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緻密な論理的分析から溢れ出すヒューマニズム的な温もり(後編)ー17個の作品を読んで
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緻密な論理的分析から溢れ出すヒューマニズム的な温もり(後編)ー17個の作品を読んで

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(『あなたの人生の物語』が原作の映画『メッセージ』の挿入曲より)

この記事で、前編のテッド・チャンの小説集の全体的感想に引き続き、17個の小説のそれぞれの感想とおすすめのポイントを語りたい。ネタバレを含めずに書いたつもりでいるが、もし先入観を持たずに読み始めたい方いればこの記事をお読みになるのをご遠慮ください~

バビロンの塔

神の領域に届くバビロン塔を建造する人間たちが、その過程を通して悟りを開いた物語。テッド・チャンのデビュー作。この作品は没入型の体験作品だと思うので、ぜひ直接読んでほしい。

理解

ある薬を通して超人的な知能を得た人間の話。面白いことに人域を超えた人間は二つの方向へ分岐されるーー純粋な美学を信じる内向型と、人間の可能性を信じる外向型。そしてこの二つの分類は文中で相容れない存在となった。

ゼロで割る

夫婦双方が自ら信じて疑わないものが偽りで意味がないことを証明した、数学公式と夫婦の愛のアナロジーによって構成された絶妙な短編小説。

あなたの人生の物語

第二人称を使い、読者の感情に直接語りかけてくる物語。その中、映画より詳しく非線形言語の話が紹介され、エンディングも映画よりきれいに収まったと考える。ぜひ直接読んで感じてほしい。

七十二文字

二つの面白い舞台設定がある:1.精子と卵子はそれぞれ単独でも、一定条件下で成長できる生命体である;2.名前は物体に能力と特性を与えることができる。文中では、名前を与えることによってオートマシンを製作する技術者が、七十二文字をもって人間創りに挑んだ。果たして神様の真似事は成功できたのだろうか。

地獄とは神の不在なり

テッド・チャンはこれがSFではなくファンタジーだとカテゴライズした。舞台は、地獄と天国は実在し、自然災害として天使の降臨が人界に災難と幸運をもたらすように設置された。このような設定のもとで、敬虔な人間とそうでない人間たちはどの風に考え、どのような行動を取り、どのような結末を迎えたのか。テッド・チャンはさまざまな社会人間が仮定された状態下の行動と目的に注目し、非常に多い登場人物の心理的活動が緻密に論理展開された。

顔の美醜について――ドキュメンタリー

タイトル通りにドキュメンタリーの脚本と同じ形式を取った記録である。ルッキズム問題を解消するため、脳内に外見に対する評価能力を取り除ける装置の挿入技術が実際に使われるようになった。この技術が社会でいろいろな反響と議論を引き起こし、数多い人間のインタビューが時系列順に展開された。同じ命題に対する多様な立場を理解することができる作品である。

商人と錬金術師の門

イスラム物語式の構成が使われた物語。タイムマシンというあまりにもありふれたSF設定にもかかわらず、読了後物語の独特性が理解できる。決定論を承知したうえでも、物語中の人々は敬虔に神様(アッラー)と美徳を尊重している。あまりにも純粋で美しい魂に感動されるのであろう。

息吹

この話は、熱力学第二法則に対する一番詩的な解釈だと思う。

物語の言葉遣いがあまりにも美しく、あらゆる抽象化と帰納もそれに疵を負わせるので、ここで私に言えることは何もない。ぜひ読んでみてほしい。

予期される未来

『商人と錬金術師の門』と対照的に、決定論の悲観的な捉え方がされた話である。

ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル

17個の小説の中一番長い物語、まさにライフサイクルそのもの。親になった読者ならもっと共感と理解が得られるのだろう。

偽りのない事実、偽りのない気持ち

舞台設定に非常に面白い技術ー自然記憶を安全に代替できる記憶装置ーを議論した。記憶は認知科学の中で、意識と高等認知機能の土台となるもので、人間が思考と勉強活動を行う際必要不可欠な部分である。筆者は、記憶が完全に外部装置に任せた暁には、人間が人間たらしめるものが消えたと言えるのではないかと思った。面白いことに、こういった記憶にまつわる一般的な議論は物語の重点ではない。この話は、主に記憶装置が人間関係において果たした役割について検討し、記憶装置の人間が客観的に自分を省みるツールとして重要性を語った。賛成かどうかはさておき、極めて斬新的な視点なため、ぜひ読んで体験してみてほしい。

オムファロス

敬虔な人類は、人間が宇宙の中心ではないことを認識することで信仰の危機に直面した。しかし、主人公は神から与えられた意味がなくても、人間は自分の人生の意味を創り出すことができるというポジティブニヒリズム的な結論に至った。あなたは自分の人生の意義が何だと思っていますか?

不安は自由のめまい

平行世界の自分と通話することがサービスとして産業化された社会で、その技術がどのような心理的問題を起こし、またどうやって考えればその思考から脱せるのかを検討する物語。文中の例の中、平行世界の自分が幸運なことに嫉妬と不平の念をぬぐい払えない思考パターンや、平行世界の自分の正常な行為をもって自分の犯罪行為を正当化する考え方など、どれもとても興味深い。

人々をメンタリングする際核となるのが、環境要因が現実世界に及ぼす影響が一番重要だという命題である。『一か月前の酸素分子を一つ変えるだけで一か月後生まれた赤んぼをタイムラインごとまったく違うものにすることができる。」この技術によって心的問題がもたらされた人間は、因果律をもって世界を認識しているため、あらゆる結果に必ず相応な原因があると信じている。しかし、因果律は人間の限られた認知と論理の範疇でしか存在していなく、客観的物理世界は環境要因の極めてランダムな働き下で完全に知ることができない(限定合理性の考え方)。故に、平行世界の自分と全く同じ『原因=条件』をもっているなら、同じ『結果』にたどり着けるという演繹を行うことは人間にはできない。

大いなる沈黙

絶滅に瀕するオウムが望遠鏡を通して人間に最後の手紙を届けたという、テッド・チャンのロマンチックな部分が極限に体現された超短編作。その凝縮された言葉と概念を語るには自分の文字があまりにも貧弱なので、文章の最後の話を引用し自分の気持ちを伝えたい。

🌍 But before we go, we are sending a message to humanity.
...
You be good. I love you.

『大いなる沈黙』ーーテッド・チャン


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