🥤ドクターペッパー【化学的な味】

生まれて初めてドクターペッパーを飲んだ時、「これは飲めない」そう言って1口で諦めた。好きだと言う人に渡して、代わりに飲んでもらった。

ケミカル

しかしどうしたことだろう。2011年。
朝から晩まで5000枚ほどポスティングをした夏の日。

大阪の堀江公園であまりのしんどさに動けなくなって休んでいた。
何回飲み物を買っても1時間もしないうちに無くなっていく。

真夏の本気ポスティングは命懸けだった。帰る前に糖分を取らないと倒れると判断して、すぐ近くの自販機へ向かった。

そこで珍しく"ドクターペッパー"が置いてあるのが目に入った。
100円オンリーのラインナップの中に。レアな君との再会だった。

「これ甘ったるくて、化学的な味でまずかったよな...でも思い出せそうで思い出せない...」

Tシャツに塩をふきまくった男の独り言。味が思い出せなくてムズムズしてきた。
もう自販機に短パンが触れるほど近づいていた。

いくら近づいても商品情報は得れない。どうしても得たい。
"ゴトン"と取り出し口に落ちてきた。どうしてだろう？

画伯ちゃんの身体は100円を使って、情報を得ようとしていた。
それともそれは脳みそかな？みんながおこなったのかな？

ひんやりした缶が手の熱を奪っていく。それだけで疲れが和らいだ画伯ちゃん。
公園に戻り、ベンチに座った。

やらしいくらいに缶の表面が濡れている。
画伯ちゃんの手も輝き、触れた短パンには染みがついていた。

飲む前から誘ってくるなんて。どんな顔してやがんだ。

顔を覗き込んだ。

鼓動の音が聞こえてくる

可愛い顔してんじゃんか。
疲れた画伯ちゃんの身体の奥にまで、その冷たさが伝わっている。

待ち遠しさが募っていく。

プルタブを摘んで、ゆっくりと引き上げる。軋むアルミニウム。
ベリリウムのスピーカーのような高音の伸びを感じさせる、弾けるように開く口の音。

耳を傾けてみると、
鼓動音のようなものが聞こえてくる。

こいつ...脈拍が上がってる...

夏の公園に、やらしい音が響き渡る。
足元を歩いていた蟻もこちらを見ていた。

飲み口の銀色部分が気になり、自分の指で拭いた。汚そうに見えたからだ。どうせ汚いなら画伯ちゃん自身の汚さで拭い去ってしまいたい。

ゆっくり唇をあて、月が見えそうで見えない角度に首を上げた。
鼓動音が口伝いに流れてくる。

俺の...脈拍も上がってる...

