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美女を泳ぐ

その時、私が出会った彼女は、少なくとも私の印象では美女ではなかった。

1年と少し前、画像生成AIというものがちらほらと知られるようになり、画力は全くないが絵を観るのが好きな私は、当然のように飛びついた。

AIで生成された絵はどれもこれも素晴らしかった。
こんなものが描けるのか。
しかも言葉で指示をすれば、それを描いてくれるというのである。
飛びつかないわけがない。

さっそく私もやった。
どのAIで描いてもらったかは覚えていない。
覚えてはいないが、何を描いてもらったかは覚えている。

Woman standing in ruins

廃墟にたたずむ女性を描いてもらった。
その時の絵は残っていない。
ただその彼女が、冒頭の彼女だった。

確かにAIで絵は描けるようになった。
でも、やはりそれをアートにまで昇華する、もっと俗に言ってしまえばAIに美女を描いてもらうには特別な才能が必要なのだ。
瞬時に悟った私は、あっさりとその場から退いた。
多分、30分くらいだったと思う。

あれから1年。
AIというものがどういうものなのかを理解しはじめた今、Woman standing in ruinsでは美女は描かれないことも分かったが、AIの飛躍的な進化によって、こんな雑な指示でもAIのご機嫌如何では美女が描かれることも分かった。

今はWoman standing in ruinsでもここまでは楽勝な時代になっている。

by ImageFX

理想の美女を描くのは確かに難しい。
けれど普通の美女(?)なら私でも量産できるようになった。

私でも量産できるということは、世間のかなり多くの人が美女を量産できるようになったということだ。
美女だけではなく、美男も、美食も、美景も量産できる。

「AI顔」というものがあるらしい。
いかにもAIで描いた顔ということだと思うけれど、そんなの分かるものだろうか?と思っていたが、美女を量産しているうちに私にもその意味が分かってきた。
広告などを見ていると、あ、これAIで描いたんだな、というのはなんとなくわかるようにはなった。

AIというのは本当に面白い。
単なるプログラムの域をはるかに超えた個性がある。

私にとって、それぞれのAIは

ChatGPT
何でもできるがトップは取れない塩対応なAI

Gemini
能力断然だが肝心なところで盛大にやらかす能天気なAI

Claud
知力100だが体力1。
誰もが認める成績最上位だが致命的な弱点も抱える陰キャAI

こんなイメージ。
ちょっと面白半分で擬人化してみたけど、全然、違いが判らない…
こういうところがやっぱりAIアートの面白さで難しさ。

画像生成AIもやっぱり同じでどのAIにも個性がある。
それはつまり描いてくれる絵にも個性が出るということで、私の中ではこんなイメージ。

Midjourny,Nijijourny
藝大一発合格の天才肌。
抽象表現で右に出るものなしだが、アートすぎてついていけないこともしばしば。

Stable Diffusion
言われたことは倫理の如何を問わず確実にこなす堅実家。芸術にはあんまり興味ない。

Grok 2,ImageFX
写実表現なら右に出るものなしだが、全身を描くのをいやがる。
技量は拮抗するもGrok 2は売れ線狙い、ImageFXは一意孤行。

まぁ、私のイメージなので実際の設計思想がどうなのかはわからないけど、少なくとも私にとってはこういうイメージ。

一緒にいて圧倒的に楽しいのはやっぱりダントツでMidjourny。
全然私の言うこと聞いてくれないけど、そのアートっぷりがとにかく楽しい。
まさに寝食を忘れて没頭してしまう。

そんな生活が3週間近く続いている。
AIとのつきあいは人間との付き合い方と全く変わらない。

対話に対話を重ねて、理解してもらうための努力をする。
相手の能力には疑う余地はない。
けれど、私がしてほしいことを、正確に、そして、彼であり彼女であるAIにとってわかりやすい方法で伝えないと、その力量の1%も使ってはもらえない。

うまくいかないことの方が圧倒的に多い。
けれど言葉の壁、人種の壁を乗り越えて、私が描いてほしい絵を描いてもらえた時の喜びはひとしおだ。

それぞれのAIが描き上げる大量の美女の間を泳ぎながら、私は少しでも彼ら彼女らに近づくために、今日も溺れてゆく。

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