夢見心地な2/28のUMEDA
半年前。バンドの練習前にお酒を飲んでいこうか迷っていた。
HEP横の建物の隙間を通り抜けつつ、飲み屋さんを眺めながら。
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とろけたい夜
数年ぶりに幸せの絶頂にいた画伯ちゃん。
まさかバンドを始めたり、女性と知り合って付き合うことができるなんて。
２月頃の画伯ちゃんは、始まった全ての出来事がもうゴールにすら感じていた。
現実と夢が同時にあるような。
でも、そのリアリティさ、ドリーミーさに耐えられなかった。怖かった。
この状態がいつか途切れたら、完全に折れてしまいそうで。
そうなる前にボヤかしておきたかったのかも。
夢見心地でありたかったのかも。
HEP横の通りにある飲み屋さんに入りたい。
でも1人でお店に入れない画伯ちゃん。
虚ろな目でお店を見ていた。
人工の灯りに照らされて。
酔って、夢見心地を"夢"にしたかったんだけどな。
東通り商店街を横切って、扇町通りにあるデイリーヤマザキへ。
入店。
やっぱり求めていたんだな。
いろんなタイプのお酒を飲もうと棚を眺めていると、店内ではお酒が飲めないと注意書きが貼られていた。
ホテル街の近いこの辺りで、突っ立って飲むのも、夢に溶け込めない気がする。
少し発想を変えよう。バンド練習でグダらずに済む上に、何か気分が落ち着くもので満たそう。
デイリーヤマザキの奥へ。
あぁ。たくさん食べるのもいいかも。
何か欲望を1つ大きく埋め尽くすことで、現実より夢側に気持ちが傾きそう。
あぁ。甘い物もいいかもしれないな。
こんなにいろんな種類のシュークリームが売ってたなんて。
全部、全部食べちゃおうかな。
近づいて洋菓子コーナーをハッキリと見ていく。
あっ。
声かけられないや。
「シュークリームとワッフルたくさんください」
なんて。
1人では店員さんに言えないや。
とろけない夜
虚ろな目でUMEDAを見ていた。
人工の明かりに照らされて。
背負ったギターケースのショルダーベルトが、よりくい込んできた。
世界が重くなっていく。
景色が下がる。
想いは上がる。
車道に、民家に、ラブホテルに、風俗案内所に、女学生風な服装の女学生ではない女性に、落ちていた手首に、舐めてきた日常に、立ちションの描く放物線に、少し開いたマンホールからこちらを覗く化粧を施した男性に、そのマンホールの淵に残るタンポポの怨念に、10年前に連れ去られたんですこの声が聞こえますか私を故郷に連れ帰ってはいただけませんかお金はないですしお返しできるものは何もありませんが"正しさ"が捻じ曲げられた存在がここに1つあるということにあなた耐えられますか？というループする音声の流れるカセットデッキに、それを拡散するための大音量スピーカーに、違法盗電に、違法売買に、違法幸福に、
どうしよう。
連れ去られそう。
このままだと全身を突っ込んでしまいそう。
何に笑われて死ぬのか。
何に笑われてるのかわからない問題なんて答えられない。
事前に全部準備してきてくれ。
全部準備してきたと知った上で準備をさせてくれ。
景色が上がる。
スタジオに辿り着いていた。
内容が頭に入らない状態で...
鬼滅の刃を読んでいた。
この日に2巻まで読んで、そこから半年経った今(2020年8月7日)まで、鬼滅の刃の続きは一切読めていない。
すでに、この日に突っ込んで死んでいたのかもしれないな。
10年前に連れ去られたのは自分だったのかも。
1 2 3 4 2 2 3 4 のノリではなく
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1 2 3 4 2 2 3 4 のノリで腕を掴まれて。
↑ ↑ ↑ ↑
ギターケースのショルダーベルトだけが、この世に残って、地面から空を眺めてる。
薄まった心と身体は、誰もが見て見ぬ振りをして。
東通り商店街のなかで、みんなの吐いた唾に。足音に。眩しさに。欲望に。柔らかい感触に。つけられた背後に。新しい気持ちに。3日で忘れる感情に。10年間も叫んでいた自分に。
ショルダーベルトは、肩から浮いた状態で。
夢見心地を求めていた。
でも夢見心地だと思える日が、10年ぶりにきたのかもしれない。
このUMEDAの夜に。
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