そのとき、思い出していた。
あの匂い、あのクセ、あの味を。

月が見えていた。

ドクターペッパーを求めて

蟻は歩きだしていたし、月の位置も把握した。
短パンは乾いていたし、画伯ちゃんは悩んでいた。

「もう1缶買おうかな...」

あまりにも美味しかった。
Tシャツにふいた塩も、ポスティングする前かのような面持ち。心が洗われたのかな？

それが知りたくて。もし洗われていたとしたら？
ほとんど見かけないし。ドクターペッパーなんて。

ずっと待ち焦がれちゃうじゃん。
ずっと追い求めちゃうじゃん。

いやいや。何を戸惑ってるフリしているんだ？
公園で夜中に、身振り手振りつけて1人で演じないでくれ。

「ほんとは欲しかったんだ、今すぐに」
と言ってくれ。

ジャラジャラ

求めてたんだな。
1度きりの再体験じゃ我慢できなかった。

飲みきった缶も手放せないほど。
カゴに入れたまま、ゴミ箱に入れられなかった。

画伯ちゃんは追加で4缶買って、ジャラジャラ言わせながら、10km以上自転車を漕いで家に帰った。

嬉しくて、疲れも遠さも気にならなかった。
鼻歌まじり。世界はクッキリしていた。

自分の部屋に入ると、ギターアンプの上に空き缶と未開封4缶を並べて、写真をたくさん撮った。
好きな相手との写真は何百枚も撮りたくなるもんだ。

画伯ちゃんは残しておきたい。
好きな相手との瞬間は全部。

ドクペわずらい

1週間に1缶の楽しみにしよう。
それでまたあの地域へ行くことが偶然あれば買おうと決めた。

4日後には無くなっていた。
1日1缶飲んでしまっていた。

すっかりハマってしまった。他では味わえない、そのケミカルな風味に。

俺はドクターペッパー依存性になってしまった。

夜も眠れない。朝も起きれない。
着信は鳴らない。LINEは来ない。SNSの反応も無い。
友達はいない。恋人はいない。遊びたい。一緒に眠りたい。

ドクターペッパーは1日1缶でそんな悲しみを消し去ってくれた。アルコールとは違う方法で。

あの匂い、あのクセ、あの味。

どんな夜の感動をも下回らない奇跡的な飲み物。
一番好きだった炭酸飲料ペプシネックスを超えた。

サントリー ペプシ ジャパンコーラゼロ 490ml ×24本

好きな女の子と抱きしめあったような、ライブハウスのステージの上で最高を表現できたような。

似たような感動が100円で手に入った。

もしドクターペッパーのアルコール版が出たら永遠に飲みたい。
毎時間は飲んでしまうだろうな。普通のドクターペッパーでさえ日に2回は飲みたくなるのに。

あの公園で身震いした日から、堀江にいくたび大量のドクターペッパーを買い占めるようになっていた。自転車で。またある日は電車で。

ドクターペッパー仲間

堀江に行く機会も無くなり、この大阪の街からも画伯ちゃんは3年弱消えた。
ドクターペッパーから縁遠い生活に。

晴れない顔をして、日々を過ごしていた。
たまに用水路を見ながら、ドクターペッパーの面影を探していた。

せめて空き缶でもいい。
売ってる場所を見つけたい。

缶が落ちていたら、その半径1キロ以内にはあると考えていたからだ。
画伯ちゃんはその頃、岡山県に住んでいた。

用水路が多すぎて探しきれなかった。
岡山県どうなってるんや。まじで用水路の無い場所が無いほどだった。

3年弱が経ち、大阪に戻ってきた。
1人では出かけられない精神状態。

外へなかなか行けず、ドクターペッパーを確保することは依然として出来ていなかった。

存在も忘れかけていたある日。
KALDIにドクターペッパーが売っているのを発見した。

狭い店内で小躍りの止まらない画伯ちゃん。
コーヒーを配るお姉さんが苦い顔をしていた。

別日に購入したドクターペッパーを１缶大事に置いてあった。
お守りかのように。

賞味期限ブチ切れていたけど、美味しく飲めました😂

生活感あふれるプロテインシェイカーに
注いで飲む画伯ちゃん。

またしてもKALDIで4缶買った俺は、その頃頻繁に通っていた障害者施設へ立ち寄った。
仲間たちにドクターペッパーの素晴らしさを伝えるため。

冷蔵庫に冷やしてスタンバイ。みんなが来たらグラスに氷も入れて飲んでもらった。不評だった...

悲しい。
あの日の蟻さんが、またこちらを見上げていた。

仕方ない。
好みはそれぞれだ。

そう思って、みんなのグラスを洗おうとした。
せめてもの償いだ。化学的な味をくらわせた償い。

グラスを回収していると

「実は僕も好きです。最近見つけて集めていました」

え！
まじ！？

寡黙な同い年の男性が、珍しく口を開き自分の意見を伝えてくれた。

俺たちは売っている場所の情報を交換しあった。
その手にはドクターペッパーの缶。

そして2人の短パンは濡れていた。
ドクターペッパー缶の表面液のせいか、性的倒錯による興奮のせいかはわからない。

皆さんもドクターペッパーを見かけたら、キンキンに冷やして飲んでみてください。

疲れ果てた夏の日にでも。
一瞬で飛び去れますから。

ちょっとこの世から消えてゆったりしませんか？

コカ・コーラ ドクターペッパー 500mlPET×24本

🥤おすすめは缶タイプです🥤

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