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便利屋修行1年生 ㉓引っ越し作戦 連載恋愛小説

「今のキャラは作りものです。母から解放されて、なりたい自分になりたくて、せいいっぱい背伸びした」
「そうか?俺より人望あると思うけど」
フタを開けてみたら、引越しの手伝いがギョッとする大所帯で、またたく間に完了。流れるようなチームワークに、綾はお口あんぐり。

フツーに業務でやってっし、と秋葉。
「表向きは便利屋さんだもんね」
「そーそー。所長は闇社会のフィクサーで…って、オイッ」
夫婦漫才みたいになり、秋葉の彼女だと誤解される。

「殺気が隠せてません。慶さん」
「気のせいだろ」
秋葉と沢口もいいコンビだ。
冷静なくせして血の気が多いんだよねー、と秋葉が綾にささやく。
殴られないよう、すばやく後ずさる動きがコミカルだ。

***

契約更新のタイミングで、一緒に住まないかと沢口に誘われていた。
「ダメです。同居人いるんで」
「は?」
「覚えてないですか。多肉ちゃん」
やっと叶った一人暮らしを満喫したいと宣言していた。
「紛らわしいわ。うれしそうに振るな」
そうやって、さりげなく気持ちを尊重してくれる。

「なに思い出し笑いしてんの」
「うん。やっぱりかっこいいなあって。あ、顔だけじゃなくて、存在?ご両親の神DNAに感謝です」
オタク口調に引かれたかと、綾は首をすくめる。
「ホテル行く?」
スープにむせて、おぼれ死ぬかと思った。

引っ越し部隊をねぎらうべく、所長御用達ごようたしの中華屋さんに団体予約していたのだ。
「集中してください。ラーメンに」
綾の器からチャーシューを奪って口に放り込み、麺を勢いよくすする。
ラーメン屋で求愛しといて、とブツブツ言っている、この唐突な少年っぽさも趣深い。

(つづく)

#私の作品紹介 #賑やかし帯 #恋愛小説が好き




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