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源ちゃん昔の思い出_リゾートマンション

#源平師匠の寄席だより #リゾートマンション #林家  源平 #古典落語 #創作落語 #地方 #マンション #田んぼ

 新しく作った落語を、東京の寄席で発表する。

「僕は愛媛県の宇和島生まれで、宇和島って知らないでしょう。あの春の甲子園で優勝をし

た、宇和島東高校のある所。まあー、悪い人間は一人も居ません。みんなイーストなんですネ。そこは、もう暗い農村ですよ。コメの値段が安すぎるんです。一俵60kgが一万七千円しないんですよ。お客さんも寄席に来て、米の値段を聞こうとは思わなかったでしょう。まあ聞いて下さいよ。田んぼで米を作っちゃいけない。減反でがんばんなさい。えー、減反じゃがんばれません。ガンバレ、ガンバレ、ゲンタン、なんですよ。だから日本の政府は、アメリカに飛んで米の問題について、もう少し大統領に、ブッシュしないといけないんですよ。」

 こんな落語を高座で喋っていた日、楽屋に僕を尋ねて来た人が居た。

「源平師匠、我々の仲間、東北の農村部へ講演に来て頂けないでしょうか」

と頼まれたので、僕は引き受けた。

 当日、新幹線に乗り込んで、宮城県の農業試験場に着いた。

 三百人位のお客様の前で、僕の育った広見町の子供時代をパロディで噺をすると、会場の

 人達に大変に共鳴受けたのだ。



二時間近く講演をして、東京へ帰ろうとしたら、僕に仕事を依頼した人に、

「源平さん、もし何も無いのでしたら、汚い家ですが、ぜひ泊まってくれませんか」

 と誘われたので泊まる事にした。



その人に家に行くと、汚い所か新築の二階建てビックリした。

東北は雪の降るせいなのか、僕の田舎のような平屋は少ない。

それと、風土の違いか、子供が大人になって結婚をしても、両親と一緒に同じ屋根の下で暮らしていた。

応接間に案内されると、一人のおばあちゃんがサブトンに座っているので、

「おばあーちゃん、お世話になりますよ」

「まあ、ようこそ。こんな田舎まで、東京の芸人さんに来てもらい、名誉なことですよ」

と、頭を下げる僕におばあちゃんは、ヨイショをするので、

「おばあーちゃん、七十歳位ですか?」

「おっとォー、そんなに若くないよ。八十歳を過ぎとるよ。やっぱり、落語家の先生は、口がうまいもんじゃ」

と、僕の言葉におばあちゃんは、こうきり返したのである。

すると息子夫婦が大笑いをして、一遍に和やかになった。

こんな感じで、初めて会った人達と酒を飲みながら、農村生活を話し合った。

「まあー、農村は贅沢になりましたネ」

「そうですよ、一家に何台も車があって、どこへ行くにも歩かないから、東京の人達より、足腰が弱くなってねー」

「仕方ないですよ。道路が良くなって、便利になってんだから」

「それも考えもんじゃ。次から次へ大きな建物が出来て、人間が住むようになって来たんだもんのう」

「いい事ですよ。人が集中してくるのは」

「そうかのォー、マンションだ、ゴルフ場だと出来てらに、緑がすくなってのう」

と、話していく内に、やっとこ東北に住んでいる人々の気持ちが解った。

 それは、ホテルとかマンションを建てる為に山をくずすので、緑が少なくなって来たという。

 緑を残そうと予算を使いながら、片方では発展の為にと家が建つのだ。

 自然が壊されていくと、山の木が無くなり、土砂くずれが起きたり。そして緑が少なくなって、小鳥が居なくなったから、害虫が増えたと言うのだ。

 すると、おばあちゃんが、

「昔はよかった。この一帯には、ホタルがよく飛んだもんだったがのう」

と、さみしそうに言う。僕が、

「こんな田舎ですよ、ホタルぐらい飛んでくるんでしょう?」

「それがのう。農薬を使うせいか、ホタルが死んじゃったんじゃよ」

と、おばあーちゃんから聞かされたて、とても考えさせられたのであった。

僕の田舎、広見町での子供時代には、

「ホーホタル来い。こっちの水は甘いぞ、あっちの水は苦いぞォ」

と、唄いながら、無数のホタルが観れたものだ。

あのホタル達は、今でも気持ち良さそうに飛び続けているのだろうか?

ふと、この小さな動物達の事が、東北の空の下で心配になって来たのであった。

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