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干しいもを知ろう エピソード2

干しいもをおいしくするには
どないしたらええのか。

結論を先にいいます。

「じっくりふかすとおいしいよ」

以上でございます。
・・・そうですよね、知ってますよね。
結論だけわかれば、
ここから先は別にご覧いただかなくても
結論は変わりません。
じっくり蒸しましょう。

書いてみたから
消すのももったいないな、と思って
なんとなく残しておく、
という程度のことです。

今回の前書き

以下のことは、
すでに申し上げた結論へ至った個人的な見解であって、
別にご覧いただかなくても結論は変わりませんことよ。

一方的にほしいも愛である。盲目である。
前回は恋やいうてたのに。

・・・愛になったんか。
まあええわいな。

その愛は何だ。
はるな愛でも大塚愛でもない。
ほしいも愛である。

いも。干しいも。あま〜い干しいもだよ。
もう、干しいも一直線です。ぞっこんです。

駄文であってもよい。
投稿である。
だって、運営の方がそう言うておるのだもん。


そもそも干しいもとは何であろうか

・収穫したいもを蒸し(あるいは茹で)、
・熱いうちに皮むきを行い、
・その後しばらくしてカットし(丸干しにはこの工程が無い)、
・(機械乾燥後に)天日で乾燥する
というプロセスで作られ、
その後、
商品としてわたしたちのもとに届けられる
まさにそれが
干しいもなのである。


まず


「干しいもを作るにあたり、どうやったら甘くなるのか」
について整理する。

文献の森を渉猟してさまよっていたのであるけれども
このお話は
干しいもを作るプロセスよりも手前、
生いもの扱いから始まるのである。
いくつかの文献を眺めていると
「貯蔵により糖化が進む」
という記述が散見されるのであって
この「糖化」が何を意味するのかがわからなかったので
まずそこから明らかにしたのであった。

貯蔵による糖化 について

一報目の文献として下記のものに教えを乞うのである。


https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrj/6/4/6_4_597/_pdf
収穫後のサツマイモへの低温処理が糖含量ならびに貯蔵性に及ぼす影響


に教えていただいたのである。
ここから下の引用は、この文献からである。

ちなみに、
上記での検討対象は「高14号」であって、これは
各産地で派生系統が選抜され,
「なると金時」,「宮崎紅」,「紅さつま」などと称して
ブランド化されているいもである
(高田明子(2010)高系14号.高系14号の派生系統.
 「サツマイモ事典」財団法人いも類振興会 145-146p.)。

さて生いもは
どのように貯蔵すればよいのであろうか。
結論からいえば、10℃でええのである。

結論としては本実験では‘高系 14 号’を 5°C または 10°C の温度下で20 日間低温処理することで,13°C の常温で貯蔵した場合に比べて約 3 分の 1 の期間で蒸しイモの甘味度が増加することが明らかとなった.
(①)

そうであったのか。
干しいもだって蒸す工程があるのだから興味津々である。
具体的にどうだったのか、教えてくださいな。

サツマイモを 3,5,10,13°C 下でそれぞれ20日間貯蔵した場合の糖含量の変化を調査したが,スクロース含量は13°C の温度ではほとんど変化が 認められず,10°C 以下の温度によって増加し,特に,3°C や 5°C の低温下でスクロース含量の増加量が大きくなることが認められた.
これに対し,グルコースやフルクトース含量は 3°C や 5°C の温度ではほとんど変化が認められず, 逆に10°Cや13°Cの温度下で増加した.
また,マルトース含量は処理温度に関係なく,処理後の日数経過に伴って減少した.このため,蒸しイモの甘味度は特に 5°C と 10°C で日数経過に伴う増加量が大きかった.
(①)

とのことである。

いもを加熱することで甘くなる、というのは、通常知られているようにβアミラーゼの作用によるデンプンのマルトース(麦芽糖)への分解なのであるから、ここでの糖化はそれとは全く別の機構がはたらいているようである。低温貯蔵による糖含量の増加については,

ジャガイモではスクロースの代謝に関与するスクロース―リン酸合成酵素やインベルターゼが作用していることが報告されている.
(①)

とあるけれど、ジャガイモって! ちょっと、なあ、さつまいもの話はあれへんのか。私は全方位的素人だからわからんのである。ええいくそう。

いずれにせよ、この一報から理解できることとしては、
低温貯蔵環境において
酵素の作用するデンプンの分解により
マルトース以外の糖含量が増えたことで
マルトース自体は減った(599頁、Fig.2左下)
という単純な話である。

