Cさんの話
Cさんは大学生時代に、当時住んでいた自宅のアパートに同級生3人を呼んで飲み会していた。
テレビを流しつつ始まったこの飲み会は、最初はテレビに映った芸能人の話題から始まったけど時間が経つにつれて、テレビの声はBGMになり、それぞれの話となる。飲酒量も含めてその場の全員が気も大きくなっていた。
現時点ではCさん以外に居るのは同級生2人。あと1人はバイトで遅れるらしい。
最後の1人を残しながらも、酒量は増えて皆が陽気になり始める。
遅れてきた3人目が到着した頃、皆は出来上がっておりこう言った「心霊スポットの○○トンネルに行こうぜ。お前飲んでないから車運転してくれ」って。
飲み会に合流したばかりの同級生はもちろん断るが、3人がそれぞれ1週間分。合計3週間の学食を奢る事で了承してくれた。
道中でテンションの高い3人を余所に遅れてきた運転手は心霊スポットが近付くに連れて「お前ら。酔ってるから良いかもしれないけど止めた方がいいぞ。あそこ良い噂聞かんぞ」とぶっきらぼうに言う。
たしかにあそこで聞くのは、決まった時間に行くと霊が出る。トンネル内で車を1分以上停めると「おーい」と声が聞こえて、その声が段々近付いてくる。そして最後に車体をバンバン叩かれる。3人以上で行くと誰かが死ぬ。等々。
そんな噂が流れている場所だ。真偽は不明だけど、いろんな噂が流れている場所。
「お前、ビビってんのかよ?それを確認しに行くんだろうが」とCさんが言うと酒を飲んでる他の二人は笑い、運転手は溜息をついていた。
時間が経ってその場に着いた。○○トンネルだ。
車から降りると皆が黙っていた。
涼しくなっているのになぜか汗ばんでいた。それなのに寒気は残っている。
妙な威圧感を誰もが感じている。無駄に客観的に自分たちを見ている視線がある。Cさんはそう思っていたらしい。
運転手は「止めとかないか?今なら奢りの話はいらんから」と言ったが、Cさんは逆に勘に障って、大人しく断りながら時計を見てみた。霊が出る時間だ。それなら・・・・・・。と「トンネル内に行こうぜ。声が聞こえるかもしれん。上手くいけば全部味わえるぞ」そう言って嫌がる皆を無理やり車に乗せて、運転させてトンネル内に入る。
トンネル内に入るとCさんは冗談を含めて話出すけど、皆「うん」「そうだな」「あはは・・・・・・」と空返事や愛想笑いだけ返しており、それを打開しようとCさんが喋っていると、あ。っという間に1分は過ぎており霊は見えず、車体は叩かれない。誰も死んでいない。
誰ともなしに「戻ろうか」と言ってCさんの家に戻り、飲み会を再開した。
全員が起きたら夕方過ぎだった。二日酔いの頭痛に悩まされながら3人を送り出して、ベッドに戻り二度寝すると夜中に起きたCさん。
冷蔵庫のミネラルウォーターを取り出しボトルに直接口を付けて飲んで、トイレに行き用を足してから部屋の電気とテレビを付けた。
そこで初めて気が付く。空いているアルコールの缶や瓶に紛れて、1つのインスタントカメラがある事に。首をかしげてそれを手に取るとゆっくりとゴミ箱に入れてもう一度ベッドに寝転がって、飲み会に参加した皆に「昨日はありがとう。嫌な思いさせてたらごめんな」と言う連絡をして再度眠りについた。
起きるとバイトの時間ギリギリだったので慌てて飛び起きて、準備をして口の臭い消しを何粒か飲み込むとゴミ出しをしてバイト先へ向かう。
ミスも無く臭いを注意されることも無く、その日は終わり、携帯を見ると皆から連絡がきており「気にすんな」「飲みすぎ」「次は気を付けろよ」と返事があった それを見て昨日の自分を思い出して恥ずかしく思いながら返信をする。
運転手をしてくれた同級生に学食を奢り切った3週間。奢り終わった時は皆で笑いあい、何故か焼肉へ4人で行きその日を楽しんだ。
そこから大学内で交流するが、バイトやプライベート関係で4人が皆いっせいに集まる事は減ったが交流は、今も続いている。
それぞれが就職した今現在も。たまにだが。
「だけどね。俺いまだに黙ってるんですよ」
今私の目の前に座っているCさんはそう言って話を続ける。
就活時代に鞄の中を見ると、あの日捨てたインスタントカメラがあった。あの日を思い出して怖い。と言うよりも中身が気になる。と、お店を探して現像してもらった。店員は写真を渡す時に嫌そうな顔をしていた。それだけは覚えている。そこには5枚の写真が入っていた。
1枚目。夫婦と小学校低学年ぐらいの娘が3人で笑顔で映っていた。
2枚目。娘の誕生日会だろうか。ケーキと笑顔で映っている3人。
3枚目。2人分の食事だけが映されている。
4枚目。1人分のコンビニ弁当。
5枚目。あのトンネルの入り口。
それだけ写っていたらしい。
「夫婦の男性側。つまり、夫側。に映っていたのは今より少し老けたあの日の飲み会に来た、運転手のあいつでした。俺と同じ就職先を希望して俺は落ちたのに、あいつだけ受かって、俺が好きだったあの子と今は結婚して、順風満帆な生活を送ってるあいつですよ。今度、子供が産まれるらしいですよ。俺は今も1人でしんどい思いしてるのに」
そこまで言って下を向いて笑うCさんに「そうですか」とだけ言って、私は席を離れた。2人分の会計を済ませて自分が座っていたテーブルを振り向くと、Cさんは向かいに誰も居ない席に向かって先程と同じ様に下を向きながら何か呟いている。
それを見てもう無理だな。と思って店を出た。