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任天堂「Wii」のあの広告はどのようにして生まれたのか #2 勝てるデザイン

元・任天堂のデザイナーで、現在はオンラインコミュニティ「前田デザイン室」代表として活躍中の前田高志さん。そんな前田さんの著書『勝てるデザイン』は、「Illustrator時短術」「おすすめフォント3選」などデザイナー必見のテクニックはもちろん、「ダサいデザインはなぜ生まれるのか」「プレゼンはラブレター」など、デザインを武器にしたいビジネスパーソンにも役立つ内容。そうそうたる著名人からも称賛の声が届いた本書より、一部を抜粋してご紹介します。

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つねに「童心」を持とう

僕は「つまらない仕事はこの世にない」と思っています。誰も見ていないであろう露出が小さい仕事や堅苦しい決まりきった仕事も、面白く変えてきました。そのために意識してきたことが一つあります。

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「常に“童心”を持つ」ということです。

童心――子どものような純粋無垢な心。文豪・武者小路実篤はこう言っています。

幸福を感じるのには、童心とか、無心とか、素直さとかいうものが必要である」

僕は、仕事は楽しくやるべきだと思います。幸福を感じるものであるべきだと思います。

AI技術の進化とともに人の仕事が減り、仕事と遊びの垣根がなくなる時代がもうすぐやってきます。そんな時代を生き抜くには、すべてのことを楽しむ力、遊び心を突き詰めることがより大切になってきます。

つまり、大人にこそ童心は必要なのです。

ここでは、仕事に童心を活かすとはどういうことか、僕の経験を交えながら話をします。


任天堂時代。Jリーグ京都サンガのオフィシャルイヤーブックに掲載する広告デザインを担当することになりました。

2006年にゲーム機「Wii」が出た直後だったから、広告としてはWiiの写真を出して本体価格を書くぐらいでも本当は許されたでしょう。でも、それだけじゃあつまらない。何か面白いことがしたくなりました。それでいて、ちゃんと宣伝になるものを。

そこで、選手やコーチの集合写真を取り寄せ、Mii(Wii等の中で顔のパーツを組み合わせて似顔絵を作る機能)で、全員の似顔絵を作り、広告にしました。それが似てる似てないとファンの中で話題になり、結果的に面白さと宣伝を両立させることができました。任天堂時代の僕の仕事の中でもベストワークの部類に入ると思っています。

そんな具合に、どんな仕事であっても面白がるコツを見つけるようにしてきました。でも、僕だって最初からそうだったわけではありませんでした。というか仕事を面白がることができなかったことなんて、誰にでもあるのではないでしょうか?

仕事をもっと面白くするには

僕の会社、NASUでこんなことがありました。

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ある時、和泉市議会議員の井阪ゆうたさんの名刺のデザインを僕の会社に依頼していただくことになり、社内コンペの結果、僕とデザイナーの水上肇子さんの案が採用となりました。名刺のデザインを最終調整するまでのやりとりの中で、依頼主である井阪さんからいくつかオーダーがありました。

井阪さん曰く、

「名刺のコピーを力強く改革感のあるように見せたい」と。

水上さんは最初は、力強さを感じるフォントをいくつか提案しました。しかし、何度かやりとりを重ねるうちに、井阪さんから、

「カラーにするとおかしくなりますか? 燃え上がるものをコピーで表現したい」

とのオーダーがありました。

すると水上さんは、

「この名刺の見所は表面の大きい名前にあるので、裏面は堅実で真面目な印象のデザインの方がメリハリが効いていいかと思います。ですので、キャッチコピーはあまりデザインを盛らずにいく方がむしろストイックに見えます

と説明し、井阪さんも納得してくれました。

一見問題のないやりとりに見えるかもしれませんが、僕は良くないと感じました。

デザイナーの仕事は、ビジュアルでクライアントの思いを形にすることです。水上さんは経験のあるデザイナーだから、「こうした方がよく見える」という答えが見えています。だからそう提案できるのですが、クライアントはそうではない。それは当たり前の話です。

だからこそ僕らがいるわけで、見えていないところをビジュアルで示して、同じものが見えている状態にして選んでもらうのです。

「こうしたらどうなりますか~」の提案が、たとえ良くならないと思っても形にしてみる。それを見てもらえたら「なるほど良くないですね、やめます」となるかもしれないですよね。あるいは、クライアントから言ってもらったことがヒントで、さらに良くなることも多いです。

それが、デザインの楽しみどころだったりもします。

社内で水上さんに尋ねたところ、

「際限なく修正が続く気がして防衛してしまった」と言っていました。

この気持ちは、わからなくはない。

でもそういう対応で作ったものは、それまでにしかならない。クライアントも、心の底からは納得できていないかもしれない。

何よりデザインしている本人が仕事を楽しめていない。これでは仕事が面白くなりません。仕事をつまらなくしてしまっている。

水上さんが素晴らしいのは、僕が指摘してからの改善がとにかく早かったこと。

「一緒に作っていく意識じゃないとダメですね……心を入れ替えます。もう一度提案します」と言って、すぐさま提案してくれました。

井阪さんにも熱が通じたのか、追加の提案を面白がっていただきました。最初のなんとなく着地した案よりも、はるかにフックがあって、井阪さんが望まれている「力強く改革感のある」名刺に着地しました。

これぞ仕事を面白がる姿勢だと僕は思います。

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