そして一方で

一般に,サツマイモは 8°C 以下で低温障害が生じ,
この低温障害の発生機構については
ミトコ ンドリア内膜が損傷を受けて呼吸活性が低下し,
病原菌への感受性が増大するためであることが知られている .
(①)

・・・そうであったのか。
素人である私は知らなかったのである。
これまで
貯蔵すると腐敗が起こるというエピソードもちらほら目にしており
「保存することによる腐敗」
というのは矛盾しているように思えたのだけれど
どうやらそういうことだったようである。

素人は、
冷蔵庫なんかに入れておくとカビが生えなくて長持ちする、
と思うのだが、
実はまったく違う作用機構で腐敗が進むことがあるんだそうである。
へ〜、知らんかったわ。

こういう”マズい低温貯蔵状態”から常温へ戻すと、一気に腐敗が進むのかもしれない(腐敗の現物を知らないので想像しかできないのです)。
おいもも、おいしい干しいもになる前に大変なのね。

5°C 以下の温度では処理後に腐敗の発生が顕著であったため,
短期間で甘味の向上を図るには 10°C で貯蔵することが有効と考えられた.
(①)

ということのようである。

一言でまとめると
干しいもを作るにあたり
まず生いも貯蔵によって
マルトース以外の糖含量を増やす

のである。

どうやらまずおいもさんは
「加熱」する手前の貯蔵工程で甘さマシマシとなって
いよいよ干しいもへと成長!?するのである。

貯蔵期間はどのくらい

素人の私は、「どのくらい貯蔵しておれば甘くなるのだ」
と思うのであって、
焼きいもの文献ではあるがこういうものがある。


https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrj/17/4/17_449/_pdf/-char/en
焼きいもの食味が異なるサツマイモ 6 品種の遊離糖およびデンプン含量に対する貯蔵期間の影響ならびにこれら成分値による甘味,肉質の数値化

この中においては、遊離糖をスクロース、グルコースおよびフルクトースを定義しており、①の文献とも矛盾しない。
②の452頁の第1図の、貯蔵期間と生いものデンプン含量を比較したグラフがある。どのいもも、右肩下がりに見える。これは貯蔵期間が長くなるにつれ、デンプンが前述の酵素の作用によって遊離糖へ変化したことを表している。棒グラフの差が大きいほど、
デンプン→糖 への変換幅が大きいことを示しており、つまりは「甘いよ」であろう、と思われたのだが。・・・だが。

貯蔵に伴う 3 糖の増加は,焼きいもの甘味の増大に大きく寄与しているものと考えられたが,その変化の程度は品種による特徴が認められなかったため,品種による甘味の差を決定づけるものではないと考えられた.

遊離糖の増加に拠って甘くはなるのだろうが、これだけでは品種間の甘さの違いが説明できない、と言うておる。

それでは、マルトース由来の甘さに根拠を求めるのが妥当というものであろう。しかし、ここでも行き詰まってしまう。

本研究では,‘クイックスイート’および‘べにはるか’の焼きいものマルトース含量は貯蔵期間が最も長い貯蔵 6 か月後で最も多かった.これら 2 品種について,貯蔵に伴い生いものデンプン含量が減少したにもかかわらずマルトース含量が増加している点は興味深い.貯蔵期間が β- アミラーゼ活性およびデンプン糊化温度に及ぼす影響は不明な点が多く,今後解明される必要がある.

クイックスイートと紅はるかに見られる特徴、ということである。
貯蔵期間中のマルトース量増加については、これまで見てきた文献では触れられていなかった。

話が発散してしまうので、
マルトース生成に関する深追いはしないことにする(素人にはこの先の情報が見つけられていない)。

結論としては、
・品種によらず4ヶ月ほどの貯蔵までは甘さが強くなる
 (遊離糖の量が増加する)
・紅はるかなど、品種を選べば、さらなる長期貯蔵で遊離糖が増加し続ける
 (この文献からはどこで頭打ちになるかは言及されていない)

でも、素人だと、買ってきたいもを4ヶ月も保存しないし。
買ってきてすぐ使うよ、普通。
だからこういうことを鼻息荒く言っても「知らんがな」と一蹴され、駄文に堕するのである。
くはっ! なんちゅうこっちゃ・・・。

※テレビ番組で、焼き芋屋さんが「保存しておくと蜜が出る」と言っていた映像を観たような記憶があって、このあたりの生いもの変化を熟知しているのだろう、と思ったのです。


