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【04】 11月24日インタビュー未掲載分/「学校生活、見えにくさと自分の気持ち」

 前回【03】 11月24日インタビュー未掲載分/「学校生活、体育と外遊び」の続きで、見えにくさについて話してもらっていました。

 編集後記にもあるとおり、普段の様子からは生駒さんが見えにくさを抱えていると、あまり感じられません。そしてそうだと知っていても、それがどんなものなのかは本人以外になかなかわからないものです。お互いの違いに気づけない、知っていたとしても、どう違うのかはよくわからない。そういう中で発信できない感情や要望を抱えている人は、想像以上に多くいるのだろうな、と話を伺いながら考えていました。
 取材を始める前には気づきようのなかった生駒さんの思いや感情が垣間見えた、とても貴重なインタビューとなりました。


g:アルビノ当事者の多くがロービジョンで、生駒さんもだよね。学校生活の中で困ることもあったんじゃないの?

夢:幼稚園生ぐらいまでは全然意識してなくて、小学校に上がる時ですね。周りの大人たちがしてくださる配慮があって「あ、私そんな大丈夫やけど」みたいに思ってました。問題ないけどな、と思いながらもその配慮の姿を見て「あ、私見えないんだな」っていうのに気づき始めたと思いますね。

g:その頃はまだ「見えにくくて困るな」っていう感覚はなかったんだ。

夢:なかったです。「ここまでしてくれなくて大丈夫なんだけどな」って思ってました。

g:具体的にどんな配慮があったの?

夢:拡大教科書(※1)を作ってくださったりとか、プリントを拡大コピーしてくださったり。あとは出席できない体育の時間に単願鏡の使い方を教えてもらっていたんですよね。「なんか別にいらんのにな」と思って。


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g:単眼鏡は黒板を見るために?

夢:黒板を見るのにです。小学校の時は使う時もありましたけど、使いたくなくて。使ってなかったですね。

g:一番前の席に座らされてたんだよね?

夢:そうですね。だから単眼鏡を使うなら前じゃなくてもいいじゃん、ってなって一番前の指定がなくなったんですよね。ずっと一番前に座ってるのが嫌で、単願鏡があるから大丈夫って言って席が自由になって。でも単眼鏡使わなかったですね(笑)。

g:でも見えないんでしょ(笑)。

夢:(笑)。どうやってたんだろ、見えてたんですかね?よくわかんないですけど、なんとかやってましたね。とりあえず目立つのが嫌で。単眼鏡を自分だけ使うとか。

g:それで勉強についていけたの?

夢:中1くらいから、ついていけなくなりましたね。中学では一応「見えにくいです」ってことは伝えて、席だけ前にしてもらってました。プリントを拡大してもらったりもしてましたけど、でもあれって正直、配慮の気持ちはありがたいんですけどほとんど意味ないんですよね。例えばA4のプリントをB4にしてもらったところで、一文字当たり大きくなるサイズって微々たるもので。その程度大きくなったところで見えないなって。でもしてもらってるから「ありがとうございます」って言うんですけど、なんかそこは申し訳なかったですね。すみません、みたいな。

g:本当の希望は言えていなかったし、必要なところまでは行き届いてなかったんだ。

夢:そうですね、言ってなかったし自分が。

g:「これじゃ見えないんです、意味ないんです」とは伝えられていなかったんだね。

夢:伝えづらかったですね。だってやりようがないし。そういう配慮に対してありがたいなとは思ってるし、これ以上言うのもな…と思って。自分だけ配慮してもらってる時間とか絶対、先生らも忙しいやろうに「あ、生駒のプリント忘れた」っていって戻って拡大コピーして持ってきてくれたりとか、そういう時もあったんですよ。申し訳ありません、みたいな感じでした。

g:でも結果として、本来必要な希望を伝えなかったことで、勉強についていけなくなっちゃうわけだよね?

夢:全然わかんなかったですね。興味もなかったし(笑)。多分そっちかもしれない、視力関係ないかも(笑)。テスト前とか自分なりに頑張りはしたんですけど、そもそも毎日の授業で積み重ねたものもなかったのかな。視力関係ないですね。弱視でも賢い子はいっぱいいるし。それも自分次第で、その時は頑張らなかったんだと思います。

g:とにかく目立つこと、 自分の要求を言うのが苦手だったのかな。

夢:そうかもしれないです。

g:話を聞いてると「勉強ができなくてもいい、見えにくくてもいい」と思ってたわけでもないのかなと思うんだけど、やっぱ主張するのが苦手なのかなと。

夢:うん、そうですね。「場が丸く収まればいいや」って思ってしまうので、なんか自分がどうこうとかいうの苦手ですね。たぶん。

g:勉強ができなくていい、と思ってたわけじゃないんだよね。

夢:それはそうです。「はっきり見えていればな」って常々思ってましたね。

g:でもそれは難しいし、一方でそれで目立ってしまうのも嫌で勉強についていけなくなっちゃう、っていう事態になっちゃったけど、それはもう結果として仕方ないなと。そんな感じで受け入れてたのかな。

夢:そうですね、もう全然開き直ってましたね(笑)。あんまり何も思わなかったから、 少しは思えよって(笑)。

g:その頃はもう音楽に興味あったの?

夢:はい。もう音楽あるからいいやって思ってました。中学の頃から音楽やりたいっていうのがあって音楽高校に進学しましたから、勉強の方はまあいいか、と思ってました。怒られるわ(笑)。今でこそ音楽をやるにも他の教養が大事、っていうのはめっちゃ納得するんですけど、その時はわかってなかったですね。音楽だけできてたらいいやって思ってました。今になって勉強もやっておけばよかったって。やろうと思えば絶対できましたよ。やらなかっただけ(笑)。

g:その時はなかなかわからないよね、仕方ないんじゃないかな。


 文字を読むだけでなく、自分で書いている字もよく見えない。だから文字を書くのが苦手、人前で書きたくないという人もいます。「見えにくい」とわかっていても、「どんな見え方をしているのか」は本人以外によくわからないし、それによってどういう状況に置かれるのかも、やはりわかりかねるものです。「言ってくれればいいのに」と思う人もいるでしょうが、自分の要望や感情を臆せず発信できる人ばかりではありませんし。

 一見困っていないように見える生駒さんにも、なかなか人には伝わらないけど実は困ってしまう状況、外には出せないけど抱えていた感情があるのだとわかりました。そしてそういう人は、きっと想像するよりずっと多くいるのだろうなとも感じます。
 ひとりひとりの抱える気持ちや困りごとを「なんとかしてあげたいから全部聞かせて欲しい」なんていうのはあまりにも傲慢だし、本人にも発信しない理由があるのでしょうから、それは尊重されるべきです。ただ「外に出さない、出せない感情や置かれた状況」があると気づけたこのインタビューはとても貴重な機会だったと思うのです。

 未掲載インタビューは次回で完結です。「調律を学ぶ」は5月10日頃の更新予定。

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