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私の上京と、そのしばしの終わり

はじめて自分のお金で借りた東京の部屋を明日引っ越す。

大学4年で東京に就職先が決まり、内定者としてアルバイトをさせてもらえるということで、地方の国立大のそばのアバートを引き払って東京に来た。

アルバイトで稼げるお金にしては少し背伸びした家賃と立地だったけれど、半年後には初任給も入るし、会社のそばに住んでたくさん働くぞという意気込みもあって、渋谷近くの部屋に決めた。

同じマンションの5つ上の階も空いていて、そこからは東京タワーが見えた。けれど階が上がると家賃は予算オーバーで、大人しく5階下の部屋にした。5階下だと東京タワーは見えない。いつかは東京タワーが見える部屋に住めるようになるのかな、という期待と、ちょっとだけの反骨心も持ちながら、どきどきして契約書に判を押した。

そこから約5年が経つ。

引っ越すまでは駅名も知らなかった街は大好きな故郷になった。

残業のあとに駆け込んで美味しいパスタを出してくれたイタリアンのお店
乾燥機付き洗濯機がまだ買えなかった頃に通ったコインランドリー
夜中に散歩しに行ったTSUTAYA
頑張りたいときに行ったとんかつ屋さん
休職中に通った区民プール
世間話できるくらい仲良しになったお花屋さん
疲れてボロボロになったら行くマッサージ屋さん
数え切れないくらい行った銭湯
じゃがりこばっかり買ってたコンビニ
はじめて行きつけになったバー
もうなくなってしまったお店たち


好きな場所も思い出も増えすぎて、居心地が良すぎて、何度も部屋を更新した。

窓から入る朝陽が好きだった。
どんなに起きたくない朝も少し元気になれた。

仕事の良いことも、悪いことも、悪すぎて休職したことも、ありすぎる人間関係のあれやこれやも、二日酔いで何度も失敗したことも、全て知っているのは私をおいてこの部屋だけだ。


ダンボールに家財を詰め込んでいるとき、部屋にあるモノたちは学生時代に運び込んだ面子からほとんど入れ替わっていることに気づく。

この箱に詰まっているものは、ほとんどを自分で働いたお金で買ったのだ。

まだ東京タワーの見えるマンションに住むには何階分か足りないかもしれないけれど、私は少し、私を誇った。

恥ずかしい失敗も思い出したくもない迷惑も数え切れないほどやらかしたけれど、ともあれ私はなんとか東京で、どっこい5年働き生きたのだ。


今年28になる私は明日この街を出ていく。
いまの世界と同じく、今後の人生の見通しは全く立っていない。が、まあきっとなんとかやっていくのだろう。

この部屋で過ごした5年が、おう、行って来いと背中を押してくれる。

明日は朝陽がきれいだといいなと思う。


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