「ほくほく」と「ねっとり」

 この結果から
遊離糖が多いということは、保水能力が上がると推測されるのであって、
であれば、
保水能力が高いいもほど、ねっとりいもなのではないのか。

実はこの仮説は、同じ文献
②の454頁の第5表の右側、「官能値」の「肉質」
および
②の452頁の第1図において検証されている。

乾物中のデンプン含有率と、肉質の官能値(低いほど粘質=ねっとり。高いほど粉質=ほくほく)には明らかな相関がある。
デンプン含有率が多いものはほくほく系であり、少ないものはねっとり系である。

糖の甘さ

これまで、いくつかの糖の名前が出てきたが、それぞれちなみに
ショ糖(スクロース)を100とした場合の甘さは
とある文献によれば下記のとおりである。数が大きいほうが甘いよ。

              甘さ※
ショ糖(スクロース)   100
ブドウ糖(グルコース)   70
麦芽糖(マルトース)    45
果糖(フルクトース)   120
(マギー キッチンサイエンス 共立出版 634頁より抜粋)
※若干の振れ幅あり


しかし
日常生活においても、
たとえばアイスなんかは溶けかけた段階で甘みを強く感じるのであって
つまりは温度によって甘みの感じ方は振れるのであって、昔そのような文献(従来の食用さつまいも品種と新品種・有望系統の糖含量と甘味度について)をみたのであるが、リンクが切れておった。。。

"感覚的にはそうだよね"という情報が学術的にもある程度の根拠をもっていると同時に、ただ1つの文献を鵜呑みにするのはアブナイっすよねそうですよね、という感じである。
この甘味度も、人間の官能評価ではないのであくまで「基準」とすべきものだろうとは思うけれど。

ということで先へ進むのである。


加熱による糖化 について

 前段までで、貯蔵の工程で甘さマシマシになったおいもさんである。
次に、干しいもを作るにあたって「いもを蒸す」という工程がある。

しかしいくつかのサイトを見ても、
温度や時間について
「これやわ!これですやん!」
というものがない。

ほしいも学校によれば
「温度と時間は各農家さんによって違います。」
http://www.hoshiimogakko.com/process.html
である。

・・・ですよねヾ(*´∀`*)ノ


なんだかここに引っかかっていろいろ調べ始めた、
というのが事の発端であった。
そして教えていただくのである。


サツマイモを蒸した際のマルトース生成に及ぼす塊根の β-アミラーゼ活性およびデンプン糊化温度の影響.https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/61/12/61_577/_pdf

マルトースの生成にはデンプン糊化が前提となる.サツマイモデンプンは測定法や試料の性状などで多少異なるものの,一般的な品種・系統では 70∼75℃で糊化し始める.一方,β-アミラーゼは 80℃を超えると活性が大きく低下する.それ故,サツマイモの加熱調理においては,70∼80℃の温度域にできるだけ長時間曝すことが甘みを増すために有効とされている.

サツマイモにおける加熱調理に伴うマルトース生成はデンプンの糊化とβ-アミラーゼ活性の変化とが同時進行する下で生じることから,両者が複雑に影響すると考えられるが,
そのメカニズムは充分には明らかになっていない.


この記述を見ると、70〜80℃の”ええ感じ”のところで蒸してやることがポイントになることはわかるのであるけれど、みんな同じ条件でやった場合に頭一つ抜けるにはどうしたらええのか。
そこに一歩踏み込んでみると、”貯蔵による糖化促進をするもっと前の段階、いもそのものの育成段階で環境を改善してやる”ことに思い至った。ここから
●土壌中の窒素濃度(窒素・リン・カリウムの配合割合)を工夫してやることで加熱時の糖化促進が可能になるのではないか?
という仮説もでてくるのであるけれど、面白い記述があった。

β-アミラーゼ活性の高い(0.2 mmole maltose/mg protein/min 以上)塊根では活性の上昇に応じてマルトース含有率が増加するとは限らず,活性が同程度であってもマルトース含有率が異なる場合がある.
(③)

え? 酵素活性が同等なのに、マルトース含有率が違うって?? 続きをみてみよう。

β-アミラーゼ活性の高い塊根における活性とマルトース含有率との関係を示す図にデンプン糊化温度を記入すると,β-アミラーゼ活性が同程度の塊根の間ではデンプン糊化温度が低い方がマルトース含有率は高い傾向が認められた.
(③)

なんと、新しい指標にあたったのである。
デンプン糊化温度。

マルトース含有率を上げるには,窒素施肥量を増やしてβ-アミラーゼ活性を高めるよりも,デンプン糊化温度を制御する方が有効と考えられる.
(③)

