トウキョウ

私は今、新幹線で東京に向かっている。東京に一人暮らしのアパートがあるわけだが、社会人になるタイミングで上京して以降、どうしても東京に「帰る」であったり「戻る」という感覚にならない。

新幹線に乗る前に買ったエッセイを読みながら、将来エッセイを書いて食っていけたらどれほど幸せだろうかと、エッセイなんて滅相もないこれまでのありふれた経験と貧乏なボキャブラリーをカバンに詰め込んでいると、まもなく東京のアナウンスが鳴った。

新幹線のJR連絡改札を通ると、ユーラシア大陸の極東に位置する小さな島国の首都のキャパシティが心配になるほどの大量の人。そして迷える彼らを各路線へと導く、サクラクレパスかと錯覚するほどカラフルな案内。東京である。

東京には大量の人がいて、沢山の路線、そして人生の選択肢があるわけだが、どうも多くの人が新自由主義を旗印に競争させられている。就活というレースが終わり、卒業旅行を楽しんだ矢先、なんの準備も目標もないまま今後何十年と続くであろうサラリーマンレースの開始を合図するピストルがぶっ放された。

サラリーマンも悪いものではない、レースと言っても、走るためのトラックは準備されており、前を走っている年上のランナーを参考にすれば飯を食っていける。前を走るランナーが引っ張りながら走ってくれたり、早すぎて見えなくなってしまう不運もあるかもしれないが、このレースは基本的に至極単純である。私にはそのレースから降りる勇気もないので、明日からもまた走り慣れたトラックを走る。

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