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苗定植時のペットボトル滴下灌水 滴下水量の測定と予測式 by 前中久行(GEN代表)

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 中国現地で小穴をあけたペットボトルに水をいれて埋めるという灌水方法がおこなわれています。面白い発想で理にかなっているとも思えます。また水の量が足りるのか不安も残ります。活着率への効果の確認は中国国内の情報や現地での実施経過の蓄積を待たなければなりませんが、水の滴下量について測定して、予測式をつくりました。
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 今年の春の現地訪問時に、昨年の春に植樹現場で新しい灌水方法がおこなわれたことがわかりました。現地から写真を送ってもらいました(写真)。使用済みのペットボトル(以下ボトル)に水を詰めて背負って運んでいます(写真)。ボトルに小穴をあけて埋めておくと水が滴下して活着が良くなるというのです。理にかなっているようにも思えます。いっぽうで水の量は足りるのかとも思います。

 樹木が育つ可能性があるのは年降水量がギリギリで 400 mm 以上と私は思っています。写真では埋めているのは 600 ml 程度のボトルです。仮に直径50 cm の植え穴の面積で割り算すると降雨量わずか 3 mm 相当にしかなりません。根が地中の保水部分に到達するまでの期間ボトルが水を供給し続けられるのでしょうか?  不安に感じます。

 つれづれなるままにボトルからの滴下水量を測定してみました。580 ml のボトルを使いました。小穴をあけたボトルに水をいれキャップを閉めて静止状態に置いて、毎日午後20時頃にキッチン秤で重さを測定し、その減少重を滴下水量としました。穴の大きさと水量の関係も気になりますので、太さが異なるピンやクギで穴の大きさが異なるボトルをつくりました。直径 4 mmでは水を保つことはできますが測定のための移動時の振動で水漏れがおきて、測定値の安定性に?が残りますがそのままデータとしています。

 当初は、ボトルがほぼ満水状態から測定を始めました。しかし穴の小さなボトルでは数日たってもほとんど水の滴下がありませんでした。ボトル上部の空隙部分の空気の膨張で水が押し出されていると気づいて、減水して空隙容量が大小異なるボトルを設けました。空隙を増やしたボトルでは滴下量が増えました。また気温の較差が大きい日は滴下量が多く、小さい日は滴下量が少ないことに気づきました。温度差によって空隙空気の膨張に差ができると考えて、気象庁の近傍観測値の各測定日(前日午後20時から当日午後20時までの)の最低気温とその後の最高気温の日較差を計算しました。

 様々な、空隙体積:v [ml]、温度較差:t [℃] 穴の面積:p [mm2]の組み合わせで滴下量:w [ml / 日]を測定しました。
滴下量との単純相関係数は、空隙体積:0.340 温度較差:0.347 穴面積:0.653でした。これらを用いた滴下水量の予測式は、
 
  w = -3.160 + 0.005531 * v * t + 3.303 * p
となりました。

 滴下水量は空隙量と気温較差の積に対して係数 0,005531 の比率で増加し、これとは別に穴面積に対して係数 3.303 の比率量が浸み出すと考えています。予測値と実測値の関係が、図1です。両者の相関係数は 0.830 です。穴面積別に色を変えて表示しています。穴面積が大きな場合測定値が予測値よりも大きいケースが多いですが、これは前述の測定時の振動による水の漏れ出しを含む数値をそのまま使っているためでしょう。

 今回の測定と予測式の演繹によって次のようなことがわかりました。
・穴が小さい場合でボトル設置後すぐから水の滴下を期待するためには150 ~ 200 cm3 程度の空隙を設ける ただし総滴下水量は少なくなります
・滴下水量は空隙体積と日温度較差の積 v・t にほぼ比例して増加します
・v・t が大きい場合、穴の大きさによる滴下水量の差は小さいです
・穴が小さい場合、v・t が小さいと滴下水量は少ないです
・穴が小さい場合、気温日較差が小さいと滴下水量は少ないです
・穴が大きい場合、v・t が小さくても少しは滴下します
・滴下水量は日数とともに指数関数的に増大して、増加後短期間(10数日程度)で水がなくなります
・容器自体の大きさは日々の滴下水量と直接関係ないと思われます。別途、大きな 2000 ml ボトルでも、一例ですが測定しています。累計的な空隙体積 = 滴下水量は、ボトルサイズにかかわらずほぼ同様で容器の大きさは影響がないことがわかります(図2)。

 以上は定性的な表現になっていますが、予測式を使うと具体的な条件における滴下水量が計算できます。滴下水量を日々積算するとボトルが空になるまでの日数がわかります。また予測式をv = の形に変形して、t と w を仮定すると w を滴下するための空隙体積 v がわかります。

 ボトルからの水の滴下特性についてはおおよそわかりましたが、このような水量で植樹に効果があるのかどうかは確信できません。中国国内の情報や現地での実施経過の蓄積を待つことにします。

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