじめに実験機器というものは、それぞれの特殊性が高いという点に加え、「使うエネルギー量がデカくなりがち」という点を特徴とする。大きな電力や力を出す実験機器というと、物理学分野で用いるものを想像するかもしれないが、バイオ分野で用いる実験機器も、意外と大きなエネルギーを放出する。 理系学徒には言うまでもないことであるが、大きなエネルギーを消費するものというのは、大きなエネルギーを外部に放出する能力を有するのだ。エントロピーは上昇する

      • 6年制学部でも修士はとれる

        「6年制学部(医学部医学科、歯学部、薬学部、獣医学部)の学生は修士をとれない」は大嘘である。 卒業していない、かつ退学していない在学生でも修士課程への入学は可能である。 6年制学部在学者・既卒者が修士号をとるメリットが存在する。 学位をとるための、色々な方法を紹介しよう。 6年制学部所属者/卒業者は、どんな大学にだって、どんな大学院にだって、行く権利を持っている。 前提条件のおさらい4年制学部においては、 学部4年間→学士 修士課程2年間→修士 博士課程3-4年間→

        • 「他人の経験はn=1だから」と死屍累々

          「n=1だから」     SNSなどで「キャリア」「生き方」「職業選択」などが話題となった時、「成功した、うまくいったという例は生存バイアス」「人のキャリアや経験談は所詮"n=1"だから」というコメントが必ずと言っていいほど目に入る。     私になじみのあるアカデミア・理系大学院生・若手研究者のコミュニティでは、学振(日本学術振興会特別研究員)の審査結果発表の直後に、上記のようなコメントがごまんと発生する。     「学振に採用されたら研究者としての未来は明るい」という

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          ウエスタンブロッティングのtips

          バンドが出ない、バンドの形がおかしい、バックグラウンドが汚い、などに対応する方法を列挙する。ここでは特に培養細胞や組織から精製したライセート、精製したリコンビナントタンパク質を対象とする。 サンプル調製タンパク質濃度の決定  ウエスタンのためのSDS-PAGE において、1レーンにロードする総タンパク質量は10-50 μg が適正とされる。もちろん少なければ検出不能になる。多すぎるとレーンの歪みや、バンドの歪み、近接したバンドの歪み・マスキングに繋がる(アルブミンやチュー

          ウエスタンブロッティングのtips

          基礎研究と医学部

          医学部は教育機関であると同時に研究機関であり、更に大学病院という医療機関を担う組織である。この組織には~研究室、~科(内科・外科等)、医局、等種々の集団を含み、また、医学部というと学部だけでなく医学系の大学院を含んだものを指す場合も多い。大学によっては、医師ではなく看護師等のコメディカルの教育を担う組織を伴う。医師の養成に加えて大学病院を中心に行われる臨床研究は医学部の大きな役割であるが、基礎研究を行う研究室も多く存在することは良く知られたことだろう。組織とその構成員にオーバ

          基礎研究と医学部

          学部生が院進前から研究を始めた方法

          研究をする学部生とは 研究職を志して大学に来た学生は少なからずいるだろう。研究をする、と聞いて実験室にこもり白衣を着て実験をするような光景を浮かべる人は多いのではないだろうか。理系学生は多くの場合入学した後すぐから実験を伴う授業を受けることになるが、それは教科書や手引書に適切な順序が示され、材料は教員によって準備され、模範的な結果が想定されている実験である。ある種の「正答」が存在する実験であると言える。それに対し、研究活動における実験というのは、方法の詳細を自ら計画し、材料

          学部生が院進前から研究を始めた方法

          学部生が研究することについて

          医学系・生物系の学部においては、卒業研究などで研究室に配属される以前から研究活動を行うことができる。本稿では、一般的な大学において基礎医学・生物学を対象とするいわゆる「バイオ」「実験系」分野における学生の研究活動の実情と、それについての個人的な意見を述べる。 大学や学部を問わず、研究者や研究職を志して大学に入学する理系学生は多い。特に入学したての学生は、それに向けてのモチベーションも高いだろう。「早く研究というものを始めたい」そのような意識をもつ学生が生じるのはごく自然なこ

          学部生が研究することについて

          書籍紹介 「潜入 閉鎖病棟―「安心・安全」監視社会の精神病院」

          著者は柳田勝英。 著者は「底辺から社会を眺める」ルポライターである。 本書では、精神疾患患者のふりをして精神科病棟への入院を果たしている。 この一冊は「レポ」とは到底いいがたいものである。 著者とそのほか入院者・職員とのあまりに具体的なエピソードばかりが散見される。後半の介護施設での勤務中の記述においてもそうである。 「○○さんとこんな話をした」「看護師Xが自分に薬を打った」「〇号室前の談話室で○○さんと将棋をした」「職員Xは優しかった」といった具合である。 ルポ