糊化温度とは、デンプンの構造内に水が入り込んで、分子の規則性を失わせ、糊状になる温度のことである。出典はこちら。デンプン組織の中に水分をいかに入れてやるか、ということであるが、これは塊根の硬さともトレードオフになる気もする。ただ低いだけであれば、輸送や貯蔵に支障をきたすかもしれない。

さて。

北海道産「ベニアズマ」塊根のデンプン糊化度を茨城県産の塊根と比較すると,70℃および80℃ で加熱した時に,北海道産は茨城県南部産より有意に(p< 0.05)糊化度が高く,糊化度の全体的な変化は糊化温度が約62℃の「ほしキラリ」と約75℃の「ベニアズマ」(茨城県産)との中間に当たる様相を示した(中略)これを逆に敷衍すれば,気温(地温)が高い環境で栽培すると,糊化温度が上昇してデンプンが糊化し難くなり,マルトース生成が抑制されると考えられる.
(③)

βアミラーゼの活性を上げる方向ではなく
デンプンの糊化温度を下げる方に舵を切れ

ということである。それによってマルトース生成を促し、甘さを引き出すのである。
これは他の文献情報からも支持される事項である。

次に、
糊化温度が50℃程度と、他の品種に比べるととても低い「クイックスイート」種から糊化に関して得られた知見をみてみる。


糊化温度の低いデンプンを含むサツマイモ「クイックスイート」 における
加熱に伴うマルトース生成の機序
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/61/2/61_62/_pdf/

そもそも糊化温度が低いのは

アミロペクチンにグルコース重合度の低い側鎖が多く,結晶性が低いためであることなど
(④)

いうことで、いものデンプン形成過程および貯蔵状態が糊化温度に効いてくるようである。
アミロースに比べてアミロペクチンのほうが結晶性が低いため、外部からの水分の侵入が容易となり、その結果糊化の開始温度が下がる、ということであろう。
本文献の数値をみると、クイックスイートのβアミラーゼ活性が非常に高く
酵素として特異的にみえるが、それを否定している。

Takahata らはマルトース生成量の多いサツマイモ系統では生成量の少ない系統に比べてデンプンの糊化温度が低く,β-アミラーゼの熱安定性が高い
(未加熱塊根と比べた加熱塊根のβ-アミラーゼ活性の低下の度合いが小さい) ことを報告している.(中略)β-アミラーゼに関しても,糊化デンプンが酵素の機能維持に何らかの寄与を果たしていることが考えられるが,そのメカニズムについては今後の検討を要する.
(④)

ということで
デンプンの糊化温度が低くなると
βアミラーゼの活性があがってマルトース生成が活発になるだけでなく
糊化したデンプンによりβアミラーゼが保護されて
一般的な失活温度である80℃を超えても活性を維持する、
という考察しているのであった。

クイックスイートという品種は蒸かす側にとっては、酵素活性が高いいもであるうえに糖化の温度レンジがひろがるためにテキトーに蒸かしてもけっこう甘くなるよ、ということであって、こんなにうれしいことはないじゃないか、と言いたくなるくらいである。
じゃあ干しいもになっているのかというと、わたしの周りでは見たことがなく、他に越えるべきハードルがあるのであろう。


わかったこと

いもを蒸すことで甘くなる
といっても、品種によっていろんな特性があり、
デンプンの組成、酵素活性といういもそのものの特性に加え、低温貯蔵の履歴も影響するようである。

そして、
どれだけ速く甘くしようと思っても
酵素の能力以上に糖生成はされない
のである。

その温度は
「いもの糊化温度以上、(一般的には)80℃以下」
であり
この時間に長く置いておくことでいもは甘くなるのであった。

まったく当たり前の結論に達したのだけれど
・糊化してから糖化する、という順序があり、
 蒸されているいものなかで、糊化と糖化は同時進行になる 
・糊化温度が、デンプンの貯蔵状態
(アミロペクチン鎖やアミロースの割合、結晶化度)による
というのが個人的に新しくわかったのであった。


一言で言えば

わかったことは

「じっくりふかすとおいしいよ」

であって、
そもそも文献なんて漁らなくてもいいのである。
・・・わたしはまったくの阿呆であった。


一方で
人の経験からくる勘って理に適っているんだな
と実感したのであって、
「うまく説明できないけれど正しいと感じる」
という感覚は
大切にしたほうがよいと思ったのである。


ヾ(*´∀`*)ノ