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私がオンラインカウンセリングを始めたワケ

公認心理師・精神保健福祉士の上田です。
2023年より【カウンセリング・ソーシャルワークオフィス アジール】という屋号でオンラインカウンセリングをスタートしました。
これを読んでくださっている方は、おそらく私のTwitterやYoutubeをご覧になり、興味を持ってくださった方々かと思います。
私がなぜオンラインカウンセリングを始めるのか、少しだけお話しさせて頂こうと思います。


精神科業界のもののけ姫


私は大学卒業後、認知症専門の精神科病院に勤務した。
主に患者様の病気や生活、就労にまつわる相談を受ける【ソーシャルワーカー】として精神科人生をスタートさせたが、予想外のことが立て続けに行った。
先輩ソーシャルワーカーが次々と退職し、誰かに何かを教わることが出来なくなった。そこで手を差し伸べてくれたのが、臨床心理士の大先輩だった。ベテランでクールなその心理士の方は、丁寧に私の仕事や臨床家としてのスキルについても熱心に指導してくれた。
私はソーシャルワーカーとして働き始めたが、カウンセラーに育てられた。まるで人間に生まれたが狼に育てられた【もののけ姫】のような状態だった。
後で知ることになったが、その心理士の先輩は「元々ソーシャルワーカーを目指したが、働いている内に考えが変わり、資格をとって心理士になった」という私と少し似た境遇だった。


患者様のお話を聴く行為はソーシャルワーカーもカウンセラーも共通している。しかし、背景にある価値観や介入するポイントが違ってくる。
例えば、会社員がうつ病になったとする。ソーシャルワーカーは職場環境や上司、家族、など「本人を取り巻く環境」に働きかけることで本人が生きやすくなることを目指す。対してカウンセラーは本人の心の在り方、行動や物事の捉え方などを丁寧に聴き、本人の人間的な成長や症状の消失、ストレスに耐えられる力を育む。
要は「本人に働きかけるか、環境に働きかけるか」の違いがある。
※厳密には両者の仕事はかなり重なる部分があり、ソーシャルワーカーも個人に働きかけるし、カウンセラーも環境に働きかける。

それでもソーシャルワーカーとして仕事を始めた手前、介護保険や障害年金、成年後見制度や障害者手帳、傷病手当や失業保険など様々な社会制度を学び活用していった。お金の不安や生活の不安が軽減されていくことで、病状が改善されていく経過を見ると、これはまさに「生活療法」なのだと実感することができた。

しかし、ソーシャルワーカーが紹介する制度やサポートは強力だが、一つの危険を孕んでいるようにも感じた。
それは、ソーシャルワーカーにしっかりと本人の感情や苦労を聴くスキルがなければ、ソーシャルワーカーの制度紹介が相手を傷つけることがあると知ったからだ。
例えば入院中の患者様から経済的な不安の相談を受けたとする。そこでソーシャルワーカーが真っ先に「障害年金」の制度を紹介する。経済的な不安を解消するには至極真っ当な手段ではあるが、障害年金を受けることに強い葛藤を感じている人も多い。

「自分は障害を負ったんだな」
「この人は私を障害者だと思っているのか」
「私のことをもう働けないと思っているのか」

患者様の今までの苦労、抱いてきた感情、置かれている状況などを丁寧に聴くスキル、話してもらえるようになる信頼関係、それらをソーシャルワーカーは学校で学んではこない。カウンセラーに育てられた私は、どうしてもカウンセラーが持つ面談スキルや価値観が重要に思えて仕方がなかった。
私はソーシャルワーカーとして活動しながら、入職1年目からカウンセラーの指導の元、「認知行動療法」という心理療法を学び、研修会や勉強会にも参加するようになり、臨床の現場で実践するようになっていった。
※認知行動療法とは、自分自身の物事の捉え方やストレスへの対処方法のパターンを見直し、うつや不安が生じにくい新たな考え方や行動パターンを構築していく心理療法。


修行期間

より大きい病院で実践を積みたいと思い転職した。転職した先は依存症専門の大病院だった。
そこでも「認知行動療法」を学び続け、実践を行なっていた。認知症専門病院にいた頃とは違い、うつ病や不安障害、摂食障害や強迫性障害など幅広い困りごとを抱える方々と関わる機会が増えていった。
ソーシャルワーカーとして、入院患者様の退院支援やお金や就労のサポートをしつつ、個人の感情や生きづらさを丁寧にカウンセリングするスタイルは、私にはとてもしっくりきていた。
「認知行動療法」をさらに学び続け、患者様に役立つサポートをしたいと考えていたが、当時勤めていた病院に認知行動療法に習熟したスタッフが少ないこともあり、私は修行をする意味を込めて認知行動療法を専門としたクリニックへ転職することとなった。

私は認知行動療法と就労支援を専門としている精神科クリニックのデイケアに配属された。
※デイケアとは、精神科に通う方々が再就労や社会復帰を目指すために通う、リハビリ施設。グループワークや脳のトレーニングなどを行う。
「集団認知行動療法」「集団行動活性化療法」などのプログラムを担当しながら、精神科の病気によって休職した方々の復帰支援(リワーク)や今ままで働いた経験がない方の就労支援などを行なっていた。

自分で何か始めるしかないんじゃない?

