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ナイスレターを書こう

私は悩んでいた。地球規模で見ると、ミジンコの大きさにも満たないような悩みだが、自分の中では、腕の中にすっぽりと収まる、たぬきくらいの大きさの悩みを抱えていた。

それは、この記事の最後に取り上げた、彫刻ボーイさんが引っ越すという話を聞いたからだった。彫刻ボーイさんは、私が1年半くらい、微かに憧れている男の人だ。私の家から、徒歩数分の距離の近所に住んでいた。

前の記事にも書いたが、彫刻ボーイさんは、私の中で、美術館の彫刻のような存在だった。遠くから眺めるだけで十分で、尊い存在だけに、お近づきになれるような自信なんて、これっぽちもなかった。だから、何かアクションを起こそうなんて思ったこともなかった。

しかし、今回のお引越しニュースを聞き、ほんの少しだけ、胸が騒いだ。ああ、もっと遠い美術館の彫刻になってしまうのかあと(どんな感想だ)。

遠い彫刻のような存在であるという関係性は、これまでと何も変わらない。それなのに、寂しいなあと思った。そして、自分がこれまで憧れていた気持ちを伝えてみようか、悩んだ。

悶々と悩みながら、歩いていた1時間の通勤路。そういえばこのビルの3階で、確か髭の長い、白髪のおじいさんが、占いをやっていたなと思い出した。少し有名らしく、以前、友達の東京観光の付き添いで来たことがある。

入ろうか悩んだ。しかし、こんなくだらない悩みを、赤の他人であるおじいさんに、打ち明けても良いものかとも悩んだ。ビルの前で、悩みに悩んだ結果、ノリと勢いと直感で、えいやっとビルに入った。

3階に到着すると、おじいさんが、扉を開けっ放しにして、掃除をしていた。荷物がほとんどなくなっていたので、あらあら、おじいさんも引越しか?と思った。

おじいさんと目が合い、「お嬢ちゃん、占いかい??」と聞かれた。「そうです、でもお取り込み中なら、大丈夫です(とてもくだらない内容だし)」と思った。

おじいさんは、「明日東京を離れて、名古屋に行くんだよねえ、だからこんな状態なのさ」と、のんびりと笑いながら答えた。

確かに店内は、おじいさんの言う、 “こんな状態” だった。おじいさんは、「でも椅子も、たまたま2つあるし、良ければどうぞ」と、端っこにあった椅子を、部屋の真ん中に並べて言った。

そんな訳で、私はほとんど何もない部屋で、白髪でヒゲの長いおじいさんと向かい合うことになった。なんてカオス。

おじいさんは、「看板もしまってあるのに、なんで分かったのかね」と聞いてきた。逆に私が、看板も出ていないのに占い師を探し当てる、超能力者みたいになってしまった。

「昔来たことがあって」と言うと、おじいさんは「そうかい、そうかい、看板も出していないから、もう誰も来ないんだよ」「もしかしたら、お嬢ちゃんが最後のお客さんかねえ」と、おじいさんは言った。

最後のお客さんかあと思った。もし、思いついたのが明日だったら、もうおじいさんに会えていなかったみたいだ。そしてきっと生涯、おじいさんの行方なんて知ることもなかっただろう。不思議なタイミングで現れることになったなあと思った。

時々、久しぶりに訪れると、閉まってしまっているお店がある。「閉めました」と張り紙をする前の、最後の最後って、こんな感じなんだなあと思った。それを味わえただけでも、ちょっと良い経験になったなと思った。


✳︎

私が、かくかくしかじかと説明をした結果、おじいさんは、「たぶんうまく行かないけど、好意を伝えてみるのも良いんじゃないか」という風に言った(どういうことだ)。

店を出た帰り道、明日には居なくなるおじいさんに会えたのも何かの縁だしなあ。最後のお客として、おじいさんの最後のアドバイスとミッションを実行してみるのもいいかもしれないなあと思った。

✳︎

そうと決まれば、忙しい。私は、話すのが苦手だ。テンパって、編集職の面接で「画家になりたいです」と言うような人間なので、言葉で伝えるのは、かなり危険だ。わざわざ人を1人呼び出しておいて、また「画家になりたいです」という、謎の宣言をしてしまう可能性だってある。

ならば、手段は、携帯のメッセージか手紙かになるが、できれば引っ越す前に、少し思い出のあるこの街で、最後にお会いできたらなあと思い、手紙を渡すことにした。

しかし、問題がある。彫刻ボーイさんは、日本語の読解が難しい?と聞いたことがある。文章を書くとすれば、おそらく英語の方が良いだろうなと思った。しかし、逆に私は英語があまり得意でない。

そこで、帰国子女かつ、副業で通訳もしている職場の同僚に添削を依頼した。ありがたいことに、完璧で素敵な文章に仕上がったのだが、なぜかしっくり来ない。

そこで、保育園からの友人に相談してみた。友人は、添削後の英文を読み、「んん〜」と唸るような反応をした。そして、「何時まで?間に合えば、私が添削する!」と名乗りを挙げてくれた。そして言った。

愛の伝わるナイスレターにしよう!」と。

「愛の伝わるナイスレター」を聞いた時、驚いたとともに、少し感動した。いい言葉。そういえば、私は伝わる英語を書くのに必死で、想いは込められてなかったと思った。

友達は、それに気づいたのであろう。とても忙しいのに、何時までに送るからと言い残し、約束の時間になった頃、本当に英文を送って来てくれた。そして、友達の英文を読んだ時、大げさだけど少しほろっと泣きそうになった。

友達特有の、“優しい” 感じが詰まっていたから。

何も伝えていないのに、私が伝えたかったことを捉え、英文を少し書き変えてくれていた。すごい!と伝えると、ずっと、しょうこりんから彫刻ボーイのことは聞いていたから、しょうこりんが持っている感覚を知っていたのかも(えへへ)という感じで返事をくれた。

この時、好意を伝える件に関しては、もうどうなってもいいかもと思った。「愛の伝わるナイスレターを!」と提案し、忙しい中で時間を割いて、私の気持ちを代弁してくれるような友達が居るのであれば、もうそれ以上に望むことなんて、ないかもしれないと思った。

つづく。



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無職の徒然。無職の心得。無職の行く末。25歳で色々捨て、無職になった後の記録です。

コメント4件

読んでいてドキドキしました。愛が届いたらいいなぁ。
aoikaraさん
いつもご声援ありがとうございます、、、!(深々)
なみだ。ありがとうー泣
ららさん
こちらの方が、いつもいつもありがとう!!
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