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人並みの自信をつけたい┃整形アイドル轟ちゃん

整形したというだけで、「その前にできる努力があるんじゃないですか」「メイクでも変われますよ」と助言される。

整形した人は努力から逃げたと思われがちだ。一般的に、整形自体がすぐに可愛くなれる魔法のようにイメージされているからかもしれない。

しかし現実は、お金もかかるし痛いし失敗のリスクもある。努力してどうにかなる問題なら、きっとここまで整形は流行らない。努力してもどうにもならないことを無理やり変える力技が整形なのだ。

私が最初に整形したのは、まぶただ。小学生の時から一重で小さい目が気になっていた。斜めから見るとまぶたがブクっと膨れていて、眼球に重く被さって視界も狭かった。三白眼も相まって目つきも悪く、「睨んでいる」と言われ因縁をつけられたこともある。
  
初めて「アイプチ」を使ったのは小学6年生の時だった。のりをまぶたに塗り、「プッシャー」という二股の棒でまぶたを押し込み、皮膚同士をくっつけて強制的に線を作る二重グッズだ。

近所のドラッグストアまで自転車を走らせ、500円ほどで売っていた一番安いアイプチを買った。蓋がオレンジ、ボトルが黄緑で、パッケージに目のパッチリした女の子のイラストが書いてあった。

当時の私にとって500円は大金だったが、これで二重になれるならと期待に胸を膨らませて購入した。アイプチを使えば綺麗な二重になると雑誌にも商品説明にも書いてあった。インターネットでは継続しているうちに癖がつきアイプチをしなくても良くなったと書いている子もいた。夢のような道具だと思い、私は家に帰ってすぐに開封して説明書通りに使った。

しかし、結果は残酷だった。お小遣いをはたいて買ったアイプチはまぶたの上に汚く白く残り、くっつけたまぶたは突っ張って自然のしの字もなかった。まばたきをしても目が完全に閉じず、これで外に出ることなど不可能だと思った。

その後もそのアイプチで綺麗な二重を作るために試行錯誤したり、他のアイプチをたくさん買ったりした。白く残るのが嫌なので透明なものを買ったり、取れるのが怖いので強力なウォータプルーフのものを買ったり、アイプチがだめならばとアイテープやメザイクを買ったり、新しいものが発売されるたびに希望を託した。

おそらく世の中で売られているアイプチのすべてを、整形前に試したと思う。小学生の時にもらっていたお小遣いはほぼ全部そのために消えていたし、インターネットでの情報収集も欠かさなかった。

「二重 なる方法」で何度も検索し続け、出てきたマッサージ法などを印刷してファイルにまとめ、毎日やっていた。当時流行っていた「ふみコミュ」という掲示板サイトで「絶対二重になる方法を知りたかったらレスして♪」というスレが立つたびすぐさま「教えてください!」と書き込んだ。

そしてそこで得た方法は、どんなに怪しくても試した。輪ゴムに糸を繋げたものを両耳にかけ、糸をまぶたに食い込ませるという方法もやった。きつめに作ったその道具が明らかに目に悪いことはわかっていたが、毎晩必ずかけて寝た。
眼球は圧迫され寝ているときも痛んだし視力も下がったが、私は二重になるためならそれでもいいと思った。両親に「バカなことやってる」と言われても聞く耳を持たなかった。

大学に入ったタイミングで日常的にメイクをするようになったが、毎朝30分ほどの時間をかけて二重を作るのは本当に大変だった。メイクをする年になってもアイシャドウやアイラインが全く見えないので周りの女の子のようにコスメ選びを楽しむことはできず、毎日、芯の一番硬いつけまつ毛と二重グッズで何とか目の開きを良くしていた。

しかしそんな努力も虚しく、私が二重の線を手にいれることはなかった。もともと素質がなかったのだろう。私の家系は皆一重だったし、目が大きい人もほとんどいなかった。人生で初めての整形をする18歳まで7年程そんな研究と生活を続けた。

そして、大学一年生の夏休みに最終手段として整形をすることにした。

私は努力してもどうにもならないこともある、と身を以って知った。
あんなにたくさんのお金をかけてたくさん体に負担をかけて全身全霊の思いで情報収集をして、それでも二重になれなかった。

インターネットには「アイプチを数回しただけで二重の線がついた」と喜ぶ女の子は山ほどいたのに、私はその枠に入れなかった。悔しくて悔しくて、「私も二重になったよ!」と嘘を掲示板に書き込んだこともあった。たくさん時間とお金をかけて努力しても、私は報われなかった。努力の全てを終えた後の苦渋の決断が整形だった。

お金を貯めて痛みに耐え二重になった。これには7年以上の月日がかかっている。遠回りに遠回りを重ねた結果だ。決して「逃げ」ではない。

整形すること=努力を止めたと見なされることは多い。整形という行為がズルだと思う人がいるのは構わないが、整形と努力は両立できないものだと捉えられていることが、私はとても悲しい。

整形がきっかけになって人生立て直した人間がここにいるからだ。努力をしたいから整形した。整形しなければおそらく何も変えることができなかった。
整形は本来、逃げではなく救済策なのだ。使い方を誤ると足元を掬われることも、もちろんある。だがきっと整形によって幸せを掴んだ人たちは第三者が考えるよりずっと深く悩み決断している。

その一人である私にとっては、努力して努力してそれでもどうにもならない一部を補填してくれるのが整形だった、というだけだ。

「ブスは努力していない」「整形は甘えだ」などと言いたげな言葉が飛び交う世の中だが、そんな言葉に惑わされて、自信を失ったり怒らなくていいと私は伝えたい。

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今日から本の発売日まで、少しずつ本に書いたことや、本には入りきれずカットしたことも含めてnoteで更新していきたいと思います。

意図せず「可愛い戦争」に巻き込まれてしまった私たちが、どうにかしてそこから抜け出す術を精一杯伝えられるように、映像ではなく、外見の情報が邪魔しない、文字の世界を選びました。

「可愛い戦争」についての体験談や整形に関して皆さんが疑問に思うことなど、よかったら教えてください。

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(続きは、こちらから)

轟ちゃん 表紙改

12月19日発売
イラスト@おさかなゼリー

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