「就労移行支援事業所」という福祉サービスがある。そこは病気や障害がある方々の就職活動をサポートする機関だ。私は患者様がある程度病状が回復してきたタイミングで、就労移行支援事業所へ紹介し就労をサポートすることが出来ていた。
しかし、ここで様々な葛藤が生じることとなる。

働くことを望む人の相談窓口が充実しているようで、していないという点だ。

まず、精神科クリニックや精神科病院は働くことを相談する窓口として適しているだろうか?もちろん病状の相談や、「何時間くらいなら働けるだろうか?」という相談は主治医と綿密に行う必要がある。しかし、どんな仕事が向いているのかとか、今職場の人間関係で困っているとか、そこまで話す時間はない。精神科の診察は5分〜10分が一般的であり、今の国が定めた診療報酬のルール上、医者や本人がいくら望んでも長い時間話を聞くことはできないのだ。

では就労移行支援事業所はどうだろうか?就労移行支援事業所は就労に関してはとても心強いパートナーだ。しかし、働くスタッフは元々一般企業にいた方が多い。つまり「精神科の病気のことがあまりよく分からない」中で支援をスタートしている。彼らも日々勉強しながら支援に取り掛かってくれてはいるが、患者さんからは「理解してもらえなかった」という声がよく届く。就労移行支援事業所の中にはもちろんとてもスキルがあるところがあるので、そういう場所だと満足度も高いであろう。しかし、就労移行支援事業所のスタッフには資格要件は特に定められていない。患者様は「病気にまつわることは相談しにくい」という気持ちを抱えながら通っている人が多い印象だった。

そして、就職後は中々精神科に通院する機会がない。なんとか土曜日に通院日をずらすが、土曜日の通院というのは激混みだ。働いている人は一様に土曜日に診察するから、普段10分以上話を聴いてくれる主治医であっても、土曜日ばかりは5分しか時間を割けないという事情がある。

就職後は就労移行支援事業所が頼りだ。就労移行支援事業所は月に1回程度の頻度で職場に訪問してくれたり、事業所で面談の時間を設けてくれたり熱心に対応してくれているところが多い。
しかし、これには制限がある。3年で支援が終了するという点だ。これは国が定めているので就労移行支援事業所は皆そのルールに則っている。就労移行支援事業所を経て就職したとしても、3年後はほとんどの支援がなくなってしまう。

「3年働いたらもう安心なのでは?」

事情を知らないとそういう声も聞こえてくえるかもしれない。
しかし、現状そうはいかない。3年も経つと会社から任せられる負担が大きくなる。最初は病気や障害に配慮してくれていた周囲も「慣れ」が生じてしまうのだ。そして部署移動もこの頃に重なる。本人の部署異動がなかったとしても、理解してくれていた上司や周囲の人間が変わってしまう。そうするともはや別の職場のような環境になってしまい、本人へのストレスがかかる。
そして、病気や障害に関わらず3年も働けば次のキャリアや人間関係について悩むものだ。「このままここの職場で良いのだろうか」など様々な悩み事があるが、3年経過すると相談する先は減ってしまっている。

つまり、現状の医療や福祉のサービスの設計上、どうしても埋められない溝がある。

「もう自分で何か始めるしかないんじゃない?」

私の頭にそんなセリフがよぎった。
私はずっと精神科医療機関にいたが、就労支援にも関わってきた。この中間の溝を埋める役割ができるのではないかと考えた。
そしてソーシャルワーカーとして生活や就労相談も受けてきたが、個人のカウンセリングも担ってきた(認知行動療法の訓練を受け、公認心理師の国家資格、産業カウンセラーの公的資格も取得した裏付けもあった)。
精神科医療と就労支援、ソーシャルワーカーとカウンセラー。二足の草鞋を履いてきた私だからこそ出来る、そして国の制度などの制限を受けない方法を考えたところ、コロナ禍で爆発的に浸透していった「オンラインカウンセリング」といった手法だった。

決意

私は家族の事情等もあり認知行動療法を専門としたクリニックを退職することが決まっていた。そのタイミングもあり次の自分の働き方を模索していたところだった。自分で何かを始めるというのはとても責任が重い。私には妻や子供がいる。医療機関勤務という安定した(管理職でもあった)立場だった。

しかし妻からは「やってみたらいいよ」と背中を押された。
私は自分の働き方、働く時間、働く内容を全て自分でマネジメントしながら、オンラインカウンセリングという事業を始める決意をした。
精神科医療機関で10年以上本格的な心理療法に携わってきた経験と、就労支援の現場にいた経験、そして認知症や依存症などの病院で家族相談を受けてきた経験などを生かしたサービス提供して行こう。そういった思いから事業をスタートさせることになりました。

この業界に入った理由や患者様に対する思いなど、語りたいことは山ほどあるのですが、長くなりましたので一旦この辺でやめておきます。別の記事でしい

今回深くは書かなかった部分ですが、私は技法云々ももちろん大事だと思いますが一番は患者様との信頼関係を大切にしています。技法などは料理で言うところの最後のトッピングのようなものと捉えています。まずはその料理を振る舞う相手の好みを教えてもらったり、アレルギーや体調を教えてもらったり、食事中に楽しく話をすること、それが最低限満たされた上で最後のトッピングは活きてくるからです。信頼関係なく最後のトッピングばかり磨くのは本末転倒だと考えています。
私のカウンセリングを利用して頂く皆様とは、ゆっくりと信頼を築けるような関わりを提供し、皆様が抱える不安や問題の解決のサポートをしていけたらと思います。

長文でしたが最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは、お会いできることをお待ちしておりますね。

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