          書籍紹介 「潜入 閉鎖病棟―「安心・安全」監視社会の精神病院」

          トレヴァー・ノートン「世にも奇妙な人体実験の歴史」書籍紹介

          邦訳は文藝春秋より。 これまでに存在した奇妙な人体実験を、テンポよく綴った軽い文章である。 自らを実験台にしてこっぴどい目にあった科学者たちの様子が、時にコミカルに綴られている。 感染症患者の膿を自分に塗ってみたり、麻酔を自分に打って足を刺してみたり。 俗にいう「マッドサイエンティスト」にしてはあまりに自虐的もしくは自己犠牲の精神にあ振るる科学者が、こんなにもいたものかとため息をつく。 彼らの実験が現代科学に大きく貢献したかどうかは例によりけりだが、「好奇心は猫をも

          トレヴァー・ノートン「世にも奇妙な人体実験の歴史」書籍紹介

          書籍紹介「FACTFULLNESS」

          著・ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング 主題は「現状認知の方法」であろうか。 データを見るということ、バイアスを除くということ。 一見したところの本書の主題とは食い違うかもしれないが、各章で語られているのは、「正しく現実を認知する方法」であり、世界に踊らされないための術である。 「世界は思ったほど悪くなっていない」というのは本書で一貫して語られていることである。 飢餓で死ぬ人間は減っている。テロで死ぬ人間はごく少数である。教育を受けられる子供の割合は増加している

          書籍紹介「FACTFULLNESS」

          書籍紹介「コネクトーム:脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか」

          原著作者はセバスチャン・スン。 記憶を初めとする脳の異常と正常、また個人間の差異を、「ニューロンのつながり方」で説明を試みた書である。 現在までに至る脳科学は、「何をした時にこの部位が活動する」という切り口からのアプローチが多いが、本書では、「何をした時にどのような回路が活動するのか?」という切り口を示唆している。 神経細胞のつながり方というのは、ヒトはもちろん、マウスや線虫でもいまだに大きな課題となっている謎である。 数兆という数のニューロンがどうつながっているのか

          書籍紹介「コネクトーム:脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか」

          神崎洋治「人工知能解体新書」書籍紹介

          人工知能って何だろう、と興味を持ち始めた層においては、ちょうどいい軽めの読み物ではなかろうか。 前半では、人工知能の基本的な仕組みを概説している。非常に簡略化され、基本的な論理性とプログラミングによる仕組みのおおざっぱな知見を備えておけば、難なく読み解ける内容であろう。 後半では、実際に市場に供給されている人工知能プログラムや既存のシステムに組み込むためのシステムを、会社の名前やブランド名までを列挙して解説している。この後半部分に関しては、1年としないうちに内容が大きく変

          神崎洋治「人工知能解体新書」書籍紹介

          東野圭吾「容疑者Xの献身」書籍紹介

          ミステリ作家として知られる著者の作の中でも、有名な一冊であろう。映画化されたものを見たという人も多いのではなかろうか。 この書を「ミステリ」の分野に入れてしまうことにはやや抵抗がある。 犯人がその身をもって愛を捧げる姿の物語である。 タイトルの「献身」という単語は、実に正鵠を射ている。 同じアパートの隣室に住む一人の数学者と、母ひとり娘ひとりの母娘。 元夫の訪問から、彼らの平凡かつ幸せな日々は崩れ落ちていく。 残虐非道、巧妙無類の犯人は、何重にもわたって警察を、そ

          東野圭吾「容疑者Xの献身」書籍紹介

          グレゴワール・シャマユー「人体実験の哲学」書籍紹介

          邦訳は明石書店より 人体実験の歴史は長い。人体を使って何か、特に薬や治療の類を試すということは、人間が生じて古くからおこなわれていたであろう。 そもそも、人体実験とはなにか? 強い効果のありそうな新薬を患者に投与することは、治療か?実験か? 人体を用いた実験が、現在まで続く科学・医学の発展に必要不可欠であったことは言うまでもない。 本書の表紙にある通り、人体実験は「卑しい体」で試すのが原則であった。 罪人、風俗嬢、貧乏人 etc.... 本書では長い人体実験の歴

          グレゴワール・シャマユー「人体実験の哲学」書籍紹介

          上野彦「死体は語る」書籍紹介

          かつてドラマ化されたことでも話題の一作である。著者が法医学者として長年向き合ってきた数々の変死体とその事件の様子を綴る一冊である。 専門的な見地が半分、情に訴えるような文学的文章が半分、といったところであろうか。 法医学的な見地・知識の吸収を図るにはあまりに薄く、小説として読むにはあまりに情感・心理の描写に書く一冊である。 また、この一冊の大きな問題点として、情報が極めて古いという点が挙げられる。取り上げられている例はいずれも昭和後半のものがほとんどである。現代であれば

          上野彦「死体は語る」書籍紹介